だからよ…
正にいつもと何ら変わらない日常だ。
空から暖かく照り付ける優しい光。それは太陽と言える様な明るさを持っている。
街を行き交うのは多くの群衆達だ。
皆、自分の仕事をしている者。
行商人として物を売っている者。
或いは騎士や兵士として街を見回っている者。
この王都にいる者は様々だ。
そして僕は今、またしても聞きたくもない話を聞き流している。
授業料払ってもらっているご両親にはすまないが、僕はまともに授業を受けた事はあまりない。
所詮は無駄な知識、後に必要になるかと聞かれれば必要の無い代物だ。
「それじゃ、3時間目はこれで終わりますね。次の時間は、生徒会長と生徒会からの連絡です」
この授業の科目の教師はそう呟いた。
――――あぁ、お決まりだな。
ショウマは心の中で一言呟いた。
異世界ともなれば、可愛い生徒会長とその可愛い生徒会長を異常な程まで崇拝している生徒会の女の子達は必然的に存在している。
大体の場合なら、主人公と絡んでくる。
剣を持ってバトルを仕掛けてくる。
チートを持っている主人公に深入りしてくる。
勝手に結婚させられそうになって、それを主人公が救う。
等とバリエーションは様々だ。
しかし、僕にとっては何の縁もゆかりも無い話。
第一絡む気も起きないし、そもそも絡まられる事なんて永遠に無いから安心しろ。
「ねぇねぇ、ショウマ!」
「んっ?あ、マリスじゃん。どうしたの?」
「えへへ、暇だから来ちゃった」
何と、可愛い子なんだろうか。
思わずショウマは心の中でウットリしてしまった。この無垢な笑顔、素晴らしい。
暇だから来てしまった、その際にマリスが見せた笑顔は天使を体現しているかの様な美しさだった。
雪色の綺麗な髪に、整えられていてサラサラしていそうなストレートヘア。
スカートではなくズボンが似合うその姿は正に圧巻。
そして、耳が癒されそうな綺麗過ぎるソプラノボイスは至福の言葉しか出てこない。
◇◇
「失礼致します…」
「失礼するぞ!」
さて、マリスとの会話を楽しみたい所だがイベント発生の様だ。
まだ連絡の時間では無いだろうが、指定された時間よりも先に生徒会長らしい風貌を持った人物がこの教室に現れた。
どこかで見た事ある様な気がするが、ホワイトブロンドカラーの長い髪に落ち着きがありながらも美しい表情。
腰には鞘に納められた長剣。
物腰柔らかそうな風貌に、美しさと強さを兼ね備えている女性。
そして整い過ぎていて、目が眩しくなりそうなスタイル。
間違いない、この長いロングヘアの髪の女が生徒会長だ。
見れば分かる、完全に雰囲気的に一致している。
そしてもう1人、ネームドキャラっぽい奴がある。
見た目は小動物を思わせる様な、少し小さめの背丈。
しかしその表情はどこか鋭い。まるで軍人の様なキリッとした目付きと表情だ。
何でかは知らないが、殴ると言わんばかりに両手に装備された穴あきグローブ。
薄い金髪にボーイッシュなショートヘア。
そして制服の上からでも分かる程に育っている胸。
関わらない方がいいね、これ。
もしかしてあれか?
言葉ではなく拳で語り合おう、的なアレなのか?
そしてその後ろには、如何にも取り巻きっぽい女共が数人立っている。
見る価値無し。
こんなのに関わるなんて時間の無駄だ。
呪いとかをかけられていても知らないからね。
主人公なら助けるだろうけど、僕は助ける気にはなれない。
緊急脱出だ、
ジャンプパッドは残念ながら無いので歩いて逃げる事にしよう。
「マリス、時間あるし外で散歩しないか?」
「別にいいよ~」
従順で優しい、神かよ。
ショウマは徐に席から立ち上がった。
そして、誰にも気が付かれない様にして後ろからこっそりとマリスと共に教室を後にした。
◇◇
何とか教室からの脱出に成功したショウマとマリス。
2人はまだ休み時間だと言うのに、誰も歩いておらず、変に静かな廊下を2人で歩いていた。
「んっ~何か静かだね。いつもなら他の人とか、先生とか普通に歩いてるのに」
「まぁ、そんな時もあるんじゃないか?皆巣ごもりしたい気分なのかもよ?」
「えへへ、でも僕ちょっと嬉しいかも!」
「変に上機嫌だな…」
「何かロマンティック、と言うか何と言うか…///」
「ははは、それは確かに………ん?」
目の前に何か見える。
黒いコートを着ている人が何人か立っている。
コスプレ?ではなさそうだ、何故かって?
ショウマの血の気が引いた。全員こちらに向けて容赦のない殺気を向けている。
しかも、全員が銃を構えている。
「マリス!」
刹那、無数の弾丸が空を斬って廊下の中を突き進む。
耳を引き裂く程の轟音が絶え間なく鳴り響く。窓のガラスが容赦なく砕け散り、壁には穴と言う無数の銃痕が生まれていく。
ショウマは咄嗟にマリスの事を抱き寄せると同時に、マリスに攻撃が及ばない様にする為、自らが盾となった。
確かに自らが背中を敵に向けて、自分が盾になればマリスを守る事は出来るかもしれない。
しかしその行動が意味する事、即ち死だ。
マシンガンやライフルで背中を何百回も撃たれてみろ、死ぬに決まってるだろ。
「え、ショウマ!?何してるの!?ショウマ!」
「ぐっ、ぶるあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
せめてもの抵抗で、ショウマは傷付きながらも歯を噛み締めて、無詠唱で魔法を使用した。
敵に向かって一発の火球が弾丸の雨をかいくぐりながら飛ぶ。
その火球は敵の内の一体に命中した。
数人の敵は、火球が1人に命中すると同時に引き下がり、その場から姿を完全に消した。
僅かな時間が流れた後、場は静寂を取り戻した。
広がるのは、無数に生まれた銃痕。
傷が付き、窓ガラスが無惨にも割れている窓。
そして、血を流しながら腕を敵に向けて、マリスを庇っていたショウマだった。
「はぁ……はぁ………何だよ、結構当ててくるじゃん……ふっ…」
「しょ、ショウマ?………あ、あ、あぁ……」
「何て、声を……出してんだ…マリスぅ…」
マリスも分かっていた、もうショウマは助からない。
床に広がっていく出血量は恐ろしい程だ。
まるで絵の具が零れて広がるかの様にして、ショウマの体内を流れていた赤黒い血は床に広がっていく。
マリスは、友人が傷付き倒れていこうとしていく様をただ泣いて見つめている事しか出来なかった。
腰が抜けた様にして、マリスは立ち上がる事が出来なかった。
ただ止めどなく瞳から涙を流したまま、見つめている事しか出来なかったのだ。
ただヘタリと座り込んでいるマリスとは対照的に、ショウマは無数の銃弾を撃ち込まれたその体を無理矢理起こしたのだ。
しかしその表情は明らかに無理をしている事が丸分かりだった。
痛い、痛い、苦しい。
しかし、ショウマは止まる事なく立ち上がると同時に歩き出した。
「そんな、ショウマ。ショウマ!」
「僕は『フィフティール』家長男、ショウマ・フィフティールだぞ!これぐらいの事、かすり傷だ…!」
「そんな……僕なんかを庇って!」
「友達を守んのは当たり前の事だ!」
「でも!」
「いいから!……ぶっ飛ばしてやる!こんな事をしてきた奴らを…!」
しかし、ショウマの意識はもう切れかけていた。
もう長くは持たないだろう。
だが、それでもショウマは歩みを止める事はなかった。
歩みをやめる事なく、ただ止まる事なく、1人無謀にも前に歩き出していたのだ。
「僕は、絶対に止まらない!マリス、進み続けろ!きっと進み続けば、その先に僕は立っている!」
意識が、持たない。
眠くなってきた。足に、全身に力が入らない。
最後の最後まで、死力は尽くしたつもりだ。
マリス、強く生きてくれよ。
ショウマの体は遂に動かなくなり、彼の体はその場に倒れ込んだ。
「だからよ………止まるんじゃねぇぞ…」
ショウマ・フィフティール死亡確認。




