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第百三十二話 烏の嫉妬【前】

 (マオ)族が拠点とする屋敷近くの森で、局地的大寒波と(ひょう)が観測された日の夕方。

 早梅はやめが、(へや)に戻ってからのことである。


 ふりふり、と。

 綿毛のような緑色の花穂がゆれている。


梅雪(メイシェ)ちゃんごめーん! こっち来て俺と話そ? なっ? ほらほら~」

六夜(リゥイ)さまのばかぁ!」

「ぐはぁっ!」


 早梅を猫じゃらしで釣ろうとした六夜が、自爆した。

 ひざからくずれ落ちる六夜。たたた、と黒皇(ヘイファン)へ駆け寄り、ぽふりと抱きつく早梅。

 鍛錬を装って早梅を外へ連れ出した六夜が、駆けつけた桃英(タオイン)から文字通り鉄拳制裁を食らった、というのが一連の経緯である。


 六夜をかばう者は、だれひとりとしていなかった。

 さわぎを聞きつけてすっ飛んできた五音(ウーオン)でさえも、猫じゃらしを投げ出して灰になりかけている六夜の腕をさらい、無理やり立たせる始末。


「うちの馬鹿が申し訳ありませんでした」


 いつも笑っているような糸目の五音が、眉を八の字に下げ、早梅へ頭を下げた。

 五音の右手は六夜の後頭部をわし掴んでおり、有無を言わさず直角に腰を折らせている光景そのもの。


(悪い方ではないと、わかってはいるのですが)


 おのれの胸にしがみつき、ぐすぐすと鼻をすする早梅の頭をなでながら、黒皇はそっと嘆息をするのみにとどまった。

 言いたいことは、瑠璃の瞳でじっと六夜たちを見つめる桃英が、代弁してくれるだろうから。


「郷に入っては郷に従えという。だが妻子ある身で、突然交際をせまるというのは、いかがなものか。先に説明をされるべきではなかったか、六夜殿」

「いやもう、まったくその通りです……」


 猫族は子を成しにくい種族であるがゆえに、男女共に重婚が認められている。

 そのことを、六夜に半ば襲われるかたちで知ったのだ。少なからず、早梅はショックを受けている。

 しかも「妊娠させる気しかない」云々の話を、桃英に聞かれている。控えめに言ってアウト。


「優しすぎんじゃねぇか、桃桃(タオタオ)。このガキは出禁にすべきだ。おいガキ、梅梅(メイメイ)の視界に入んなよ、一生な」


 先ほど桃英から鳩尾への容赦ない一撃を食らった六夜を、追い討ちとばかりに晴風(チンフォン)の不機嫌きわまりない言葉が襲う。


「そんなぁ、お祖父さまぁ~!」

「てめぇにお祖父さまと呼ばれる筋合いはねぇ!」

「梅雪お嬢さま、お茶をお淹れしましょうか。こちらへどうぞ」


 桃英、そして晴風からにじみ出る物々しい空気に、黒皇は早梅を避難させるが吉と判断。室の奥へ誘導する。


「……ごめん、黒皇」

「どうなされました?」

「こわいとか、嫌いに思ったんじゃないの……ちょっと、びっくりしちゃって。あんなに『好き』って、言われるとは思わなくて……」


 いまだすすり泣く早梅の言葉は、ところどころ要領を得ない。

 しばしの思案をはさみ、あぁ……と黒皇は納得する。


(早梅さまは、六夜さまに申し訳なく思ってらっしゃるのですね)


 気持ちを受けとめきれず、泣いてしまったから。

 それが原因で桃英や晴風から激しく非難される六夜に、罪悪感すらいだいているのかもしれない。

 濡れた瑠璃の瞳で、ちらちらと六夜の様子をうかがっているのがその証拠だ。


「梅雪ちゃんがかわいいのは事実じゃん! いずれ好きな子に手は出すだろうがよ、男なんだから!」

「六夜、悪いけど私ではもう、かばいきれないよ」


 しまいには開き直った六夜と、ついに見放した五音。


(面白く、ないですね)


 六夜の、想いびとへ対する愚直なほどの実直さは、黒皇にとって恨めしくも、羨ましくもある。

 つまるところ、黒皇は嫉妬していた。経緯はどうであれ、今現在の早梅からの視線を、ほしいがままにしている六夜に。


「にゃん小僧はどこだ!?」

一心(イーシン)さまは、諸用で不在にされております」

「だーっ、どいつもこいつも話にならねぇな!」


 監督不行き届きを指摘しようと一心の所在を問う晴風だったが、五音の返答で不発に終わる。

 ちなみに、そうこうしている間も「てか梅雪ちゃん、泣き顔もめちゃくちゃかわいいな、滾るんだけど!」と六夜が口走っているため、桃英が無言でこぶしをにぎり直している。


青風真君(せいふうしんくん)

「んお? なんだ黒皇、神妙な顔しやがって」


 我慢強い黒皇としても、いろいろと限界をむかえているころだったので、早梅の背をそっと押して室の奥へ避難させたあと、晴風へ声をかける。


「今晩は、おぼっちゃまをおねがいしてもよろしいですか」


 晴風は、まばたきをひとつ。すぐになにを言われたのか理解し、


「しかたねぇな、ほどほどにしろよ」


 と肩をすくめるついでに、うなずいてみせる。

 黒皇は言葉少なに、「善処します」とだけ返した。

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