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第百二十四話 都合のいい夢【中】

「それで、藍藍(ランラン)は何歳になるの?」

「じゅうさんさい!」

「へぇ、十三歳かぁ……十三歳!?」


 つまり、現在が十二歳ということである。

 待ってほしい。切実に待ってほしい。

 早梅(はやめ)の見立てでは未就学児、よくて七、八歳くらいだろうと踏んでいたのだ。それくらいに八藍(バーラン)は小柄だし、精神年齢もおさないように思う。


「八藍だけじゃないよ、ぼくもだもん!」

詩詩(シーシー)もおなじ誕生日なの?」

「うん、だってふたごだもん!」

「あら、そうなのぉ」


 八藍だけ早梅に贔屓されそうなのが、九詩(ジゥシー)は納得がいかなかったらしい。ぷくぅ! とふくれっつらで、「ぼくもおいわいしてほしい!」と早梅に抱きついてきた。


 言われてみれば、顔立ちはさほど似ていないが、おなじ薄緑の瞳をもつ八藍と九詩だ。二卵性双生児なのだろう。


 ほほをすり寄せてくる九詩の茶と黒の頭も、なでてやる。

 すると八藍は八藍で、「おれがさきにおねがいしたもん! おれがさきにおいわいしてもらうの!」と駄々をこねはじめた。


「こら、困らせたらだめだろう」


 ここで、聞き慣れない男性の声が。早梅が声のほうを見やれば、黒髪の青年が歩み寄って来るのがわかった。


 背は高いほうで、細身ながら筋肉質なからだつきが、(きもの)の上からでもわかる。

 見目だけで言うなら十七、八歳ほどで、晴風(チンフォン)とおなじくらい。八藍とよく似た若者だ。


藍藍(ランラン)、この方はお兄さま?」

「ううん、とうさん」

「んっ、お父さん!?」

「お初にお目にかかります、八藍の父、六夜(リゥイ)と申します」

「こっ、これはご丁寧に……(ザオ)梅雪(メイシェ)と申します」

「存じ上げておりますよ。息子と遊んでいただいてありがとうございます、梅雪さま」


 恭しく拱手(きょうしゅ)し、流れるようなあいさつを述べる六夜からは、たしかに『大人の余裕』が感じられる。


「九詩も、意地をはってたら格好悪いよ」

「むぅ……」


 そうこうしていると、茶髪に黒毛のまじった、九詩とよく似た青年がやってくる。

 こちらも長身。糸目のため、つねに笑っているような表情をしたその青年が、六夜に並んで頭を垂れた。


「梅雪さまにごあいさつ申し上げます。九詩の父、五音(ウーオン)でございます」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 なんだかさらっと、とんでもないことを告げられた気が。


(藍藍と詩詩は双子……だから母親はおなじなんだよね? でも父親がちがう……それって、つまり)


 いやいや、そんなまさか……

 思わず晴風をふり返ると、静かにかぶりをふられる。


梅梅(メイメイ)、おまえが考えてることで、たぶん大体合ってる」


 そのまさかだった。


「八藍と九詩は、正真正銘の双子の兄弟ですよ。父親はちがいますがね」


 ダメ押しのごとくつむがれる、おだやかな声音がある。

 ここで登場。言わずもがな、満面の笑みをたたえた一心(イーシン)である。



  *  *  *



 古くより(マオ)族は子を成しにくく、なおかつ極端に女児の生まれにくい一族なのだという。


「生まれにくいとは、具体的には?」

「男子が四十人生まれて、女子がひとり生まれるかどうか、でしょうか」

「なんてこった……」


 それはぶっちゃけ、現代でいう中学だか高校だかの1クラスに、女子がひとりだけ放り込まれているようなものだ。


「ですから、俺たち猫族は一妻多夫制をとっていて、できるだけ多くの血筋をのこせるように尽力してるんですよ」

「猫族の男は、こどものときから叩き込まれるのです。武功と、女性はお姫さまだということを、ね」


 六夜と五音の補足があり、余計に衝撃を受ける。

 それならば八藍と九詩が初対面の早梅を「お姫さま」と呼んでいたことの説明はつくが、いかんせん内容が内容である。


黒皇(ヘイファン)が言ってた『猫族は、貞操観念が私たちと決定的にちがう』って、このことか……)


 言わば、『みんなで奥さんシェアしちゃおうぜ』という意味である。現代語ではそれを逆ハーレム、略して逆ハーなどと呼ぶ。

 それだけではない。六夜も五音も、どう見たって現代男子高校生ほどの外見だ。とても十三歳になる息子をもつ父親には見えない。


(一心さまもそうだけど、猫族はみんな若々しすぎる! 私の脳がバグったのかと思ったよ!)


 千年以上生きている仙人と烏のことは、棚に上げている早梅である。あちらは究極の特殊例なので、ノーカウントだ。


「むさ苦しくってすいませんね。汗を流してきます」

「もうすこしだけ、うちの子たちをおねがいしますね、梅雪さま」

「あっ、もちろんですー」


 毎朝の鍛錬終わりだという六夜と五音は、そう爽やかに言い残して去っていった。さながら、部活帰りの高校生である。マイナスイオンしかない。

 終始圧倒されっぱなしの早梅のもとには、いまだにくっついて甘えている八藍と九詩。

 そのとなりに、腰かけてほほ笑ましく見守る一心。

 さらに一心(それ)を、赤ん坊を寝かしつけながら睨みつけている晴風という面々がのこった。

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