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第百五十七話 道を定む【後】

 聞くところによると、皇帝陛下は諸々の公務を問題なくこなされているが、どうやら、体調が思わしくないらしい。

 あまり食事もとらず、眠れないのか、毎夜就寝前に医官に薬を用意させていると。


「陛下の体調不良とやらには、わが(ザオ)家の『氷毒(ひょうどく)』が関係していると思われます」

「早一族が生まれもつ体内毒のことですね」

「えぇ。彼は紫月(ズーユェ)兄さまの血功(けっこう)を食らっていましたし、私の血も少なからず経口摂取しています。いまだ死に至っていないことのほうが、奇跡ですが」

「涼しい顔で痩せ我慢してるってわけか。放っておいても、そのうちぽっくり逝っちゃったりしねぇの?」

「否。二年も耐え忍んでいるのだ。(ルオ)飛龍(フェイロン)は『氷毒』に対するなんらかの免疫を獲得したと見るのが妥当だろう。……つくづく、恐ろしい男だ」


 六夜(リゥイ)の疑問は、厳かな桃英(タオイン)の発言によって一蹴される。認めたくはないが、早梅(はやめ)も父と同意見だ。


「よって、飛龍が完全に『氷毒』を克服する可能性も考えられます。私たちがすべきことは、そうなる前に、確実に息の根を止めることです。しかし……『逆賊』となるには、私たちはあまりに立場が弱すぎる」


 仮に暗殺が成功したとしても、滅亡寸前の一族と、民衆から迫害を受ける獣人。

 現在圧政をしいられている臣下が、主君の崩御とともに手のひらを返し、『逆賊の制圧』という大義名分のもとに国軍を動かせば、早梅たちとて無事ではすまない。

 悔しいが、悲願を果たすには、まだ時期尚早だ。

 これは燈角(とうかく)へやってきた当初、「力を蓄えなければならない」と告げた一心の話にもつながる。


「種族の枠をこえ、『獬幇(かいほう)』が一丸となって立ち向かうことが必要不可欠です。僕は(マオ)族長として、各地の獣人族へ働きかけてきました。真っ先に声をあげたのは、(ラン)族です。先日、狼族長さまとお話をさせていただきました。彼らは『獬幇』を脱退する、とのことです」

「一心さま、それは……!」

「おいおい、正気かよ……!」


 あくまで獣人ならざる部外者でしかない早梅は、五音、六夜らがなにをもってうろたえているのか、すぐに理解できない。


「獣人族のなかでも段違いに孤立している狼族が、あたしたちの助けは必要ないって、突っぱねたってこと」


 七鈴の補足により、ようやく早梅も事の重大さを知る。


「一心さま、狼族はどうして……!」

「彼らなりの矜持があるのですよ。ご安心を。『獬幇』を抜けたというだけで、目的はおなじです。狼族は独自に皇室を追いつめるつもりですから、僕らは僕らのすべきことをしましょう」


 ならば、そのすべきこととはなにか。

 それこそが、本日の本題だ。


「まずは実績作り。具体的な話をしますと、ここ燈角の街に、ひどく苦しめられている獣人がいます」

「獣人を奴隷として売買する闇市……か」

「なっ……そんなものがあるなんて……!」

「残念なことに、六夜の言うことはほんとうですよ、梅雪さま。かねてよりそうした動きが見られるとのことで、私たち猫族はここ燈角へやってきたんです」

「ここは()()()()()()()住みやすい街だけど、獣人に関する違法売買は看過されてるの。で、あたしは一心さまの言いつけで妓楼に潜入して、その情報収集をしてたってわけ。酔ったオジサマたちがいろいろしゃべってくれたわ」


 七鈴の話をまとめると、こうだ。


 木を隠すなら、森の中。

 ひとを隠すなら、ひとの中。


「近々、この街で大きなお祭りがひらかれるわ。そして民衆のだれもが沸くその日、闇市はひらかれる。『招待客』が観光客にまぎれてやってきても、目立たないものね」

「では、私たちの目下の課題は」

「えぇ」


 にわかに気を引き締める早梅のまなざしを受け、一心が言葉を継ぐ。


「闇市で売買される獣人たちを救出すること。そのためなら、なにをやってもかまいません。そろそろわが『獬幇』支部を、次の街へ移す予定でしたしね」


 ひときわ柔和な笑みをうかべた青年が、歌うように言葉をつむいだ。


「──勝負は三日後の、龍宵節(りゅうしょうせつ)です。思う存分、大暴れしちゃいましょう」

 

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