地味に生きると言うのはとても難しい
「あ、スズキ君、オクノ君。おはよう」
「あぁ、ショウマ君。おはよう」
「今日も遅刻せずに来れて偉いぞ!」
地味にこの学校生活を楽しむのが、ある意味今の目標かもしれない。
かれこれ、この学校に入学して早数週間と言う時間が経過していた。
僕は背景の人間の様にして日々を過ごしていた。誰からも注目される事もなく、誰かからお嬢様の様にして崇められる事もなく。
僕はこの学校と言う世界の中では、地味な陰キャとして過ごす事にして、所謂オタク3人組の1人としてクラスに存在していた。
このオタク3人組は僕を含め、後2人によって作られたオタクグループだ。
歴史やミリタリーな話に強い興味と関心を抱く少し変わった生徒である『オクノ』
そのオクノの親友であり、高いオタク知識を持つ口の悪いメガネ青年である生徒『スズキ』
そしてこの僕、ショウマがこのオタクグループを作り上げていたのだ。
全員揃って日陰者であり、あまり表立って行動を行おうとしない陰キャの象徴の様な存在。
だがこれで良いのだよ、表向きは。
表向きはこんな風に目立たない人間を普通に演じていれば良い。
本性と言うのは裏に隠しておく方が余っ程安全だ。
自ら本性を顕にするのは個人的には間違いだと感じる。
この学校生活の中で自らの本性を明かして暴れ回るのも嫌な話だ。
今日も僕は1人のモブとして、背景の人間として日々を過ごす事にする。
そう言って、ショウマは後ろ辺りの自分の席に座り込んだ。
「皆、今日は実戦式の授業を行います。準備が出来たら、外の訓練場まで来てください」
そうだった、忘れていた。
今日は実戦式の授業と言う名の訓練が行われる日であった。
異世界系の学校では最早、通過儀礼の様になっているこの『実戦式訓練』と言うイベント。
大体の場合は、ここで誰も組む人がいなくてお嬢様ポジションの人と組むだとか、最初のラッキースケベ展開に巻き込まれたヒロインがぶっ潰してやる!と言いながら絡んでくるのが定番だ。
だが、僕は今は主人公のつもりは無い。
主人公っぽい、あのシンリとか言う男に全て任せておけば良い様に思っている。
僕は今は背景の人間だ。適当にスズキ君かオクノ君辺りと適当に組んで、手を抜いて練習でも…。
と思っていた時期が僕にもありました。
いざ外へと飛び出し、訓練場へと辿り着いた所までは良かった。
そして、ボッチキラーとも言える禁忌に等しい言葉「二人組作ってください!」と言う言葉がサガル先生の口から飛び出した。
はい終わった、
と前の僕なら間違いなくそう言っているだろう。
しかし、今の僕なら話は別だ!
何故って?
さぁ、スズキ君オクノ君。
僕とペアを組んで………
だが、ここで元々のボッチとしての何かが覚醒してしまったのかそれとも天が僕の事を容赦無く見放したのかは分からないが、
結果として僕は誰ともペアを組む事が出来なかった。
スズキ君とオクノ君は既にこの2人でペアを作ってしまっていた。
何でだよ!
流石だ、裏切りスピードも尋常じゃないぐらい早い。
僕は誰とペアを組めば良いんだ。このままだと僕泣いちゃうぞ。
主人公っぽいシンリは案の定、シャルティとペア組んでるし先生に至っては、観察係として剣の訓練を行う気はなさそうであった。
「日陰者に勤しむか……」
僕は別に1人でも構わない。
寧ろそっちの方が、僕としては有難い事だ。
基本的に人と関わる事は避けておきたい立ち回りを心掛けている為、誰かと何か共に行動を起こすつもりにはなれない。
誰かと剣で斬り合うぐらいなら、ただ1人で剣をひたむきに振っている方が余っ程マシだ。
「ちょっと、そこのアンタ!」
だが今日はハズレを引いてしまったらしい。
よりにもよって、まさかの金髪ツインテールに絡まれる事になってしまった。
通称:金髪ツインテール又は典型的ツンデレ
「あ、アタランテさん?ど、どうしましたか?」
「特別にあたしと組ませてあげる。あたしの剣の練習相手になりなさい。どうせアンタも組む相手いないんでしょ?」
「は、はぁ。分かりました(そんな言い草だから誰も組んでくれないんだよ)」
しかし、対人との訓練と言う事だ。嫌だと駄々をこねていても仕方が無い。
モブや背景の人間だって一応訓練はしている所がある。
それなら、やらなくてはならないのが普通だろう。
流石にサボるって言う手を使うのも気が引ける。
「それじゃ、これから実戦式の訓練を始めますね。皆さん木刀を使って一対一の練習を行ってください。休憩等は各々でしてくれて構いませんからね」
「よし、ショウマ!やるわよ!」
「は、はい。宜しくお願いします。アタランテさん(勝手に呼び捨てしてるし)」
さて、早速だが最早異世界の学校では定例となっている実戦式訓練が始まる事となった。
勿論だが本気で戦う気は毛頭ない。
恐らく僕が本気で戦ったりなんてしたら、まず間違いたくこの場にいる生徒先生全員は塵に帰るだろう。
本当なら天下無双と言える程の力を得ているが、こんな初歩中の初歩的イベントで、変に着飾って強大過ぎる力を見せびらかす必要は無い。
強者と言う名の雑魚筆頭を主人公っぽい奴が己の圧倒的パワーでその強者っぽい奴をボコボコにして、可愛い年上の人に期待の目を向けられると言う展開は今回はなしだ。
僕はカッコよく決めるつもりは一切ない。
なので、
「あべしぃ!!」
「あら、軽くいたしただけなのに」
こう言う風に弱者を演じていた方が良いのだ。
口だけ達者で腕は立たない。これでいいんだよ。
雑魚らしく振舞っておけば万々歳だ。
「づ、強スギィ…」
「そ、そんなに?貧弱過ぎない?」
「あぁ、僕はやっぱりこう言うの苦手だ…(ツンデレが崩れるぐらいって…)」
「ちょっとショウマ!何へばってるのよ!?誰の許可で地面にぶっ倒れてるのよ!?」
「ちょ、ちょ待ってよ。僕もう動けないよぉ~」
「あたしに逆らう気?中々イイ度胸してるじゃぁないの。3秒だけ待つわ、立つか寝転がったままシバかれるか、選びなさい!」
コイツ後で殺してやろうかな。
なんだよお前、救世主に対してごにょごにょ馬鹿みたいに言いやがって。
ったくこんな奴、ジャックと一緒に拷問してやりたい気分だよ。
その傲慢な面を容赦無く叩き潰してやりたい気分だ。
「はぁはぁ、全く。酷いね君は…」
「3秒以内に立てた事は褒めてあげるわ。それじゃもう一回いくわよ!」
「えぇ、またぁ?」
と言いながら、半場アタランテは強引な形で表向きはボロボロの状態になっているショウマに向けて距離を詰める。
これ以上キャラを作って演じ続けるのも嫌になってきたよ。
もうブチ切れてやろうかな?
「はい、2人共ストップ!」
キレかけていたショウマの間に割って入ってきた人物がいた。
それは彼の担任であるサガル先生だったのだ。
サガル先生はショウマとアタランテの間に割って入ると同時に、両手を横に広げ、彼らの前に手を出して練習を止める様に促したのだ。
「な、サガル先生!今良い所だったのに!」
「アタランテ君、人のペースに合わせる事も大切だよ。見て、ショウマ君はもう疲れてる。なのに無茶させて振り回してはダメだ。ショウマ君も一度休憩した方が良いよ」
「はぁ、助かった……先生、すいません」
「いえいえ、上達速度は人それぞれなので気にならさず」
先生、こうやって優しく接してくれるのは有難いんだけど………。
裏切りフラグが沢山立ちまくってますよ。
やはり異世界と言う場所において、生徒に親身になって接してくれる先生は裏切り者と言う可能性が大いに有り得る。
断言出来る。今後、絶対に何かやらかすだろう。
監視は強めておいた方が良さそうだな。
「そ、それじゃああたしの相手は誰がすれば……」
「成程、戦う相手に困っているのですね…」
「んっ、誰かしら?」
「その様な事情があるのなら、私がお相手しましょう」
アタランテは落ち着きと爽やかさのある、少し低い声に反応して後ろをクルッと振り向いた。
その正体を見て、アタランテを含めた場にいる全員は目を丸くする。
「あ、あなたって…え、本物!?」
「え、あれって!」
「本物じゃん、スゲェ!」
アタランテの前に立つ1人の青年。
その男は、アタランテの前に右手を差し出し、落ち着きがあり僅かに微笑むかの様な表情でアタランテに言葉を投げる。
「『第肆位』【迅雷の英霊:ディクロス・ヴァンパッテン】良ければ私と一戦どうでしょうか?」
お前も裏切りキャラか!?
風貌、立ち振る舞い、容姿、異名の呼ばれ方。
うん、また裏切りキャラ来たねこれ。間違いなく、間違いなく、裏切りキャラでしょ。
この世界は裏切りキャラを作るのが好きなのだろうか?




