魔術師の誓約
この小説は『悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした』と同じ世界観のお話です。
俺は賢者だ。
前世でこの世界を作っていたのと、魔術で情報を得るというズルも多少はしているが、それでもクロードとして生まれてから、賢者になるための勉強は一通りこなしている。
盗賊の女一人くらい言い包められないで、賢者など名乗れはしない。
「罪人を裁くにあたって、被害者の証言は多いに越したことはない……お前達だって、あの神父にできる限り重い罰を与えてほしいと思うだろう?」
俺の問いに、ルーナを含めた少女達は全員しっかりと頷いた。
被害者である少女達全員の意向を無視する事は流石にできないようで、フィアとネオは少々困ったように顔を見合わせる。
この二人、意外と人情味はあるのかもしれない。
「仕方ないわ。フィア、コイツには誓約を交わさせて、同行する事にしましょう」
「そうだな」
二人はひそひそと言葉を交わし、俺に向き直った。
「コイツ、名前何だっけ?」
「クロード・エイト・ロックよ」
「よし。クロード・エイト・ロック。お前には誓約を交わしてもらう。ルーナを家に無事送り届けるまでアタシとネオに手出しはしないと誓え」
なるほど、誓約魔術か。
相手に対して約束を取り付け、誓約として縛ることで、もしも相手がそれを反故にしたら相応のペナルティを与えることができるという魔術だ。
ただし、誓約魔術は最初に相手がその約束に対して同意しないと成立しない。
重要なのは相手の口から相手の言葉で誓約を交わすことなので、脅して約束を交わさせた場合も有効となるのが少々厄介なところでもある。
とはいえ、今この状況において、フィアの提示した『約束』は、大して俺に不利な内容ではない。
だが、誓約魔術を深く考えずに了承してしまうのは命取りだ。
あらゆる事態を想定して、抜け道は作っておいた方が良い。
「二つ条件を追加しろ。そちらから攻撃を仕掛けて来ないことと、俺が魔術を使えることを他言しないことだ。そちらがこの条件を破った場合、誓約は破棄され、俺はお前達に手出しできるとする」
「良いだろう。成立だ……誓約魔術」
フィアが唱えた瞬間、俺の体に彼女の魔力が少量流れ込んできた。
これが、約定を違えた場合、最悪俺の命を奪うのだ。
誓約反故のペナルティは、約定の違える度合いによって変わるが、今回の場合は俺がフィアかネオのどちらかに重傷を負わせたとしたら、おそらく俺の心臓がフィアの魔力により貫かれて死ぬことになるだろう。
「……念のため言っておくが、俺の攻撃を誘発しようと無駄に挑発するような子供じみたことはするなよ」
「そんなことするか。こっちだって帝国政府との面倒事なんざ御免だ」
食い気味に否定して来たので、それを信じることにする。
俺は解錠魔術を唱え、少女達の足枷を一斉に外した。
「とりあえず地上に出よう。すぐに帝国の騎士部隊を召喚して、今回の事件の捜査を開始させる」
俺は彼女達を先導して、地下道を戻り、再び教会内に戻った。
俺の魔術で眠っている神父を見て、少女達が怯えた顔をするのを宥めながら、俺は彼女達に向けて右手を掲げた。
「忘却魔術」
彼女達の記憶から、俺が魔術を使用した部分のみを消し去っておく。
フィアとネオは、その様子を黙って眺めていた。
術がかかると、何が起きたかわからない様子の少女達は、不思議そうに互いの顔を見合わせるが、俺はそれを尻目に懐から大ぶりのペンダントを取り出した。
「召喚」
そう唱えると、ペンダントの中央に嵌められた青い宝石が光を帯び、瞬き一つで十名ほどの騎士達がその場に顕現した。
これは予め対となる魔具を所持している者を呼び出すことができる召喚アイテムなのだ。
本当はこんなものなくても、俺が魔術で呼び出すことなどいくらでも可能だが、そうすると呼び出された側に俺が魔術師であることが知られてしまうので、どうしてもやむを得ない場合を除いて騎士団を召喚する際はこの魔具を使用しているのである。
「クロード様、お呼びでしょうか」
俺に片膝を衝いて敬礼したのは、俺の直属の騎士団長であるカイル・オー・クラブマンという名の、真面目で頼りになる男だ。
俺が事情を説明すると、カイルは険しい顔で頷いた。
「まさかロージスト教の神父が、人身売買のために少女を誘拐していたなんて……」
「早急に捜査しろ。被害者はかなり多いと見ている……それから、彼女達から事情聴取をするため、俺はアージャーへ戻る」
「承知いたしました」
一礼したカイルは、すぐに身を翻して神父に手枷を嵌めた。
「教会と神父の自宅を隅々まで捜査しろ。それから、すぐに馬車の手配を」
カイルが部下九名に指示を出したところで、フィアが俺の肩を掴んだ。
「おい、まさか馬車でアージャーへ向かうのか?」
「俺は非魔術師だからな。彼女達も一緒にアージャーへ行くとなると、移動手段はそれしかない」
騎士達の前で魔術を使う訳にいかない俺がそう答えると、フィアはふんと鼻を鳴らした。
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