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溶鉱炉に飛び込むと融解するらしい

 

 意識が消えた。まるで糸がぷっつりと切れてしまったみたいだった。全身の力は抜けていた。

 自然と意識が途絶え、風船から空気が抜けて萎むかの様にして全身から力は抜けてしまっていた。


 即ちそれは死亡、心臓の鼓動が完全に停止してしまい、二度と動かなくなってしまった事を主に指す。

 だが、死に対する恐怖はあまり感じていなかった。あの時確かに僕は自らが握り締めた銃の銃口を頭部に突き付け、そのまま引き金を引いた。


 弾丸は鼓膜を引き裂く音を響かせながら発射されて、脳を目には捉えられない程のスピードで貫いた。


 そんな愚者の様な蛮行は、己の手を持って自らに死を齎したのだった。

 だが蛮行なんて自分にとってはどうでも良い事であった。確かに肉体は骸となり、二度と目を覚ます事は無くなった。


 しかし運が良かったのか、それとも偶然に偶然が重なったのだろうか。僕は何処か分からない空間で再び息を吹き返していたのだ。


 不自然な事に肉体は破裂したにも関わらず、再生するかの様にして蘇り、意識は自然と繋がれていたのだった。


 因みにだが、服は一切身に付けていない。産まれた時と同じ様に裸の姿で意識を保っていた。


 そして何故かは分からないが、僕は今宙を舞う様にして何処かを漂っている。まるで海の中に落とされた様な気分だ。


 フワフワと、まるで空を流れる雲の様にして全身は宙に浮かんでいて下に沈む様にして徐々に下へと降下を始めていた。


 もし今自分が全身を水に包まれていて、海の中に落ちていたと仮定しよう。それなら今頃僕は溺死しているかサメにでも食われて死んでいるのが普通だ。


 しかし今はどちらの死に方も当てはまらない。動かそうと思えば、腕を前に伸ばす事だって可能だし、足をバタつかせる事だって可能だ。


 それに息が出来ないと言う訳でも無く、口や鼻の中に止めどなく水が流れ込んで来ると言う訳でも無い。目を開けていても平気だし、普通に鼻と口を使って呼吸する事が出来る。

 だがこれが本当に自らの双眸に映る景色ではなく幻覚と言う可能性も否定出来ない。


 確かに死んだ。


 だが死んでいなかった、まだ生きていたと考える事も可能だ。


 臨死体験とか幽体離脱と言う現象も嘗ての世の中では報告されていると言う訳だ。今僕が見ているこの虚無の空間もそれに準ずる様な景色ではないかと推測する事も容易に出来る様に思える。



「あ―――」



 思わず口から声を零してみる。ただ『あ』と言う単語を軽く伸ばして発音してみた。


 言葉を呟けば何か反応があると期待した訳では無い。ただ何となく、素直に言葉を呟いてみたいと感じたからだ。


 自分が今漂う世界。例えるのなら、真っさらで何も描かれていない様な無色のキャンバスだ。


 (くう)の世界であり、無色で真っ白な世界。無機質であり殺風景、地平線が広がる様な程に澄み渡って、先が見えない世界。


 興味が湧くと言うよりかは、浮かび上がるのは未知と終わりなき虚無に対する怯えと恐怖であった。

 しかし今の僕の壊れかけた思考では、この未知と虚無に対する恐怖は完全に消えてしまっていた。

 寧ろ何故にこんな未知と虚無に対して怯えと恐怖を抱くのかが分からない。


 何でこんなモノに恐怖する?


 理由が分からない。


「誰かいませんかぁ~?」


 冗談交じりな口調で質問を投げる。誰に投げたかは不明だが、きっとこんな空間に長居していれば誰かが問いに答えてくれるだろうと期待した。



 ――まさかこんな何も無い世界を永遠、漂い続けるのか?



 そんな風に思っていた時期が僕にもありました。彼の予想は直ぐに的中した。

 誰かは分からない。しかし脳内に誰かが直接語りかけてきた様な気がした。俗に言う『テレパシー』とか言うヤツだろうか。



(目覚めよ、乖離した者よ)



(え、誰?)



 この言葉は至極真っ当な回答だろう。いきなり名前も、素性もそして姿も見えない奴から脳内に直接声を流し込まれてしまえば、彼でも素直に正体を尋ねるのは当然の反応だった。

 脳内に語りかけてきていたので、こちらも脳内で会話すれば良いと彼は思った。

 なので、口には出さずに脳内で会話を行う選択を取る事にした。



(私が誰であっても貴様には関係の無い事……)



(いや、普通出会ったら話すものだろ?)



 翔真は瞼を下ろして目を閉じ、精神を謎の人物の言葉に集中させる。他の事は全て忘れて、ただ会話の事にのみ集中力を全て注いだ。

 どうせ邪魔をする者もこの場には存在しないだろう。落ち着きながらこの対話を開始する事にした。



(中々の物言いだな)



(要件は一体なんなんだ?僕に何を求める?)



 翔真の言葉に謎の人物は嘲笑いを含めた様な口調で翔真に語りかける。



(貴様の思考は実に美味だ。眺めているだけで腹が満たされる様だ……)



(人の脳ミソって美味いの?)



 今の言葉をそのまま解釈するのなら。

『アンタの脳ミソって美味くて何回も食べたい』

 ……と言っているのとほぼ同じ様な物言いだ。普通に見れば、人の脳ミソが美味いって言うただの異常者にしか見えない。

 と言うか、異常者以外に考えられる?人の脳ミソ美味いって言っている奴は見た事が無い。読者の皆様は見た事があるだろうか、脳ミソが好物って言ってる人。



(フフッ、話が逸れたな。貴様に面白い力をやろう……貴様は世界を滅ぼしたいと思っているのだろう?)



 謎の人物が言っている事はあながち間違ってない。まるで思考が読まれているかの様だ。


 前々から、世界はクソッタレで全て自らの手で滅ぼしてやりたいと思っていた時がある。

 最早時がある、と言うよりずっと心の奥底で思い続けていた事である方が正しい表現だろう。



(あぁ、思っていたよ……叶うなんて思っていないが…)



 しかし世界を滅ぼす、だなんて普通に考えれば夢物語も良い所だ。実現なんて簡単、難しい、所の問題では無い。


 だが今自分の脳内に直接語りかける謎の存在は、まるで彼の言葉を肯定する様な言葉をかけた。笑いながら否定されるとでも思っていたのだが。



(行け……乖離した者よ。その力で何をなすかは分かっている筈だ……)



 一体どう言う事だよ、とツッコミたくなる気持ちが翔真の心の中にはあった。状況の多くを理解出来ていないし、何よりここが何処なのかすら全く理解していない様な状況だ。



(はい?力って何?それに、世界を滅ぼすとかの云々の前に死んだんじゃ?)



 しかしそれ以上何か翔真に対して言葉が返ってくる様な事はなかった。

 それ以上は何も答える事も、何か問い掛けてくる事もしなかった。


 最後に自らの双眸に映る景色は、融解されて溶けていく様にして消えていく自らの元の肉体と植え付けられていくかの様な何かであった。


「あ、ああ、ああ!!」


 まるで何か刷り込まれていくかの様だ。体に何か特別な装置を埋め込まれてしまい、操られているかの様な感覚に陥る。



 全身が震える。脳も震える。



 それと同時に肉体が溶鉱炉で融解されて、液体の様に溶けていくかの様な感覚に陥っている。

 そして気が付いたら、自らの肉体は溶けていた。元のあの『國崎翔真』としての肉体は完全に滅んでしまっていた………。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 取り敢えず状況を整理した方が良いかもしれない。

 溶鉱炉か何かは知らないが、元の「國崎翔真」としての肉体が完全に滅んでしまった後、僕は何故かは分からないが新たなる肉体を手に入れていたのだ。


 所謂『転生』ってヤツだろうか。

 アニメや漫画、ライトノベルではよくある展開である事は十二分に知っている。しかし現実で本当に起こるとは流石に思っていなかった。


 普通ああ言うのはただの創作物の中にある存在であり、現実では起こりえない。

 異世界転生、異世界転移等と言った展開は信じられない。しかし今、自分は確かに赤子の姿となっている。

 明らかに体は縮んでおり、声も思う様に出す事が出来ない。

 今の所、出来る事と言えば最近になって意識がハッキリとしてきたので、周囲の中世時代の欧米を彷彿とさせる景色をただ眺めるか、時々自らを抱き上げてくれる両親の姿を眺める事ぐらいしかやる事がない。



(まぁ、赤子だから仕方ない……か)



 今はまだ生後数ヶ月の小さな赤ん坊だ。素直に周りに従うしかやる事は存在しない。なので、現状を整理する事にした。

 現状で、自分が分かる事は以下の通りだ。


 自分の名前は「ショウマ・フィフティール」と言う名前らしい。前の時と同じなのは何故か?分からん。


 まだこの部屋から出た事が無い為に分からないが、どうやら貴族の家に産まれたらしい。父親と思われる人物は執事や侍女を侍らせているのが見て分かった。


 この世界はやはり前に生きていた世界とは異なる世界の様だ。言い換えると本当に転生したと言う事になる。景色、服装、設備全てを見て、すぐに理解出来た。


 と、これぐらいの事が精一杯であった。しかし今の状態ではまともに動く事も出来ない状態だ。


 今はチャンスを待つ事にしよう。どうせ時間は遅い様であっという間に流れていくのだから。




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