悪い考えは行動に移る可能性が高い
その通りだと僕は考えるよ。邪魔なら潰してしまえば良い話だ。
何も難しい事では無い。別に何か親に対して情を抱いていると言う訳でも無い。
ただ自分を産んだ、と言う存在に過ぎないので、肩入れしている訳でも無いし別に特別好きだったと言う訳でもない。
自らが知り合う人間等、一部を除けば全員高き場所に立つ為の礎にしか過ぎない。障害と判断したのなら、己の持つ力を最大限利用して敵も味方も問わず潰していけば良い話だ。
今回の一件だってそれと何ら変わりない事だ。殺害するのは親と執事と侍女達全てだ。
先の事をどうするのかは全て見据えているつもりだ。
他者を殺す、と言う事に対して何か恐怖を抱くつもりは一切ない。
だがしかし、そう簡単にいかないのが世の中と言う存在だ。
思い通り事が運ぶ事は非常に稀であり、基本的には事を運ぶ途中で邪魔や横槍が入ったりする。
今回の全員暗殺計画だって、同様だ。確かに殺す事自体はそこまで難しい事ではなく、全員葬る事は自らの力をもってすれば余裕で可能だ。
だが見据えているつもりであったとしても、所詮はまだ子供の頭脳だ。
仮に全員殺してしまっても、穴は山の様な程に存在している。
その先の事はどうする?
と聞かれれば、何も言い返せない。先の生活の事を全て一人で操作出来るのか、資金面の事については先の事も含めて考えているのか?
そんな風に聞かれたら、口論に多少自信のある僕もお手上げだよ。
それに貴族生まれである僕は15歳になると3年間の期間、王都に建てられている学校に通う事が義務付けられている。現在の年齢から換算すると、後六年もすれば通わなくてはならない。
このイベントを回避する事はほぼ不可能だし、拒否権なんて実質的に剥奪されている様なモノなのでこればかりはどうする事も出来ないのが現状だ。
やはり今は後ろから首を掻っ斬るのは難しい様だ。
取り敢えず僕は一旦この事は諦める事にした。別に諦めた事でイライラしている訳では無い。人生諦めも重要であるし、変に固執しても良い事は何も無い。
悪い考えはかなりの確率で行動に移る可能性が高いのだが、今回は例外の様であった。
まぁ仕方ないか、ショウマは溜め息を着きながらそう呟いた。
◇◇
そんなこんなで暫く経ったある日。僕は『剣術修行』と言う名の仲間探しの旅に出ていた。
ことわざには『可愛い子には旅をさせよ』と言う言葉が存在する。と言う訳なのかは分からないが、僕は気が付いていたら両親に旅に出る、だとか言ってしまっていたのだ。
あまりに突然過ぎる展開だが、勿論裏の話が存在している。
表向きではもっと実力を身に付けたいと言う理由が存在しているが、裏向きの話では世界掌握を達成させる為の同胞を集める為であった。
世界掌握と言う偉大で大きな目標は、決して簡単に達成出来る様な存在ではない。
無論、それを一人で達成しようなんて以ての外だ。残念だが何事も一人で達成する、これは無謀だ。
同じ様に思う人間がいるのなら、引き込む必要がある。
同じ志を持つ者が目の前にいた時、僕なら最大限に利用するだろう。逆に利用しない手は存在しない。使える物は使い、共に歩めるのならその手を取る。
世界を恨み、復讐したい、恨み晴らしたいのなら喜んで引き入れる。
実に単純な事だ。同じ穴のムジナと言うモノだろう。
両親も僕が少しの間、旅に出る事については悪く思っていなかったし、父に至っては、
「俺もお前ぐらいの年に一人で修行に出たもんだ!」
と、少し自慢げに男らしい野太い声で言っていたので、自分自身の発言を強く肯定するかの様にして準備等も全て行ってくれていた。
そして数日もしない内に出発。家族総出で送ってくれたので、少し違和感を感じたが今となればどうでも良い話だ。
◇◇
現在進行形で、僕は今どうするべきなのか非常に迷っている。
家からそれなりに離れた森の中を散策している時であった。
それは水源確保の為、他にも食えそうな物がないか調べに回っている時であった。
今は空は曇天になり、世界を覆う様にして雨が降っていた。空からは無数の雨粒が降り注ぎ、用意していた小型の傘を差していなければ全身の服はすぐに水分によって満たされ、水浸しになってしまうだろう。
そうなれば忽ち体は冷えきってしまい、風邪を引いてしまう原因となってしまうだろう。
しかし目の前に疲れきって座り込む、汚れた麻色のローブを身に纏う人物は傘を差していなかった。
麻色のローブは全身を覆い隠している。しかし寒いのだろうか、それとも何かに恐怖しているのだろうか。
全身を依然と強く震わせている。
「え、えぇっと……君、大丈夫か?」
「ケテ…タスケテ…」
か細く、そしてか弱い声で素直に小さく助けを求めている事が一目で分かった。
このまま放置してしまえば、いずれ野垂れ死ぬだろう。見て簡単に分かる。
曇天の道を雨に打たれて這う様にして歩く、この者は傘も差さずに。まるでその姿は雨に怯える少女の様であった。
このまま素通りする、と言うのはあまりにも無慈悲過ぎる選択だ。
流石にそこまで鬼になった、と言う訳でも無い。
僕は少し見ていて辛くなってきたので濡れない様に差していた傘を彼女に譲る事にした。お陰で僕は濡れる羽目になってしまったが、別に構わない。
「ほれ、こんな所でふんぞり返ってたら風邪引くよ?」
ショウマは軽く声を漏らしながら、目の前の人物の左手を軽く握るとそのまま引っ張って立ち上がらせた。
足取りはどこかフラついており、履いている靴も古びていて傷付いている。手も汚れが所々目立ち、とても細い。
見た所、そうとう酷い環境の所から逃げてきた様だと推測出来た。益々可哀想に見えてくる。
「取り敢えず、僕が拠点にしてるボロ小屋まで案内するから。着いてきて」
その言葉にローブを被った人物は軽く小首を傾げて頷いた。しかしショウマの手を離す事は絶対なかった。
本日の面白い出来事、初対面の人の人と手を繋いだ挙句、相合傘までやる事となる。
◇◇
偶々見つめたのがこのボロい小屋だ。別に雨漏りとかはする訳では無い。例えるなら森のコテージと言った所だろうか。
決して、とても古びているとは言えずまだまだ使用出来る範囲だ。暖炉も燃え尽きているとは言っても薪をくべれば使用出来るし、用意したランタンや蝋燭等を使えば明かりを灯す事だって可能だ。
今の所は隠された秘密基地みたいな所と言った方が良いだろう。
少年時代にはこんな風の隠し場所にはとても憧れたモノだ。
だが、今回は秘密基地ではなく『掌握者達の第一拠点』と言った所だ。ここから掌握の計画が始まっていくのだ。
何故だろうか、ワクワクが止まらない。
修行の途中で最近見つけて勝手に使ってる事は内緒で。
そして謎の人物をこの小屋に招き入れた僕は早速薪をくべて、炎属性魔法を軽く使用。
火を付けて小屋の中を温める事にした。
数分もしない内に部屋の中は暖かくなった。鉛の空の下、雨に多少打たれてお互いに体は冷えていたが暖炉の火のお陰で何とかマシになった。
「あの、助けてくれてありがとう」
少し高いソプラノボイスの様な声が聞こえると同時に、ローブを纏っていた人物は暖かくなった事を皮切りにローブを脱いでいた。
喉が渇いていたので水を飲んでいたが、思わず口の中に含んでいた水を吹き出しそうになった。
思わず自分の目を疑った。何度も目を見開いたぐらいだ。
目の前に座り込むのは、紛れもない誰が見ても『美少女』と呼べる程の美貌を兼ね備えた女性であったからだ。
彼女は素直な表情のまま、ショウマの事を紫色の瞳を持つ双眸で自らの事を見つめている。
しかし、改めて見ても間違いない程の美貌で圧倒的に美しいと言える。
少し褐色ががった肌、淡いオレンジ色の瞳、見た目に不相応な程に成長している肉体(主に胸が)、美しい銀白色の髪、頭に二本生えたまるで悪魔の様な角、まるでエルフの様に尖った耳、そして美人。
間違いない、魔族の者だろうと一瞬でショウマは理解した。
『魔族』それは古来の時から自分達人間と言う存在とは違う世界に生きる種族だ。伊達に貴族の教育を受けていない身である為、魔族がどの様な存在なのかは分かっているつもりだ。
過去の時代からこの世界には『人族』『獣人族』『魔族』『神族』等と言った種族が存在している。魔族はいつの時も他の種族と対立を極めていた。
本来なら、人族との関わりは絶望的であり大体が互いにいがみ合っている、と言うのが現状だ。
中立派の人族や魔族は非常に稀であり、基本的には人族は魔族を差別し、魔族は人族を差別すると言うのが現状だ。
(まぁ、僕は別にそんな差別とかしないけど…)
無関心者には関係無さすぎる話だったかもしれない。
「君……どうしてあんな所に…?」
ショウマは手にしたコップに水を注ぐと自分の前に座る少女に、水が注がれたコップを差し出した。別に毒を混ぜている訳では無い。
「貴方は、私を魔族だからって理由で軽蔑しないの?」
何処か怒りを隠している様な表情を少女は見せる。三角座りのまま、少し俯きながら言葉をショウマに投げる。
やはりか、ショウマはそう心の中で呟いた。
彼はこの回答が来る事を事前に予測していた。
他にあった予想としては、
人に助けられるぐらいなら死ぬ!
何で私を助けたの?
ナンパのつもり?
とかが来るのではないかと予想していたが、返ってきた答えは予想の範囲内であった。
僕は取り敢えず会話を続ける事にした。別に魔族を差別する理由なんてありゃしない。
魔族に親を殺された訳でも無いし、魔族にケツバットされた訳でも無いので。恨む理由も見つからない。
「僕は『魔族』だったと言うだけで差別はしない。何もそれが差別や軽蔑の理由になるとは考えられないからね」
ショウマの言葉に偽りは無かった。基本的に、そして常に虚言や偽りの気持ちを吐いているショウマであったが、今だけの会話は何も包み隠さずに本心で話してみた。
ここで何か偽る必要性も無いだろうと、ショウマは思ったからだ。
「そう……なの。私を差別、しないんだね…」
「取り敢えず名前聞いていいかな、少し気まずい」
「わ、分かったわ。私は『ヴェイザー・ラクア』年齢は今年で12歳。ま、魔族だけど……人間とのハーフなの」
意外だね、とショウマは再び口に出さずとも心の中で呟いた。
魔族、ではなく魔族と人間のハーフ。これはかなり意外と言って良い事例だろう。
確かに魔族の存在は知っていても、魔族と人間のハーフは流石に聞いた事がなかった。中々にヘビーな生い立ちであった事は容易に想像が出来る。
「つまりそれって……魔族からも人間からも」
大凡の事情は把握出来た。彼女は人間からも、そして魔族からも見放されたのだろう。
魔族と人間の混血と言う、今までに全くと言って良いぐらい例を見ない。言わばイレギュラー的存在。
「そう、私はどっちからも差別された。人間からも魔族からも……」
「つまり恨み晴らさずでおくべきか、って感じ?憎いか?世界が、人間が、魔族が?」
ショウマの質問にヴェイザーは首を縦に振って頷いた。そしてショウマの両目を見て言葉を発する。
その瞳の中には明らかに怒りが宿っていた。
「えぇ、憎いわ。私を差別した魔族と人間も、そしてこんな風に腐れ切った世の中が!」
「そうかそうか……実はね僕も同じなんだよ。この世の中は大嫌いだ、そして同胞と呼べる者以外の全ての者も………」
「貴方、何を考えているの?」
ヴェイザーは額から僅かに冷や汗を流す。ショウマの圧倒的な狂気たるオーラに圧倒されているかの様であった。
それと同時にショウマは彼女に手を差し伸べる。
「僕と同じ志を持つ者と共に、この世界を掌握しないか?命を刈り取る死神の様に……」
それに続いてショウマは更に言葉を繋げる。
「その為には君の力も必要となる、ヴェイザー・ラクア。協力してくれるか?」
「それは……乗らない手は無いね…」
ヴェイザーは躊躇いなく、ショウマの手を掴んだ。そして掴むと同時にヴェイザーはショウマに対して質問を問う。
「所で、貴方の名前は?」
ここでショウマは普通に名前を言おうとした。しかし言う直前に咳き込んだフリをして、直前で名前を言う事を止めた。
どうせ言うのなら、カッコよくまるで裏世界の騎士の様に派手過ぎず地味過ぎない名前を名乗りたかった。
「僕の名は………Master……『MasterMind』君にはコードネーム『Castor』の名を与える。作戦時はその名を名乗れ」
「Castor……承知したよ、Master」
「普通の時は普通の名前で良いからね」
そう言って、ヴェイザーは紫色の瞳でショウマの事を見つめると同時に不敵な笑みを浮かべた。
その瞳には間違いなく覚悟と敵に対する殺意が篭っていた。
そして最後に決めなければならない名前がある。それは自分達の組織の名前だ。
世界掌握を行う為にも、組織の名前は各地に響かせなければならない。
その為にも自らが名乗った名前である『MasterMind』やヴェイザーに名付けた『Castor』の様に組織名を付けなければならない。
「ふふっ……我々は『CRISIS』世界に破局を齎し、真に世界を統べる者だ」
「CRISIS……カッコイイ名前!」
でしょ?もっと褒めて。
さて、これで第一段階辺りは突破したと考えた方が良いだろう。
次にやる事は同じ志を持つ者達を集める事だ。
「まず最初のミッションだ。同胞を見つけるぞ……明日には出発だ」
「承知した、Master」
こうしてまた一つ夢が広がった様な気がした。次はどんな奴に出会えるのだろうか。
そう思いながら、今日の夜は月が綺麗だったのでヴェイザーと一緒に月を眺める事にした。




