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絶望に満面の笑みを添えて

 

 その日はいつもよりジメジメとした日だった。



 少し前の日は晴れた日だった。




 太陽の様な光は空から照り付け、日向の様な暖かい光は体を絶え間なく温めていた。




 しかし、今日は前の晴れた日を掻き消すかの様な冷たい雨の降る日だった。




「カルデア……何処に行ったの?」



 アストレアは心配で気が気でなかった。



 先日、イージス魔法学校で起こった謎の大虐殺事件。



 生存者はたったの8人。



 残りの3桁を超える生徒及び教師陣は全員、学校内で簡単に命を落としていたのだ。



「検死の結果……全員、他殺ですね。体には多くの穴が空けられていました。教師陣は首もしくはうなじを斬られているか、首を絞められて殺された跡がありました」



「レイヤ、カルデアの遺体は……?」



「すいません、痛いの中に妹さんの姿は……」



 レイヤは汚れ仕事をする事には充分慣れていた。



 今回の検死なんて、普通の精神を持った人間なら出来る訳がなかった。



 数人の検死ではなく、何百にも及ぶ数の検死。



 そして遺体の身元調査等を行わなければならなかった。



 ノワールに至っては、話を聞いただけで吐き気を催す程だ。



 椿も一応参加してくれていたが、終わった後の彼女の絶望と恐怖に満ちた表情は、見ていて異常な程に自分も辛くなった。



「行方不明……って言う事なのよね?」



 アストレアは妹の事で頭がいっぱいだった。



 無造作に積み重なった屍の山の中に、アストレアの妹であるカルデアの姿はなかった。




 初めて学校での虐殺の事を聞いた時、アストレアは最悪の事態を覚悟していた。




 最愛である妹であるカルデアが、その虐殺に巻き込まれたと言う事に。



 しかし、たとえ虐殺に巻き込まれて、命を落としてしまったとしても。




 せめて遺体が残っているのならまだ救いがある様に思えた。




 まだ、死人となったとしても妹の姿を見れると言うのならまだ救いがある様に思えた。



 と言うか、そう思わなければ身が持たない様な気がしていたからだ。




 しかし、現実とは非情であり無情だ。



 体の一つすら見つからず、遺体は今も行方知れずのままだった。



 もしかしたら生きているのかもしれない、そんな考えは簡単に打ち砕かれる。




 何せ、あの日生き残っていた人数の数は生徒教師陣を含めても僅か8人だけだったのだ。




 偶然、魔法の実験を小さな部屋でやっていたお陰で生き延びる事の出来たサガル先生とアタランテ。



 授業を受けずに図書室で本を読んでいたオクノ君とスズキ君、そしてこの日偶然サボっていたシンリとシャルティ。



 そして1人の生徒の犠牲の上で生き残ったマリスと、各部骨折等の怪我を負いながらも、何とか生存を果たしたレオニスの8人のみだった。



「はぁ…少し散歩してくるわ。気休めにはなると思うし……」



「ご同行した方が?」



「私は構わないよ?」



「一応、貴方は国の重要人物ですからね。ご同行します」



 警護、とまではいかないが、国の重要人物であるアストレアをそうそう1人で行かせる訳にもいかなかった。



 レイヤは外へと出向くアストレアの背中を追った。




 ◇◇




 現実を知りたくない。



 と言う気持ちが彼女の心の中にあるのなら、ある意味この選択は間違っていたかもしれない。




 いつもなら、人々が行き交う王都の広場。



 晴れた様な日には多くの人達が、寄る様な場所だった。



 今日は暗く、どんよりとした天気であり、雨こそ降っていないものの雰囲気はまるで泣く人の心の様だ。



「今日は少々、天気が悪いな」



「雨が降りそう、だけど降らない」



 今の彼女の心に余裕は無かった。



 言葉は明るいモノではなく、口調も何処か棒読みに近い。



 妹が行方不明になった、この事は彼女の心を深く抉っていた。




 そして、彼女達は王都の広場へと差し掛かっていた。



「ん……?」



 王都の広場にこんな長い棒が立ててあっただろうか、そうアストレアは心の中で素朴な疑問を述べた。



 この広場に、天を貫く勢いの棒は置かれていなかったはずだ。




 何か新しい物でも作ったのだろうか。




 アストレアは心に謎の違和感を覚えながらも、棒の上の方を見つめる。



「……………………え?」



 全身に寒気、強い動揺、体の震え、目を見開く。



 受け入れられない、体の力が入らない。



 足から崩れていく。




 上を見上げなければ、この現実にも気が付かずに済んだかもしれない。



 それに、これは夢かもしれない。




 別に今自分の前で起こっている出来事は真実では無く、下らないまやかしかもしれない。




 と言うか、まやかしであると信じるしかない。



 これがまやかしではなく現実だとしたら、いや認めたくない。




 これが紛れも無い正真正銘の現実だなんて、



 絶対に、是か非でも認めたくない。





 何故なら、その棒の一番上。



 その上にあった存在は……。



「あぁ、あぁ…!嘘、嘘よ!何で!カルデア!」



 そこにはカルデアがいた。



 行方不明になっていたカルデアがいた。




 確かに行方不明なっているカルデアの姿がそこにはあった。



 カルデアは目を閉じたまま苦痛の表情を浮かべている。




 カルデアが見つかった!




 しかし、心の何処にも安堵と言う言葉は無かった。



 あるのはただの絶望と悲しみ。



 その2つだけだった。




 棒の上、そこには確かにカルデアの姿があった。



 首だけだった。



 棒に突き刺さっていたのは、間違いなくアストレアの妹であるカルデアだ。




 しかし、体は存在していなかった。



 あるのは首より上の部分だけ。



 簡単に言えば晒し首。



 あまりに無惨、あまりに惨い。




「ああ!そんな、カルデア!どうして!?」



 一連の事が、嘘でもまやかしでも無いと言う事にアストレアは今気が付いた。




 その瞬間、彼女は地に崩れ落ち、人目を憚る事無く声を上げてびょおびょお慟哭を上げる。




 同行していたレイヤも、体の震えが止まらなかった。



 震えと同時に、脳内を何で?



 と言う言葉が埋め尽くしていく。




 カルデアとは話した事がある。




 アストレアとは実の姉妹で、その仲は姉妹としてとても仲睦まじい存在だった。



 警護の為に、何度か話した事があるが実に礼儀正しく清楚な女性だった。




 なのに、何で?



 死体なら見慣れた、首だけになった奴の姿なんて飽きる程見てきた。





 なのに、何でこんな感覚になるんだ?




 レイヤの横で、子供の様に声を上げて泣いているアストレアに、レイヤは何も言う事が出来なかった。



 ただ泣いているだけのアストレアに対して、レイヤは何も言わない。



「椿……今すぐ、皆を連れて……王都の広場に来てくれないか…?」



 そう言葉を残して、レイヤは魔力通信を切った。



 これ以上、何か言う事は無いだろうと、彼は確信したからだ。



「誰が、こんな事を……!」



 誰がこんなカスの様な事をしたのか。



 今すぐにでも、犯人を捕まえて嬲り殺してやりたい気持ちになる。



 すると、棒に紙が貼ってある事に気が付いた。




 あぁ、犯行声明的なヤツか。



 レイヤは1人、棒の方へと突き進み棒に貼ってあった紙を引き剥がす。



『CRISIS』



 そう紙に書かれていた。



「……CRISIS…か。成程、全員殺す」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「ぶっはははははは!!!何、アイツ!人の生首見て泣いてやがるぜ!おい、ディープ!これは傑作だぜ!」



「ボクはロボットだから、面白いと言うのはよく分からないけど、面白い……かな?」



 スリフコの監視用ドローンを介して、CRISISの面々は自分の妹の生首を晒され、慟哭を上げるアストレアを高みの見物の気分で見ていた。



「やれやれ、たかが妹1人死んだぐらいで。泣き過ぎだな」



 ドローンを操作しながら話すスリフコの軽口に、ショウマも少なからず反応を見せる。



「はぁ、晒し首ってそんなに酷いモノかな?」



 僕は良い案だと思ったのだが、そうでも無かったみたいだ。



 僕達は最高で満面の笑みで見つめている。




 なのに、向こうはまるで家族が死んだみたいに笑っている。



 あ、そうか家族が死んだのか。




 ならしょうがない?かな。



「面白い、と言うのはよく分からないな」



「MasterMind様。やはり複製した擬似脳では感情の読み取りは難しいでしょうか?」



「う~ん、悪くは無いんだけど……別に不便でも無いし」



 別に、脳みそが偽物に変わった所でこの映像は見ていて面白いと僕は思っている。




 サブナックの言葉は別に気にしなくても良いだろう。





 僕は取り敢えず満面の笑みを見せておく。




 生首晒されて、それを見て泣いてる奴を見るって面白いよね。




 この絶望的世界に満面の笑みを添えるとしよう。




 ◇◇




「おいショウマ……」



「スリフコ、どうした?」



「イレギュラーの発生を確認した。こことはまた別の場所だ」



「ほぅ、向こうは気が付いているのか?」



 その言葉に、スリフコは首を横に振る。



「いや、まだだ…」


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