表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/264

第九十四話 幼鳥の行方【中】

(ファン)あにうえが、おへやにいるんですか!」

「おう。俺の手にかかれば、筋金入りの仕事人間もとい仕事烏も一瞬でおねんねよ」


 青涼宮(せいりょうぐう)で仮眠をとった晴風(チンフォン)がのそのそ起き出すころには、(フオ)十兄弟の弟たち九人は、すっかり身支度を終えていた。

 晴風から明け方に帰ってきたという黒皇(ヘイファン)の話を聞いた末の弟、黒慧(ヘイフゥイ)は、おおきな黄金の瞳をきょろきょろさせ、落ち着きがない。


「いっしょにおねんねしてきたら?」

「ふぁっ!?」

「なにそれ面白そう。起きたら寝床に小慧(シャオフゥイ)がもぐり込んでた皇兄上の反応が見物だわ」

「無言で悶えるんじゃないー?」


 割り込んできたのは、黒皇の四番目、五番目、六番目の弟、黒東(ヘイドン)黒倫(ヘイルン)黒杏(ヘイシン)。霍兄弟のなかでは、いたずらっ子で知られる三つ子だ。


「こら。皇兄上と小慧であそぶんじゃない。それより、はやく金王母(こんおうぼ)さまに朝のお食事をお届けするんだ。今日はおまえたちの当番だろう」

「ちぇ」

「はいはい」

「わかってまーす」


 すぐさま、呆れたように黒俊(ヘイジュン)がたしなめる。

 飄々と受け流して去ってゆく三つ子の兄を、黒慧はきょとんと見つめていた。


「さすが次男坊だな。ご苦労さん」

「……ほめ言葉としてお受けいたします」


 真面目だが天然な兄と、わんぱくな弟たちにはさまれた黒俊だ。一番の苦労人はこいつかもな、と晴風は笑う。


「まったく……黒東たちにはああ言ったけど、おまえがそうしたいなら、皇兄上のお部屋に行ってもいいんだからね、小慧」

「でも、(ジュン)あにうえ……」

「昨日は翠桃(すいとう)の収穫で一日がんばっただろう? 宴の準備もほとんど済んでいるから、あとはわたしたちに任せて、皇兄上と休んでいてもかまわない」


 幼い黒慧は、一番上の兄にとてもなついている。すこし前までは添い寝をせがんでいた。まだまだ甘えたい盛りなのだ。

 黒皇が連日『おつとめ』に出ずっぱりで、さびしい思いをしていただろうことは、兄の黒俊だけでなく、晴風ですらわかるほどだ。


(フゥイ)は、いきません……」


 だからこそ、続く黒慧の発言に、その場にいただれもが目を点にした。


「急にどうした、(フゥイ)坊? へんなもんでも食ったか? それとも黒皇のやつがきらいに……はっ、まさか反抗期……」

「ちがいますっ! 慧はわがままいいません!」

「じゃあどうしたんだ? 兄上っ子の小慧が……」

「えと……慧は、とおくまでとぼうとすると、くるしいし、おもいにもつをもつと、つかれます」

「まぁ、ちびっこだしなぁ」

「でも、皇あにうえは、くるしいのも、つかれるのもがまんして、がんばっておしごとをしてます。だから慧も、さびしいのをがまんして、がんばっておしごとします!」

「あらまぁ」


 思わず、口もとを手でおおう晴風。

 晴風がちらりと黒俊のほうを見やれば、眉間をおさえて天をあおいでいた。


「皇兄上……小慧が、わたしたちの弟が、尊いです……」


 そうだった。こいつも弟に弱かったんだ、と晴風は思い出す。というより、フオ兄弟で末弟をかわいがっていない者はないだろう。

 これが黒嵐(ヘイラン)であったなら、発狂して黒慧を撫でくりまわしていたところだ。


「泣くなって、(ジュン)坊」

「泣いてません。目にごみが入っただけです」


 すん……と真顔にもどるさまは、黒皇とそっくりだ。さすが兄弟。


「じゃ、そういうことにしとくわ」


 晴風の言葉が聞こえているのか、いないのか。

 会話についてこれていない黒慧を抱き上げた黒俊が、目線を合わせて破顔する。


「もうじき宴だ。お客さまをおむかえしようね、小慧」


 ぱちくり。ひとつまばたきをした黒慧の黄金の瞳が、かがやきを増す。


「はいっ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ