せめて一言、言ってほしい
「……で、どう言う事なの?」
「本当に申し訳ない」
そう言いながら、ミディアはショウマに向かって平謝りする。
しかし、言葉自体に感情はあまり篭っているとは言えずただ適当に何度も謝っている様にしか聞こえなかった。
しかし、感情が篭っていないと言う点に置いてはショウマも変わらなかった。
ショウマも、言葉自体に感情が篭っているとは言いずらく、普通に話している。
と言うよりかは棒読み感が強い話し方だった。
ショウマの言葉のかけ方は間違いなく、怒っている人の聞き方だ。
だがショウマの表情に怒りの感情は一切混ざってはいなかった。
完全なる無表情、いつも通りの感情筋が終わっている程に虚しく死んでいるショウマだった。
「確かにロボット作って欲しいとは言ったけど、危うくぺしゃんこにされる所だったよ……」
「パイロット選択を間違えたわ……ごめんなさい…」
そう言いながら、薬品やよく分からない器具が散らかった机の上に顔を埋めて、ミディアは謝りの姿勢を見せた。
僕は少し前、ミディアにロボットを作って欲しいと頼んだ。
何故かって?
カッコイイから、それ以外に何の理由がある?
やはり、いつの時代も大きなロボットは男のロマンである。
なのでミディアに僕は大型ロボットの開発を任せた。
その結果、危うくぺしゃんこにされるか炎に焼かれそうな羽目になった。
「全く、誰に操縦させたんだよ?」
あんな無茶苦茶な操縦、そして無差別過ぎる圧倒的攻撃。
先日、破壊が行われていた傍で景色を眺めていた者として言わせてもらいたい。
誰だよあれ操縦してたの、
って言わせてほしい。
挙動も所々、不穏な所があったし。
と言うか、普通に目立ち過ぎ。
言っておくけど、僕達『CRISIS』ってあんまり表舞台には立たないスタンスだからね。
仮にもいつの日かは表舞台に立ち、自分達の存在を世に知らしめようとは思っているが…。
しかし、今はまだその時では無い。
なのに、何だよあれは。
まるで目立ちたいと言わんばかりな活躍だ。もう少し自重しろ自重を。
「ジャックのクローン三体に操縦させたのは間違いだったかなぁ……」
「あぁ~……全く、クローンの無駄遣いはやめてくれよ…」
飲料水の入ったコップを口に付けて飲みながら、ミディアはそう答えた。
ミディアの言葉に、ショウマは僅かながら呆れた様な表情を見せた。
「仕方ないでしょ?コスト的にも一番だし……」
「新型武器のテストとか戦闘訓練にも使うじゃないか?この前だって電磁砲の射撃テストの為に何十体か吹っ飛ばしたし…」
やはり、何事も試すなら生身の人間で試すのが一番だ。
僕は銃を訓練の為に撃ったり、剣を振るったり、それこそ新たな武器を試したりする。
しかし、壁に向かって撃ったりするのはつまらない。
身内同士で訓練するのも悪い事ではない。
しかし、身内同士での訓練はあくまで訓練の範疇を出る事は決してない。
命を奪い合う殺し合いではなく、あくまで勝ちか負けを決める為の訓練だ。
何だそれは、下らな過ぎて反吐の出るお遊戯か?
どちらかが死ぬまで終わる事は絶対に有り得ない。
命を賭けない戦い等、無益でつまらない事この上ない。
最終的な決着は、剣先が目の前にあった時?
何故その負けた弱者の顔に剣を突き立てない?
ただ無情のまま殺す為に戦う、
生き血を啜る様にして、
残虐たる者であり続ける為に、
その過程で生まれたのが、ジャックのクローンだ。
クローンなら幾ら殺しても、何人その手で葬ろうとも変えはある。
コスト的にも、訓練に使うにも、新兵器の性能を試すにも、ジャックのクローンはいい仕事をしてくれる。
「まぁ、今回は大目に見るよ。どうせ代用は幾らでもあるんでしょ?」
「現在の総数は三桁、と言った所ね。今日はヴェイザーが自分の能力を試すって言ってたから、また増やさないと……」
「この前は紫苑が馬鹿みたいに斬りまくってたからなぁ……ミディア、君も大変だね。お疲れ様…」
労りの気持ちは全くと言って良い程篭ってはいないが、一応ショウマは技術開発の全てを担っているミディアに慰めの言葉を投げた。
「もう本当よ……ヤケ酒にでも逃げようかしら……」
「飲み過ぎにはご注意を……それじゃ、僕はこれで」
それだけ言い残して、ショウマは1人ミディアの自室から抜け出して行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そ、そんな………」
「これ……どういう事…?」
あまりに予想外過ぎた光景に、レイヤと椿は言葉を失う。
閉じていた口は開き、目を見開きながら目の前の光景を見つめる。
「おい、大丈夫か?」
「椿……もう無理だ…」
もう手遅れな事は、椿にも分かっていた。
今更救う事はもう出来ない。
しかし、そうだったとしても、
そうだったとしてもだ。
無情にも儚く散っていく命から目を背ける事なんて、その現実をありのまま受け入れるなんて彼女には出来なかった。
「レイヤ……こんなの、残酷過ぎる…」
「獣人族を何だと思っているんだ……」
同じ獣人族の者として、椿は強い悲しみと腸が煮えくり返る様な怒りに駆られた。
椿の目元は僅かながら熱くなり、レイヤは悲しみと怒りが複雑に入り交じった感情を見せる椿の肩に優しく手を置いた。
騎士が完全に葬ったあの巨大な敵。
死体から情報を得る為、レイヤと椿はその地に倒れた謎の敵を調べていた。
何故かは分からないが、仮にも死体が転がっているにも関わらず血の様な臭いや死体特有の鼻を刺す様な臭いは感じなかった。
そして、対象は生物であるにも関わらずやけにその肉体は硬く、まるで鉄すらも凌駕している様な程の頑丈さだった。
ドラゴンやリザードマンの様に、硬い鱗で体が覆われている種も存在しているが、それとこの硬さは別格と言っても良いぐらいだった。
◇◇
しかし、そんな事は真実を知るまではどうでも良い事だった。
倒れた敵の胸辺りに赴いた時、レイヤはその胸辺りに開閉出来る、
言わば扉の様な何かがある事に気が付いた。
――――中に空洞?
と、思いレイヤは好奇心と少しだけ悪い予感が浮かび上がりながらも胸辺りの扉の様な場所を探索する事にした。
レイヤの予想通り、胸辺りには若干歪に変形しながらも開閉する事の出来る扉があった。
だが、後にレイヤはこの扉を開けた事を深く後悔する事になった。
扉を開けた瞬間、レイヤの表情は驚きだけが支配していた。
「なっ…!」
「レイヤ…どうし……えっ!?」
思わず目を手で覆いたくなった。
生臭く、そして鉄臭い。
滴る様にして内部から垂れる赤色の液体。
それは絵を彩る赤い絵の具ではなく、明らかに血液だったのだ。
扉の中に存在した空洞、
その中にあったのは獣人族の死体だった。
3人、皆まだあどけなく、そして僅かながらも幼く見える。
黒髪で全員、どことなくその顔は似ている。
しかし、その目鼻立ちは整っており、美しいと言える程の容姿を持っていた。
しかし、その3人の少女の息はもう無かった。
美しくも見えたその姿は、血にまみれて体の一部を欠損させている。
腕がちぎれている、足がもげている、目が潰れている。
空洞の中は僅かに明かりがバチバチと音を立てて、火花の様な光を散らしながら灯っているものの、それは不気味さを強調するだけだった。
「何で……こんな…」
「あれを操っていたのは、この子達なの?」
疑問が無数に浮かび上がってくる。
しかし、そんな事はレイヤにとっては微々たる事であった。
レイヤは何も躊躇う事なく、扉を開けて中の空洞へと1人突入する。
まるで、使命を果たす為に奔走するかの様にしてレイヤは周りを見る事なく、1人空洞の中へと入る。
「安心しろ、もう大丈夫だ……」
目を開いたまま死んだ3人の少女達。レイヤは、そんな彼女らに優しく声をかける。
勿論、死人に口なし。
何か言葉が返ってくる事はなかった。
レイヤは三回に分けて、空洞の中に横たわっていた少女達を外に抱き上げながら連れていくと、地面に彼女らを寝かせる。
「誰でもいい、布を3人分持ってきてくれ……」
「…はい、了解しました」
レイヤの言葉に、この場所に来ていた1人の兵士がそう答えてくれた。
◇◇
そう時間も掛からない内に、1人の兵士が3人の全身を覆える程の布を持ってきてくれた。
レイヤは目を開いたまま、息絶えた彼女らの目を閉じさせるとそのまま上から布を被せた。
その布は息絶えた表情と、無惨にも傷付いた肉体を隠していた。
僅かに肌に刺す寂寞の空の下、レイヤは僅かに怒りの籠った瞳を見せながら、独り言を小さな声で呟いた。
「何処の誰だか知らんが…必ず始末してやる…!」
『プロトタイプ:NO NAME』
王都:ジブラルタルの第一区都市ライドメリッツェに突如として現れた大型の魔物。
実際は、ショウマとミディアが開発した試験用ロボット。
パイロットは「ジャック・コマンダー」のクローンを3体搭乗させ、同時操縦をさせている。
試作機の為、性能は本来作りたかったロボットよりは低く、基礎フレーム等の技術面的不足により大型化してしまっている。
残念な事に黒騎士みたいなヤツにバラされた。
武装
無反動砲(バズーカ砲)
頭部バルカン砲
その他、夜間用投光器も装備している。




