平穏なんてねぇんだよボケが
やれやれ気が付いたら、モブとしての平穏ルートではなく、年上お姉さんとの恋愛ルートに舵を切る所だった。
結果として、頭撫で撫でに加えて膝枕にほっぺにキスまでしてくれたので、最早モブとしての平穏ルートなんて言ってられないのだが。
普通に考えて、モブ如きが褐色お姉さんに色々としてもらえるなんて思わない方が良いし。
あれ、もしかしてモブじゃなくて主人公ルートかこれ?
まぁ、多少の羽休めの遊びには目を瞑るとしよう。こう言う事もある意味、新鮮で面白い事だ。
折角の異世界と言う、非現実的な新たな世界へとやって来たのだ。楽しめる内に楽しんでおいた方が良いだろう。
他にも楽しみな事はあるが、まずは目先の事に集中する事にしよう。
「それじゃ、僕は明日に備えてもう寝るよ」
「添い寝してやろうか?」
「僕は何も聞かなかった事にする」
何も聞かなかった事にしておこう。
そう心の中で呟くと同時に、ショウマはベットの上に敷いてあった布団の中に何も言わずに潜る。
ショウマは布団の中に潜り込まれない為にも、必死になって寝たフリに徹する。
「ったく、釣れないねぇ~」
「ZZZ……」
「今度風呂入ってる時に凸ってやる…」
少し悪い考えを表に見せながら、ヴェイザーは眠ってしまったショウマを置いて部屋から消えた。
勿論、部屋の明かりを落として。
◇◇
――――うん、人多いな
思わずながら、人の多さに息が詰まりそうだ。
まるでスクランブル交差点を歩いている時ぐらいの人の群れだ。
正に群衆の中、その中に僕は今立っている。自分の長剣とバックを所持した状態で。
可能なら背景に同化している事を願いたい。
僕が知っている文化において、大体の場合はこの無数の群衆の中からまるで美しい様な一輪の花の様な人物が現れる。
そして、その美しい花の様な人物の周りには誰もおらず不規則な列をなす群衆の中に、その花の様な人物を歩かせる一本の道が出来る。
更には周りから、
―――あれって名門○○家の!
―――入学テスト首位だったあの!
―――実技試験で歴代最高記録を打ち立てた!
等の何故か聞いた事のある会話が飛び交うのが定例と言った所だろう。
今まで読んできた異世界系小説や漫画では散々見てきた展開だ。
まぁこの演出はヒロインの魅力や特徴を際立たせる為の演出だと僕は思っているのだが。
そして今現在進行形で、僕の前でも同じ様な出来事が起こっている。
まさかとは思ったが、本当に起こるとは。本当の異世界では何が起こるのか分からないな。
「ねぇ、あの人って…」
「あ、知ってるぞ。確か『シラヌイ』家の!」
「え!?もしかして、あの『シンカ・シラヌイ』の弟!?」
―――え、男?
こう言う所って普通なら、銀髪ロングヘアの美しい女の子とかじゃないの?隣にメイドとか侍らせて。
もしかして、主人公ポジションか!?
まさか、転移させられた奴か!?
それともトラックに吹っ飛ばされて、チート山積みで転生してきた奴か!?
色々と複雑な心境を抱きながらも、聞き覚えのあるセリフ達を聞いたショウマは好奇心に駆られ、思わずその方向を見つめてしまった。
「あっ!」
思わず、周りにギリ聞こえないぐらいの大きさの声が出てしまった。
しかし、普段から冷静な姿勢を崩さないショウマでも、目の前を歩く人物に、流石に多少驚きを見せてしまう。
黒髪、ストレートヘア、しかもそれなりに美形。
―――今分かりました。コイツは異世界系小説の主人公だったんですね!
これは実に素晴らしい。後でジャックに連絡入れておこうっと。
後で捕まえさせて拷問するか。主人公って傷付く事はあるけど、基本的に頬が少し裂けるとか、服が破けるとかしかなくて、重症は大体負わないってイメージなんだよな。
ああ言うのって存在そのモノが腹立つから、捕まえて監禁して徹底的に拷問するに限る。
確か、地下施設には拷問部屋も作ってるらしいから捕獲出来そうな時にでも捕獲……。
「あの、宜しいでしょうか?」
「はぇ?あ………」
元を辿ると彼、ショウマは陰キャである。
そしてさっき、彼はかなりへん曲がった面白可笑しい妄想に耽っていた。
結果、本来なら主人公やヒロインが通る道が出来る場所の真ん中に、ショウマはモブ及び背景人物でありながら立っていたのだ。
簡単に言うと、妄想に耽り過ぎて周りが見えなくなってたって訳。
うん、ただのアホじゃん。
「主様がお通りになるので、お退きになってもらえます?」
「あ、すんませんした」
「妄想も程々にね……」
(何で読み取られてんの!?)
去り際に主人公っぽい奴から妄想は程々に、と言われた気がする。
と言うか、気がするじゃなくて言われた。明らかに耳に入る声の大きさで主人公っぽい奴は僕に向かってそう言った。
嫌な奴だぜ、今ので主人公候補から、主人公を見下した挙句決闘したけどあっさりボコられて泣き面晒す噛ませ犬に見えてきたよ。
全く、嫌な話だよ。
立ち往生もなんだし、さっさと教室行くか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
―――はぁ~何でこうなったの、説明してくれる?
僕のクラスは全部で30人と言った所。勿論、顔を知る人物は誰一人として存在しない。
まぁそれは良いだろう。異世界の魔法学校なんて顔見知りの奴がいる方が珍しい。
全員、この学校の指定の服を着ており、全員揃って鞘に納められた長剣を持っている。
学校では抜かないでね、と先生は言っているが。
しかし、こんな事はぶっちゃけ何の関係性も無い事だ。
僕が気になるのは、そんな事よりも自分よりも斜め前の方に座っているあの主人公っぽい奴だ。
何で同じクラスなの?
例の良い嫌がらせか?
それとも、スタ○ド使い同士はひかれあう的な感じに主人公同士はひかれあうみたいな感じなの?
だが実に奇妙だ。別に僕はス○ンド使いでは無い。
仮に使えたとしても、絶対に役に立たない様な能力だろうけど。
まぁこっちには見向きもしない。その代わりなのだろうか、隣に座っている紫髪のポニーテールのめちゃくちゃ可愛い女の子とずっと何か話してるよ。
異世界系主人公っぽい見た目に加えて、まだ学校生活が始まってもいないのにヒロインっぽいキャラと仲良くしている。
おい、何なんだよコイツ。
もしかして何かの純愛系小説から現れた刺客なのか?
何かもうそれっぽい雰囲気になってるし。
あんなに可愛くて可憐で清楚な感じの女の子と仲良く出来るなんて。
しかも、個人的には素晴らしいの一言に尽きるポニーテールと言う。
何故だろうか、薄紫髪とポニーテールって何か相性良いと思うんだけど…。
だがこっちを見てみろよ、
変に誘ってくる年上デカ乳魔族ハーフとか。
殺し&暴力=性的興奮と言う中々ぶっ飛んでいる性癖を持ってる獣耳っ娘とか。
常に勝ち気で男勝り、ある意味一番マシかもしれない武士みたいな女とか。
研究と開発にしか目が無くて、それ以外の事には全く興味を示さない研究者だとか。
こう見ていると、ニクスやディープの方がかなりまともな部類に見えてきてしまう。
完全なロボット>可愛い見た目の女の子
何でこうなるの?
もうちょっと性格が普通の人を……。
そもそも、この組織に普通を求めるのが間違ってたな。
やっぱり、平穏を求めるのは間違っているな。
腐っても、僕は犯罪組織の首領である。
やっぱり、モブとしての平穏な学校生活はもう破壊されちゃったみたいだね。
どうしよう、この際主人公ばりに狂キャラっぽく吹っ切れようかな?
それもまた面白いだろうし。
だが、それを実行する勇気は一切無い。そんな事を行う勇気も無い、所詮はただのチキン野郎だ。
やっぱり過去の時と同じ様に、無個性陰キャとして静かに過ごしておく事にしよう。
うん、それが間違いなく一番安全だ。




