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侍と格闘家と狂戦士

 

 地下施設の入り口の前、本来であれば駐屯している筈の兵士達が防衛している筈の場所であった。




 洞穴の入り口の様な場所ではあったが、多くの兵士達が入り口の前に立ちはだかっており、勿論全員武装している。




 それに、兵士の多くは非常に高い実力を保有している。


 この重要施設を守る兵士達が弱い筈がないのだ。中には王族の近衛兵に匹敵する実力を持った兵士だって存在している筈なのだ。



 しかし、今入り口に人は誰一人として存在していない。



 兵士の気配は存在せず、ガランとした雰囲気でまるで気配がなく、生気の存在しない墓場の様な空気になってしまっている。




 存在しているのは赤黒い染みと、異様な程までに臭う鉄臭い匂い。


 まるで水溜まりの様にして広がる血の池、そしてゴミの様にして投げ捨てられた肉塊。




 更にまだ原型を留めてはいるものの、既に息絶え死んだ事にすら気付かぬまま骸へと化してしまっている兵士もいた。




 湿気と血の気が漂い、散乱する人の亡骸と無数に広がる血の海。



 鉄臭い匂いとむさ苦しい様な火薬の匂い、そして地面に転がる無数の打ち出された薬莢。



 何故この場がこうなってしまったのか、それは少し前の時間に遡る必要があった。




 ◇◇




 数十分前、メンバー達は所定の位置に既にスタンバイしていた。



 正面から敵を撹乱及び強襲する役割を任された雪貞、紫苑、ジャックの三人はこの重要施設の入り口から少し離れた場所で待機していた。



 全員にそれぞれ武装した兵士を前にしていたが、三人は全くと言って良いぐらい怯んでいたり、恐れている様子を見せていなかった。



 寧ろと言うか、ジャックに至っては逆に興奮しているかの様な様子を見せている程であった。



「紫苑、ジャック。理解しているな、失敗は許されない……MasterMindからの命令だぞ?」



「おおよ!さっさと全員ぶっ殺してやらぁ!」



「無茶はするなよ、死んだら元も子もないからな?」



「なら、背中は任せるぞ…紫苑」



「あぁ、任せろ!」



 そう言うと、二人は互いに向かい合いそれぞれの双眸を合わせる。

 流石はCRISISの中でショウマとヴェイザーに続く仲良しコンビだ。



「何で、雪兄ぃと紫苑姉ぇの……」



 そしてジャックは未だに……。

 ジャックは獣の様な耳を数回ピクピク動かしながら、手元で愛用している切れ味の高いコンバットナイフをクルクルと回しながら、何処か不満気な表情を浮かべていた。




 ――――Call…応答しろ、Saber



「お、大将?どうした?」



 ―――突入を開始しろ、全員準備完了だ



 それはCRISISの黒幕であり、全てを指揮する存在であるMasterMindからの伝令であり、命令であったのだ。


 魔力通信により、黒幕であるショウマからの通信が来た。


 ―――Attacker、Berserker必ず成功させろ…


 Saberに通信が入ると同時にAttackerとBerserkerにも連続して通信が入った。


 その内容は、必ず成功させる様にと投げかけられた言葉及び命令であった。


 この命令は三人にとって、強い激励であった。


 ショウマの言葉は三人の殺気とやる気を何倍にも増幅させる。



「了解、アタシ達に任せとけ!」



「言われなくとも、お前のなる様にはするさ…」



「兄貴、上手く殺せたら褒めてくれよな!」




◇◇




 刹那、次の瞬間だった。


 三人は一斉に物陰から飛び出し、警備兵が屯している入り口へと向かって、一気に駆け出していく。



「むっ!?貴様ら、何者だ!」



 入り口を見張っている兵ではあるが、勿論警備している彼らが弱い訳では無い。


 全員、異端審問隊と言う大きな組織的防衛部隊に配属されていると言うだけあって全員伊達に訓練を受けていない訳では無い。


 物陰から飛び出して、まだほんの数秒しか経過していないが、入り口を警備していた兵士達は直ぐに彼女達の存在に気が付き、長剣を引き抜き、その先端の鋭い刃を彼女らに向ける。



「なぁに、アタシは通りすがりの……」



 紫苑が背中に背負っていた鞘から長刀を引き抜く。


 それと同時に正面の敵にぶつかる勢いで走っていく。紫苑が高速で走ると同時に上から、人影が飛び出した。



「たい焼き屋さんよぉ!」



 紫苑の上から飛び出した人影の正体は、全身にありとあらゆる火器と言う火器を装備したジャックだった。



 右手には高速での連射を可能とさせるサブマシンガン、右手には散弾を放つショットガンが握られていた。


 黒色の前開けチャック付きジャケットの周りには、多数の榴弾がベルトに接続された状態で繋がれている。


 普通の爆発型の手榴弾、閃光弾、焼却弾等バリエーション様々な火器が装備されていた。



「死ねぇぇ!!」

 


 ジャックの表情が凶変し、狂気の表情を見せる。まるで闘争本能を顕にした暴走する獣の様だ。



 獣の様に尖った八重歯を剥き出しにしながら、右手に握るサブマシンガンの銃口を何の躊躇いもなく引いた。



 ミディアの改造により、ジャックの使用するサブマシンガンは銃弾の装填数や威力を使える範囲で限界までカチ上げている為、恐らくだが普通の銃よりも更に強化されている。


 空中から降り注ぐ無数の銃弾の雨、正に鉄の如く降る雨、蹂躙する爆撃だった。



 彼女の放つ鉛玉の前には、剣も槍もそして魔法すらも無に等しかった。


 銃弾は無数に空から降り注ぎ、警備兵の体を容赦無く穿いていく。


 ジャックの無差別過ぎる射撃攻撃は、僅か数十秒もしない内に多くの警備兵を蹂躙した。



「あ、あ、あぁ………」



 まだ当たり所が良かったのだろうか、恐怖と絶望の表情を見せながら、その場に腰を抜かして座り込む兵士が数人存在していた。



 無理もないだろう。先程まで平然に接していて、何も変わらない様にしていた仲間がこの一瞬で溶ける様にして死んでしまった。


 銃弾の雨を浴び、最早死んだ事にすら気が付かず、蒸発したかの様にして散っていったのだ。



 ――――殺される!



 その考えが一人の兵士の頭の中で強く過った。


 このまま、腰を抜かしていたまま座り込んでいたら、自分も死んでいった仲間達と同じ様に死を迎える事となる。



 必死になって逃げようとする。しかし、腰が抜けて動けない。



「何処に逃げるつもりだ」



 気が付けば、一人の兵士の目の前には雪貞が立ちはだかっていた。

 雪色の髪は、死の風によって僅かにだが靡いている。


 死を受け入れられない兵士の前に、雪貞はゆっくりと歩み寄った。



「がはっ!?」



 雪貞は躊躇う事なく、自らの右手を使い兵士の首を容赦無く掴みあげた。


 成人した男性で更には鎧や武器を持っているにも関わらず、雪貞は片手だけを使って兵士の事を持ち上げた。



 後数十秒の間この状態を維持してしまっていたら兵士は窒息で命を落とす事となるだろう。

 雪貞の握力は凄まじく、とてもだが振り解ける様な力ではなかった。


 徐々に力を込め、少しずつ窒息させていく。



「すまないが、我々もあまり時間を取っていられないのでね……」



「は、はが、はな…離せぇ!」



 兵士の男は首を掴まれた事で徐々に衰弱し、呼吸が出来なくなる。




 息が出来なくなり、視界は霞む様にして曇っていく。






 首には圧死させられる勢いの力を込められている。





 苦しい事は絶対に間違いないだろう。しかし、雪貞は決して離そうとはしなかった。



「悪く思うな……」



 刹那、兵士の男の首を掴んでいた右手及び右腕全てが蒼白い()に包まれた。


 一瞬の出来事であり、紫苑とジャックも僅かな時間しかその蒼白い炎を捉える事は出来なかった。


 右腕に纏う、蒼白く美しくも全てを灰燼へと帰させる様な程に燃え盛っていた蒼炎。


 一瞬だけ燃え盛り、一瞬で蒼白い炎は消え普通の腕へと戻っていた。



 そして、その蒼炎は兵士を跡形もなく燃やし尽くしていた。兵士は骨一つ残りはしなかった。



「ふぃぃ……いつ見ても、雪兄ぃのは強烈だぜぇ…」



「流石、元々『()()()()()』と呼ばれてただけはあるな……」



「その名はさっさと返上させてもらいたいんだが……」



 雪貞は少しだけ、不満を口にした。


 二つ名なんて自分にとっては、さっさと返上したい存在であった。



 しかし今は、それよりも重大な問題が目の前には存在していた。

 雪貞は入り口の先、つまり重要施設の内部。その方向に目を向けていた。


 入り口で躊躇いなくドンパチやったのだ。無論、敵はこの場所へと集まってくるだろう。



 雪貞はすぐさま魔力通信を用いて、先に内部へと突入を開始していた残りのメンバーに連絡を入れた。



 ――――Castor、俺だ。入り口の方は成功だ……



 ――――そう?なら、良かった。今、全兵士と隊長格の奴らがそっちに向かってる…



 ――――CastorとGannerで背後から頼む



 ――――任せなさい



「突入するぞ!」



 その雪貞が叫ぶと同時に、雪貞は躊躇なく正面の入り口の頑丈に封鎖されていた扉を右脚を用いて、容赦無く蹴破った。


 勿論、この重要施設の中には多数の兵士が残存している。

 しかも、正面から突っ込んだのだ。



 雪貞、紫苑、ジャックの三人は案の定、大量の敵に囲まれてしまった。


 数は…………数えるのが面倒臭い程だ。



 しかし、数なんて彼女達にとっては些細な問題だ。


 寧ろ多い方が、彼女らにとっては都合が良い話であった。



 ジャックは敵の多さに思わず舌なめずりをした。

 

 まるで血肉を欲して腹を空かせた獣の様な、生のまだ温かい肉を求める野獣の様な姿だった。


 思わずジャックは頬を赤らめ、まるで欲情するかの様にしてニタリと悪い笑みを見せる。



「さて、始めるか……」



「Berserker、好きにしていいぞ?」



「ウゥゥグァ………ウルガァァァァァァァアア!!」



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