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第百二十一話 琥珀の笑み【前】

 結い上げた翡翠(ひすい)の髪に、薄紅の牡丹が咲いている。


 身支度を終えた早梅(はやめ)は、蓮虎(リェンフー)を抱いた黒皇(ヘイファン)をともなって、会食堂をおとずれた。

 すると朝食の席には、先客がいたようで。


「んで? うちの梅梅(メイメイ)に言い寄る理由をきかせてもらおうかね。俺が納得するように、簡潔に」

「いやだなぁ、一目惚れしたから、ではいけませんか?」

「きな(くせ)ぇ……一目惚れにしては落ち着きすぎだぜ、にゃん小僧。熱意が、ほとばしる熱意が感じられねぇんだよ! そこんとこはどーなんですかねぇ!?」

「おやおや」


 卓についた一心(イーシン)と、その正面で頬杖をつき、人差し指の爪でカツカツカツカツとせわしなく机上をつつく、晴風(チンフォン)である。

 はたから見れば、悪酔いしたチンピラがほかの一般客へからんでいる光景に見えなくもない。よくて圧迫面接。


(フォン)おじいさまは、どうしちゃったの?」

「お嬢さまが求婚されたとうかがって、『どこの馬の骨だぁ! 俺がたしかめてやらぁ!』とのことです」

「……君は鸚鵡(おうむ)だったかな?」

「黒皇は烏ですよ、お嬢さま」


 いや、紫月(ズーユェ)だけでなく、晴風の声真似までやってのけたのだ。申し訳ないが説得力がなくなってきた。

 至極真面目な黒皇による状況報告を受けた早梅は、もう一度正面へ向き直る。


「まぁまぁ。お茶でもいかがですか? お祖父(じい)さま」

「だぁれが『お祖父さま』だ、俺は認めねぇぞー!」


 やはりどこぞのチンピラよろしく、晴風が一心にガンを飛ばしていることに変わりはない。

 せいぜい十七、八そこらの若者が、二十代半ばの青年につっかかっている構図だ。

 晴風が千年余りを生きる仙人だと知っているからこそ、かろうじて理解できる光景だろう。


「あぁ梅雪(メイシェ)さん! おはようございます。お待ちしておりましたよ。こちらにどうぞ」

「おはようございます、一心さま。失礼いたしますね」


 どう話しかけるべきか早梅が判断しかねていると、一心のほうから助け舟を出される。

 まばゆい笑みをちょうだいしては、早梅も断れぬというもの。


 優雅に一礼を返した早梅は、となりを指し示す一心には気づかないふりで、晴風の下座にあたる椅子を引いた。


 そのとき、早梅は見てしまった。栗色に白と黒、三毛の猫耳をしゅんと垂らして落ち込む、一心の幻覚を。


(ごめんなさい、一心さま……でもね、圧がすごくて! 風おじいさまと黒皇の!)


 下手に逆らえば、困ることになるのは早梅だ。具体的にはお説教(熱烈ハグ)とお仕置き(意味深)を食らう羽目になる。それだけはなんとしても避けたい。


「みなさんおそろいですし、朝餉にしましょうか」


 ずぅん、と重い空気を背負う早梅を救ってくれたのは、意外にも、にこやかな一心のひと言だった。

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