いっけなーい遅刻遅刻!からの曲がり角で思いっ切り激突するのは最早常例である
口に一枚の食パンを咥えながら、いっけなーい遅刻遅刻!
とわざと周りに聞こえる勢いで言いながら、思いっ切り走っていると不意に角を急カーブで曲がった時に見知らぬ人にぶつかって、学校でそのぶつかった人が転校生として現れて、そこで運命の出会い!?
と、見慣れた様で見慣れていない様なシュチュエーションを何処かで一度は見た事があるだろう。
所謂、少女漫画や恋愛系におけるテンプレの1つであり、非常に世の中には浸透しているネタの一つだろうと僕は考えている。
今回は口にパンは咥えてはいなかったが、同じ様な形として歩いていたら曲がり角で出会い頭に衝突したと言う事態が起こった。
恐らくだが、これは学園ラブコメではないのでそう言った展開は薄いはずなのだが、学園と言う事に違いはないのだが、何で異世界で起こっているんですかね。
「あぁ……僕は大丈夫だ、君は?」
「うぅ…まだお尻が痛いですぅ~」
何だよその反応。
めっちゃ綺麗なソプラノボイスでそんな事、言っていたら、キュン死しちゃうかもしれないじゃん。
薄い銀髪にショートカット、しかも周りには手に持っていたであろう魔法書が散らばっている。
更にぶっちゃけた話、ヴェイザーや紫苑やジャックに劣らない美しくも小動物の様な可愛さのある美しさ。
あれ、間違えてラブコメルートに舵を切ってしまったのか?
「ほれ、しっかりしろ…」
「はい、本当にごめんなさい…」
少しく曇り、反省しながらも何処か可愛げな表情を見せる1人の生徒。
揺れる美しくて艶があり、薄い白銀髪のショートカット及びストレートヘアは愛らしさが詰まっていた。
ショウマは目の前の生徒に立ち上がる様に促し、右手を差し出す。
差し出された彼の手を、目の前の生徒は素直に掴んだ。
「んしょっと、ありがとう!」
「無事ならよかった………あれ、君…イージス魔法学校の制服を…」
よく見ると、目の前の生徒はショウマと同じ『イージス魔法学校』の制服を着用していたのだ。
しかもショウマと同じ、男子生徒用の制服でズボンを履いている。
更に一人称は僕、しかも魔法書を沢山持っている、若干小柄。
あれ、これって…。
『ボクっ娘』
『勤勉系』
『小柄』
これを詰め込んだ新手のヒロインではないだろうか。
異世界となると、引っ込み思案で魔法についての勉強に非常に熱心な人見知りなヒロイン。
一人称が僕のショートカットでスカート等ではなくズボンを履いている活発系なヒロイン。
ちょっと背が小さくて、他の生徒から小動物的な扱いを受けるヒロイン。
目の前の人ってこれを全部足して2で割ったみたいに感じになってない。
何か、それぞれの良い所を取っている様にも見えなくない。
これはもしや、新たな恋の予感?
「あ、あの…よかったら名前!……教えてくれませんか?」
何故か頬を赤く染めながら、白銀髪ショートカットボクっ娘はショウマに対して名前を聞いてきた。
モブになると言っていたが、恋仲に発展せずに、普通に友達として仲良くなる分には問題は無いはずだ。
心の中でガッツポーズを決めながら、ショウマは自信ありげに名前を呟く。
「僕はショウマ…『ショウマ・フィフティール』だ。まぁしがない田舎の貴族だ、よろしく」
「ショウマ君、よろしく!僕はマリス『マリス・ヴァンパッテン』よろしくね!」
ん?ヴァンパッテン……。
何か聞いた事あるな。
あ、金髪ツインテールを完膚無きまでボコボコのボコにした『ディクロス・ヴァンパッテン』と同じだ。
まさかの兄妹設定だったのか。
よく分からないが、一応の事もあるし聞いてみるか。
「ディクロス・ヴァンパッテン……と同じだね…」
「え!?お兄様をご存知なの?」
そう言うパターンか。
この子多分だけどブラコンの属性も備えているよ。
恐らくだが、兄であるディクロスの名前が出てきた途端にマリスの表情には強い光が宿り、声の感じも明らかに明るくなっている。
絶対にこの子ブラコンだよ、お兄ちゃんの事大好きな妹属性のキャラだよ。
姉系のヒロインは周りに何人かはいるが妹属性のキャラは薄い気がするので、これはこれで良いかもしれない。
「と、取り敢えず学校行こう…か?」
「うん、一緒に行こう!」
意外や意外、モブとして過ごそうと思っていたが妹属性やボクっ娘属性を兼ね備えている可愛い子と仲良く出来る事になってしまったよ。
まぁ付き合わない程度に仲良くするのは別に構わないだろう。
前世じゃ女の子と話す所か、同じ性別の人ですら話せる機会に恵まれなかったので、こっちの世界では少しぐらい話す機会に恵まれても良いだろう。
そもそも普通なら、異世界に来たら可愛い女の子と仲良くするのが当たり前なんだけどね。
僕は例外でありたいが為に、そしてイレギュラーってカッコイイと感じている少しイタい人間である為やっていないだけだ。
恐らくだけど、僕がまだ普通な考えを持っている人間だったとしたら少なくともこんな事はやっていない。
普通な考えであれば、無心のままにトラック事故からの異世界転生俺TUEEEE無双ハーレムライフを満喫しているだろう。
少しばかり異常である為にこうなっているだけだ。
て言うかこうしたかった。
こうなって欲しかった。
狂っている様な、美しい様な、面白可笑しくて笑える様な感じになってほしい。
それが忠実な願いだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
作戦会議室?
言ってしまえば、この先出てくる悪役達が一堂に会する様な暗い場所。
以下にもって感じの雰囲気で、敵キャラの味を出す事が出来る便利な空間だ。
薄暗い空間に悪い感じの人間が一斉に会して椅子に座っていたりする。
これも異世界系、と言うかバトル系の漫画やアニメならよく見られる展開だ。
「昨今は類を見ない程だな……」
手元の紙に纏められた資料を、1人の男は見つめている。
そして一通り見終えると、男はその紙を大きな机の上に叩き付ける様にして投げ捨てた。
「死亡者数が不自然な程に増えてる。明らかに異常よ……」
「…実に奇妙、どう言う事なの……」
1人の赤金の短めの髪をした女性は、物静かに話すと思いきや、突如として声のトーンと瞳の色が突然切り替わる。
「ったく、何だよ!好き勝手やりやがって!」
そしてまたしても、
「アハハハハ!こんなに殺されて、ノロマだなぁ!カバみたい!バカだけにって!ギャハハハ!」
「ギャグセンス低いなぁ…」
「ほらアンタ達、バカやってないで始めるわよ!」
そんな3人を纏める様にして、長く伸びた薄い金髪の女性が大きな机に資料が記載された紙を置き、席に座る。
「例の件については聞いているわね?」
「昨今、この王都を騒がせている連続殺人。犯人は不明、遺体からの証拠も無し、犯人の目撃情報及び似た情報も無し」
「そのせいで犯人が個人なのか、それとも組織的犯行なのかも不明。ただ犠牲者が増える一方……」
「フハハ!このザマじゃあ何れ王都の奴ら全員屍になっちまうじゃねぇか!」
不意に笑えそうで笑えないジョークを飛ばす1人の女性に対して、この場に座る男性は発言を行った。
「それを止めるのが我々の役目だ…。隊長、何か心当たりは?」
しかし、この場にいる全員はこの連続殺人の犯人を知らない。
分からないのに、答えを導き出す事は出来ない。
なので、答えを導き出せなかった男は隊長格である薄い金髪の女性に助言を求める。
十数える程、時間が流れる。
女性は顎に手を当てながら、少しの間考えると何か思い出したかの様にして、口を開いた。
「私の知る都市伝説の中に、こんなのがある…」
それは過去に偶然知った話だった。
偶然小耳に挟んだ程度であり、自分だって最初はレベルの低い嘘だろうと感じていた。
どうせ子供が着いた様な嘘か、何処かの間抜けが広めた下らない冗談だと思っていた。
しかし何故か、風の噂で耳にしたその都市伝説は今も頭を離れない。
鮮明にして、目に焼き付く様にしてその話だけは異様な程に脳内にこびり付いていた。
「奴らは何が敵であっても恐れる事は無い、喩えそれが悪魔であったとしてもひれ伏させる…」
薄い金髪の女性は、薄暗い空間の中で静かに話を始めた。
彼らはそれをただ黙って聞いている事しか出来なかった。




