大食いの二人
この小説は『悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした』と同じ世界観のお話です。
応接間に戻った俺は、目の前の光景に唖然とした。
料理を平らげた後の空いた皿が、夥しい数の山を築いていたのだ。
「……誰がこんなに……」
少女四人は席に着いて、食後のお茶を飲んでいたのだろうが、驚きのあまりその手が止まっている。
部屋の壁際に佇んでいるネオも、少々目を瞠っているので、彼女なりに驚いているようだ。
彼女達の視線の先では、フィアとルーナが競うように、一心不乱に食事を続けている。
その食べる速さは尋常ではない。
「……フィアはいつもこうなのか?」
ネオの隣に移動して小声で尋ねる。
彼女は一瞥をくれ、答えた。
「沢山食べないと生きていけない訳じゃないけど、美味しいものには目がないのよ。放っておくと無限に食べるわよ。それと、獣人の胃袋も人間の数倍あるって聞いた事があるから、ある程度で止めないと、城の食料庫が空っぽになるかも」
城の食料庫には、帝国内のいずこかで干ばつや飢饉、災害などが起きても対応できるようにと、皇帝の命令で常時数千人分の食料が備蓄されている。
それが空になるだなんて、流石にあり得ないと思う一方、彼女たちの食べっぷりを見ていると本当に食べ尽くしてしまいそうな気がして、俺は二人に声を掛けた。
「おい、そろそろ良いか?」
ピタと手を止めて俺を見る二人。
フィアが不愉快そうに眉を顰めた。
「食事の邪魔すんじゃねぇよ」
「……被害者である彼女達に食事を出すようには言ったが、お前をもてなすとは言っていない。金を取るぞ」
真顔で言ってやると、フィアは一瞬固まって、それから露骨に「しまった」という顔をした。
「ネオ! 言質はっ?」
相棒を振り返るが、彼女は首を横に振る。
「残念だけど、ソイツが正しい。被害者の少女達が空腹だからと食事を用意するよう召使いに命じていた。フィアは被害者じゃないから、本当はその食事に手を出す権利は無い。食事代を請求されたら払わないと」
「はぁっ? ネオ! わかっていたんなら何で止めてくれなかったんだよ!」
「止めようとする間もなく食べ始めたんだから仕方ないでしょう?」
喧嘩を始めそうな勢いになってきたので、俺はコホンと咳払いをした。
「今ここで大人しくするなら、特別に今食っていた分までは請求しないでやるぞ」
フィアはピタッと動きを止め、すんとした顔になってネオの隣に移動した。
「よし……で、ルーナ、ちょっと来てくれるか?」
「え、わ、私?」
「ああ。そろそろ事情聴取が始まるんだが、一人一人順番にやっていくから時間がかかる。その間に、お前には会ってほしい人がいるんだ」
先程玉座の間を出て行った皇帝直属の騎士団長、副団長が、そろそろ魔術師の派遣手配を終えてこちらに来る頃だろう。
帝国には魔術師団が存在する。
筆頭魔術師は不在だが、それなりに仕える奴らだ。
ちなみに、筆頭魔術師となるには、ある一定の魔力量と、あるレベル以上の魔術が使えるという事が必須条件になるのだが、その二つを満たす者が、今の帝国には皇帝と俺以外に存在しないのである。
「おい、ルーナをどこへ連れていく気だ?」
「ちょっとな。無事にここへ戻って来ると約束してやるから、お前達はここで待っていろ」
「それはできないわ。そこまで貴方を信用していないから」
ネオがぴしゃりと遮る。
だがこちらも、盗賊を皇帝に会わせる訳にはいかない。
フィアは攻略対象の一人であるが、「花嫁の座に執着するぎらついた眼が怖い」と言う皇帝にとって、権力に執着はしていないとはいえ、こんな気の強い女は論外だろう。
「じゃあ、廊下までだ。それが最大限の譲歩。それ以上は駄目だ」
「……わかった。良いだろう」
何か考えた様子のフィアが頷く。
俺はルーナとフィアとネオを引き連れて、再び玉座の間へ向かった。
その途中で、ネオの顔色が変わる。
「……ねぇ、まさか、ルーナに会ってほしい人って、皇帝じゃないわよね?」
「……そのまさかだ」
できれば、皇帝に会わせる事は伏せた状態でルーナを玉座の間へ連れて行きたかったが、そこまで明確に聞かれてしまっては誤魔化しようもない。
「えっ! 皇帝って、この国の一番偉い人でしょ? 何で私が?」
「えーっと、今回の事件の件で皇帝陛下も被害者の話が聞きたいと言っていてだな……」
「まさか、ルーナを皇帝の花嫁にするつもりじゃないでしょうね?」
気負わせないように言葉を選んでいたのに、それをネオが一刀両断する。
俺の気遣いを返せ。
「花嫁? 何それ、どういうこと?」
「良いから、とりあえず皇帝に会ってみてくれ。その後のことは皇帝陛下が決める」
「勝手に決められても困るんだけど……」
「本気で拒否するならばそれは尊重する。だが、まずは会ってからだ」
俺がそう言った時、丁度玉座の間へ到着した。
「約束通り、フィアとネオはここで待機していてくれ」
二人が小さく頷いたのを確認し、俺はルーナを伴って玉座の間へ足を踏み入れた。
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