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不穏の気配

この小説は『悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした』と同じ世界観のお話です。

 説明を求めて団長達を見ると、副団長が経緯を説明してくれた。


 曰く、帝国の領地の南西に隣接している国、ウェスタニアで、妙な動きがあったそうだ。

 帝国に所属していない国であるため、内情の詳細まではわからないが、どうやら公爵家が失脚したらしい。


「ウェスタニアの公爵家って、いずれも王妃を出していたり、王女が降嫁していたりして王族とも繋がりが深いはずでは?」

「ええ。失脚……というか爵位剥奪となったのはベルフェール公爵家なんですが、何故そのようなことに至ったのかがまだ調査中でして」


 副団長は歯切れ悪く告げる。


 ウェスタニアで公爵位を持つ家は三つだけだったはず。

 そのうちの一つであるベルフェール家は、確か第二王妃の実家だ。余程のことがない限り、爵位が剥奪されるなんて考えられないのだが。


 俺の思考を読んだ団長が、言葉を選ぶようにしながら補足する。


「まだ確証はありませんが、爵位剥奪となる少し前に、正妃殿が謎の病に倒れたという情報が入っています。もしかしたら、それがベルフェール公爵の差金だったのかもしれません」


 なるほど。確かに、第二王妃を輩出した公爵家が、更なる権力を欲して正妃を亡き者にしようとしたとしたら、それが露見して爵位剥奪となったとしても頷ける。


「まぁ、ベルフェール公爵家は元々きな臭い噂が絶えない一族でしたからね。帝国内の闇商人と繋がっていて人身売買などで財を成しているとか」

「人身売買?」


 その単語に引っ掛かりを覚える。

 俺が先程行って少女誘拐事件に出会したブルーバード公国は、ウェスタニア王国と隣接している。


 少女達の話では、誘拐犯である神父は、自分達を売るつもりだと言っていたという。


 このタイミングでその話は、偶然とも思えない。


「……実は先程、ブルーバード公国のオースターで起きた少女誘拐事件の被害者を城へ連れてきたところなんですが……」


 俺は自分が飛翔魔術を用いて移動したなどは伏せて、上手いこと要点だけを強調して事情を説明した。


「ロージスト教の神父が?」


 皇帝は目を眇める。

 団長も剣呑な顔で顎に手を当てて呟いた。


「神父という職を隠れ蓑にしていたのか、それともロージスト教自体が腐食していたのか……いずれにせよ、ロージスト教はウェスタニアの国教だ。何かしら関係があるとみて捜査すべきでしょう」

「犯人と被害者はどこに?」

「犯人は現場捜査の兼ね合いもあってまだ現場にいる。被害者の少女達は応接間で食事中だ」


 俺の返答に、団長と副団長は顔を見合わせ、それから皇帝に向き直った。


 彼は一つ頷き、強めの口調で言い放つ。


早急さっきゅうに魔術師をオースターへ派遣、魔術により現場の状況を逐一把握しろ。賢者の騎士団と連携を取り合い、ウェスタニアの動向にも目を光らせろ」


 命令を受けた二人は敬礼し、皇帝に退出の挨拶をすると素早く部屋を出ていった。


「……ウェスタニアは帝国外の国の中で最も大きい王国だ。これが面倒な騒ぎの前触れでなければ良いんだがな」


 皇帝が目を細める。

 そんな彼を見て、俺はしみじみ思う。


 何故その威厳と判断力を、女の前で発揮できないのかと。


「……ところで、誘拐の被害者の少女の中に、一人獣人がいました。俺の直感ですが、陛下の思う「花嫁の座を狙うぎらついた眼」はしていないかと思います。お会いになってみてはいかがですか?」


 俺の提案に、皇帝は眉を寄せた。


「獣人の女?」


 彼自身は、決して人種差別などしない。

 人間の価値は、人種や血筋などで決まりはしない、というのが彼の信条だからだ。


 だが、彼を取り巻く環境が必ずしも皆そうではない。


 皇帝の母である皇太后が、その最たる例だ。

 彼女は、先代皇帝が進めた獣人の差別禁止に最後まで反対しており、今でも獣人を毛嫌いしているのだ。

 勿論、今の皇帝はガルイースであり、皇太后に政治的な権限は一切ないのだが、先代皇帝の代から彼女に心酔している貴族が一定数存在する。これが厄介なのだ。


「……俺は獣人が嫌いではない。だが、あの女がなんて言い出すか……」


 あの女、とは当然皇太后のことである。

 血の繋がった実の母親であるが、この二人には確執があり、皇帝は皇太后とは極力関わろうとしない。


 彼の女性恐怖症の原因は、彼女にあるのではないかと、俺は睨んでいる。


「皇太后殿下がどのようなことを仰るかは想像に難くありませんが……それよりも、貴方が花嫁を迎えられることの方が重要です。実際、このディーヴェスにおいて、貴方以上の権力者などいないのですから、いざとなれば王命を発動すれば周りの貴族連中も黙るでしょう」


 ただでさえ、女性恐怖症の皇帝が花嫁を選定できるか先行きが不透明なのだ。

 獣人だろうが竜人だろうが庶民だろうが、もしも皇帝が「この女だ!」と決めてくれるのならば、俺は何が何でもそれを押し通すよう手を尽くすだけだ。


「……まぁ、そうだな。とりあえず、獣人なら皇帝の花嫁の座に執着しないかもしれないし、会うだけ会ってみるか」


 気が進まない、と顔に描いてはいるものの、皇帝がそう答えてくれたので俺は心の中で盛大にガッツポーズを決めた。


「では早速、獣人の娘を連れて参ります」


 全は急げ。俺は足早に玉座の間から退出し、彼女達が食事をしているはずの部屋に向かった。

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