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第七十二話 春を知る燕【後】

 晴風(チンフォン)静燕(ジンイェン)が、(ザオ)一族の祖先だった。

 ならば晴風が父と、桃英(タオイン)と瓜ふたつだったことにも、説明がつく。


(あぁ……そう言われてみれば、彼女はお母さまとよく似ている)


 桜雨(ヨウユイ)があのまま年を重ねていたら、静燕とそっくりだったろう。


「家族の力になりたいと思うのは、当然のことよ」


 そうして静燕にやさしくほほ笑みかけられたなら、早梅はもう、たまらなかった。

 おのれの腕から抜け出す早梅を、黒皇(ヘイファン)は引きとめない。

 早梅はなだれ込むように、静燕へ抱きついた。


「どうしたらいいのか、わからなかったんです……っ!」


 こころのこわばりをほどかれ、顔をのぞかせるのは、早梅が人知れず苦悩していた葛藤。


飛龍(フェイロン)は、私の両親、想いびとを殺しました。憎い……あの男が、憎い憎い憎いっ!」


 それだのに、飛龍は尊いいのちを奪った残酷な手で、早梅を愛撫していた。

 そうだ、たしかに飛龍に愛されていた。あれは本能のままに食い散らかす、愛執なのだ。


「飛龍の血を引いた子を、愛せる自信がない……むしろ、嫌悪のあまりこの手にかけてしまうのではないか……それが、恐ろしくて……っ」


 桃英も桜雨も、望まぬ婚姻だった。

 ふたりも、こうして苦悩したのだろうか。

 望まぬいのちを宿した未来に、絶望して。


(でも、お父さまもお母さまも、私を愛してくれた……)


 葛藤を乗り越え、梅雪メイシェの誕生にこころから歓喜してくれたのだ。


「飛龍が憎い……だけど、この子には、なんの罪もないんです……」


 懐妊がわかったとき、早梅は死のうとしていた。

 考えるより先に、からだが動いていた。

 取り乱していたのだ。正常な判断ができる精神状態ではなかった。


 だが黒皇に引きとめられ、金玲山(こんれいざん)でおだやかに過ごすうちに、早梅の心境が変化した。

 毎日欠かさず腹をなでる自分に、気がついた。


「愛しく思うのは当たり前よ。あなたのこどもでもあるでしょう?」


 小刻みにふるえる早梅の肩を抱き、静燕が腕を回す。

 子を想う、母のぬくもりが、早梅にじんわりと伝わった。


「梅雪ちゃん、『なにが正しいのか』がわからなくなったら、『自分らしくいられる』選択をすればいいのよ」

「私、らしく……?」

「そう、後悔しないように。自分のこころにも、うそはついちゃ駄目よ?」


 静燕は明確な答えを示すことはしない。

 しかしながら、それは早梅にとっての指標となる。


 飛龍とのこどもを、生むか否か。


(ごめんなさい、お父さま、お母さま……紫月(ズーユェ)


 たとえそれが、ゆるされぬことだとしても。


「私は──この子を、愛したいです」


 心は、決まった。

 だって、母なのだから。

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