漆黒フルプレート騎士、何てカッコイイ響きなんだろうか
「あれ、Sは?」
「え………いない!?」
レイヤは思わずの急展開に身を固めながら、驚きの表情を見せる。
目の前には、数十分もあれば街を一つ跡形もなく破壊してしまいそうな大型の魔物がいると言うのに。
「クソ!この状況で2人で打破しろと!?」
「ごにょごにょ言ってる場合じゃねぇ!レイヤ、私が先行する!」
大きさの差は明らかだった。
まるで、巨人と小人の様な数の差だと言うのにも関わらず、椿は先行して1人大型の魔物に向かって先行する。
さながらその姿は獣、恐れる様子を見せる事なく大型の魔物が立つ方向へと1人彼女は駆けた。
「うぉりゃァァァァ!!」
流石は獣人族の力、
椿は思いっきり足に力を入れると同時に、宙に向かって飛び上がり敵の顔面近くへと向かって飛んでいく。
殺意と殺気が浮かぶ双眸、敵を狩ると確信した表情。
黒い革製手袋を装着しながら、はち切れる程までに強く握られた拳。
炎が広がり、燃え盛って闇の中を炎が照らす中で椿は1人、勇猛果敢に敵へと立ち向かう。
「光に…なぁれぇぇぇ!!」
「加勢する!潰れろ!」
右方向、左方向からの同時攻撃。
レイヤと椿はタイミングを合わせながら、巨大な魔物へと急接近すると同時に、頭部に向かって容赦の無い殴打を放つ。
「どうだ!?」
確かにヒットした。
2人が謎の巨大な魔物に向けて放った一発の渾身のストレートは確かにヒットした。
2人共、強い手応えがあった。
レイヤと椿は一度、空中から地面に着地し敵の様子を伺う。
「ちぃ……どうやらまだ帰れないみたいだな……」
椿の、どうだ!?
これは間違いない程のフラグだった。
やったか?(やってない)
ぐらいのフラグと言っても過言では無いだろう。
無論、敵は倒れる事はなくその不気味に光るモノアイで2人を睨む様にして絶えず見つめている。
「援軍はまだ来ないのか!?」
「Sもいないし……誰か来てくれるまで私達で耐えるしか………」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一方その頃…。
「2人、先に……行った。自分も……」
Sも同じ様にして、先に出撃して行ったレイヤと椿の後を追う為、戦闘準備を行っていた。
素手や爪で戦闘を行うレイヤや椿と違い、Sは普通に武器を使って戦闘を行う人物だ。
「早く……武器、取りに…行か…ないと」
まずは武器を手に取らなければならない。
丸腰のままで戦場に赴いた所で、何の役にも立たない。
今は深夜帯。
本当なら、ぐっすりと眠っていたい所ではあるが自分の立場的にも出来ないので、Sは眠い目を擦りながらベットから飛び出した。
◇◇
「武器……あった……」
眠い目を擦りながら、ベットから飛び出したSは武器庫に辿り着いていた。
好きに使って良いと、レイヤやハイネからは聞いているので、どれを使っても怒られる事はないだろう。
「よい…しょ…大型盾、これで…」
多種多様な武器の中で、Sはいつも愛用して使っている身の丈を上回る程の大型の盾を手に取った。
攻撃、防御共に隙のない利便性の高い装備だ。
この大型盾は殴打したり、薙ぎ払ったりする事が出来るので、攻撃にも使える。
更に、数人ぐらいなら余裕で覆いきれる程の大きさなので防御にも使用する事も出来る。
Sはいつも通りにこの大型の盾を選択し、レイヤ達の後を追いかけようとした……のだが。
「よし、行こ……」
「ちょっと待てよ!槍斧の方が良いだろ!」
三重人格たる所以だった。
無論、それぞれの人格は別人の様な意志を持っている。
Sの三つの人格がそれぞれ対立を始める。
「…盾…」
「槍斧!」
「盾…」
「槍斧!」
「盾……」
「槍斧!!」
「Hahaha! You can have it both ways!(訳:ハハハ!どっちも持っていけばいいんだ!)」
等の理由があって、彼女が2人と一緒にいられなかった訳だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「クソが、硬すぎる!」
「随分と、強固に……作ってるんだな…!」
敵の防御面での圧倒的なタフさに、2人は思わず狼狽する。
さっきから何度も殴打しているはずだ。
確かに連続で打撃を当てているはずなのだが、敵はびくともしない。
仮にもし、この敵がゴーレム等だったとしたらとっくにバラバラになっているはずだ。
本来、岩等が結集して生み出されているのがゴーレムなので、2人の打撃の強さであれば理論上ゴーレムは既にバラバラに崩れ落ちているはずだ。
だが、現実は全くと言ってよいぐらい異なっていた。
打撃を何度も与えても、敵は僅かによろめくのみであり、体が損壊したり、一部分が破壊される等と言った事にはならなかった。
勿論、2人はこの王都の中で表向きの最強集団の中では10位と9位と言うかなりの精鋭たる力を持っている。
簡単に殺られる訳もない、無論雑魚は蹂躙されるだけだ。
「くっ………苦肉の策だが、アレを使うしか……」
「おい、レイヤ!あれは使用時の反動がデカイ!今使うのは!」
幾ら自らに危険が及ぶとは言え、背に腹は変えられない。
死んでしまえば、そこで一巻の終わり。
コンティニューをする事は出来ず、そのまま虚しくゲームオーバーだ。
何も出来ず、国に属する一兵として何も出来ずに犬死するぐらいなら、せめて最後は美しく散る。
もともと、自分の命なんて拾い物。拾われなければ今頃、骨も残らず消えていただろう。
所詮は紛い物の様な存在、落ちぶれて選別から外された様な邪魔者。
命なんて、自分からすれば安いモノだ。
「どうやら、また使う時が来た………」
使う時が来た、
そう思った時だった。
「なっ!?」
刹那、目の前に立ちはだかっていた敵の両手両足が突然として切り裂かれた。
正に閃光の如く、目にも留まらぬ速度で両手両足が切り裂かれた。
「Uraaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!」
次の瞬間、場にいた2人の耳に響くのはまるで狂気に取り憑かれたかの様な激しい絶叫だった。
獅子の叫びすら可愛く思える程の絶叫が、炎が埋め尽くすこの場に響き渡った時、2人の動きは硬直する。
そして、両手両足を容赦なしに斬り捨てられた敵はそのまま地面へと崩れ落ちる。
敵の巨体が、勢い良く地面へと叩き付けられた事で、地面は激しく揺れると同時に、目を刺す勢いの粉塵が巻き起こった。
◇◇
そして、二十程数えた後。
粉塵は消え去り視界が良好となった時、レイヤは顔に照り付ける炎の熱に促されて目を開けた。
「え、援軍………」
「…【虐殺天騎士:エレボス】来てくれたの?」
燃え盛る赤き炎と地に横たわる謎の敵の残骸、崩れ落ちた建物の欠片を押し退け、炎を斬りながら現れた存在。
全身黒色で漆黒のフルプレートアーマーに覆われた堅牢な鎧。
右手に強く握られた、一本の禍々しいオーラを放つ黒色の長剣。
闇の中をその漆黒で照らし、一歩一歩足音を立てて歩くその姿は正に、栄光たる騎士の姿だった。
「え、エレボスさん!来てくれたんですね!」
「協力、誠に感謝します」
「……………」
寡黙たる彼は、決して口を開く事はない。
潰し、命を奪うべき敵が消えた時。
エレボスは何も言う事なく、その場から1人立ち去ってしまった。
右手にオイルの様な液体が付着した長剣を握り締めながら、礼の言葉を述べた2人の方を向く事もなく。
その場に残るのは、無数に広がろうとしている赤色の炎。
瓦礫が落下し、壁が崩壊して崩れ落ちた建物達。
そして両手両足を奪われて道に壊れた様にして転がる謎の敵だけだった。
呆気に取られたまま、2人はこの場にただ取り残されていただけだった。




