パラティアム城
この小説は『悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした』と同じ世界観のお話です。
フィアは得意げな顔で腰に手を当てた。
「一般人は大変だな。仕方ねぇから、アタシが移動魔術で連れて行ってやる」
言うや、俺の反応を待たずに彼女は右手を掲げた。
「移動魔術!」
眩い光が広がり、俺達を包み込む。
思わず目を閉じ、次に目を開けた時には、そこは教会の中ではなく、ディーヴェスの首都アージャーの中心、パラティアム城の城門前だった。
見回すと、ネオと少女達五人も同じように移動していた。
「……お前、移動魔術まで使えるのか」
移動魔術はかなり高度な魔術だ。
しかも魔力の消費が激しい。正直言って燃費が悪いのだ。
だから俺はよほど急ぎでない限りは魔力消費の効率が良い飛翔魔術を使う。
更に同時に移動する人数や物が増えるほどそれに比例して魔力消費量も上がる。
自身含め八人もの人間を遠く離れた場所に移動するなんて、かなりの魔力を消費したはずだ。
しかし、移動魔術を使った本人はいたって平然としている。
確かにフィアというキャラはゲームの中でも強い魔術師という設定だったが、ここまで強くした覚えはない。
俺の言葉を受けて、フィアは不思議そうに首を傾げた。
「お前だって、このくらいできるだろ?」
できるかどうかで言えば、できる。
ただ、それをした後でここまで平然としていられるかはわからない。
「フィア、自分の物差しで他人を測ってはダメよ」
意外にも、ネオが諌めた。
そう言えば、ネオはそれなりに強い魔力を持っているが魔術師としての素養がなく、魔剣士になったという設定だったな。
この世界において、魔力量と魔術師になれるかどうかというのはまったく別の話なのだ。
まぁ、魔具にしろ魔剣にしろ、魔力の籠った物を扱うにはそれなりに魔力を必要とするから、彼女の場合魔力の持ち腐れという訳では全くない。
実際、彼女の腰に挿してある双剣は名のある魔剣で、ある程度強い魔力を持っていないと鞘から抜くこともできない代物だったはずだ。
「はいはい。んで、城まで連れてきたやったんだから、さっさと事情聴取とやらを済ませろよな」
命令口調のフィアに内心でムッとしつつ、門番に声を掛けて城門を潜った。
五人の少女達は物珍しそうにキョロキョロと辺りを見渡しながら歩いている。
花嫁候補達との面会にも使った応接間に彼女達を案内し、すぐに事情聴取と食事、それから風呂の手配をしたが、少女達が空腹を訴えたので、食事と風呂の後で話を聞くことにする。
風呂には女の騎士を同行させ、彼女達の体の傷や怪我の度合いを聴取することになった。
彼女達の食事と風呂が終わるまで、俺は手持ち無沙汰なのだが、盗賊であるフィアとネオを城内で自由にさせてはおけないので、二人を見張るつもりで部屋に残る。
と、俺の耳に突然皇帝の声が響いた。
俺の右耳につけている、青い宝石が付いたカフスからだ。
実はこれも魔具で、同じ物を身につけている相手と通話が可能なのだ。
『クロード、話がある。すぐに来い』
絶対君主である皇帝に呼び出されては拒否権などない。
俺はフィアとネオに目を向けた。
「俺は少し席を外すが、この城の中で悪さするなよ」
「信用ねぇな。流石にこんなところで暴れるほど馬鹿じゃねぇよ」
「それなら良いが……」
相手は盗賊だ。信用し切る方が難しい。
しかし、今は彼女の言葉を信じるしかない。
俺は身を翻すと、足早に部屋を出た。
急いで皇帝のいる玉座の間へ向かう。
俺が玉座の間に入ると、そこには皇帝だけでなく皇帝直属の騎士団長と副団長がいた。
帝国には三つの騎士団があり、皇帝直属、賢者直属、帝国所属に分類される。
当然、皇帝直属が最も精鋭が集められた栄誉ある騎士団である。
何か話していた団長と副団長が言葉を止め、俺に敬礼する。
俺は皇帝の側に歩み寄った。
「陛下、お呼びでしょうか」
皇帝は肘掛けに頬杖をついて唇をへの字に曲げた。
「ああ、少しばかり面倒ごとだ」
皇帝はそこで言葉を止め、それ以上は語ろうとせず、団長に話すよう顎で示した。
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