魔王の最期 (変夢奇譚 ~くだらない夢のよせ集め~ 第53夜より)
変な夢を見た。
ここは・・・剣と魔法の世界『リ・アルニ・クダ・ランド』。
凶暴なモンスターと魔族たちが支配する世界。
そんな世界の真ん中で、ある時、創造主が、我々を土から作り上げた。
そして、こうお告げになられたのである。
この世界に、はびこる魔族・・・背中に翼を持つものたちを倒せ。
そして、彼らを統率する魔王『マジク・ダランテ』を倒せ・・・と。
我らは、創造主が『魔族』と呼んだものたちの討伐を始めた。
それが、我らの指導者である創造主の御心だからである。
これは・・・『聖戦』なのだ。
そして今・・・。
私が所属する『炎の怒髪』の百人の勇敢なる戦士たちは、ついに、魔王の居
城である『黒曜石の両翼城』の内部へと突撃した。だが、魔族たちの姿は、どこ
にも見当たらなかった。すでに、どこかへ逃げ落ちてしまったのだろうか。
我らが、この城を包囲してから、すでに一年がたつ。
魔族の生き残りどもは、地下通路を掘り、そこから我らの包囲を突破したのか
もしれない。普通の戦いならば、被害を被ることなく、拠点を奪取したのだ。ま
さに大勝利と言える。
だが、今回、我らが狙うは、魔王の首級・・・。
それを手にすることが出来なければ、敗北に等しい。
我ら『炎の怒髪』は、一個あたり十人で構成される分隊十個を編成し、城内を
くまなく捜索することになった。
もし、捜索中に魔族と遭遇した場合、高らかに鳴る呼子を吹くこと。
呼子が聞こえたら、その場にすぐ駆けつけること。
それらを徹底され、我らは、捜索を開始した。
私が所属する分隊が、謁見の間らしい場所に来た時であった。
たぶん、そこが玉座なのであろう・・・一人の魔族が座っていた。
それは、ゆっくりと立ち上がると、我々に語りかけてきた。
「我が名は、『マジク・ダランテ』。お前たちが、魔王と呼ぶもの。
遅かったな・・・人間たちよ。我々の生き残りは、すでに逃げのびた。
まあ、お前たちの狙いは、私の首なのだろう。この首、くれて・・・。」
魔王の話の途中で、仲間の一人が襲いかかった。
魔王は、軽やかにその攻撃をかわすと、いつの間に抜いたのであろう、白く輝
く剣で、そのものの首を撥ね飛ばした。
「お前たち、人間は・・・無礼だな。かつての・・・私のようだ。」
今度は、仲間たち五人が、同時に魔王に切りかかる。
魔王は、その場で高くジャンプすると、その背中の両翼をはばたかせた。
すると、光の矢のようなものが翼からいくつも放たれ、仲間たちの体を貫く。
どぅっと倒れこんだ五人の体には、無数の光り輝く羽根が突き刺さっていた。
思い出したかのように、仲間の一人が、慌てて呼子を口にくわえ、高らかに吹
き鳴らそうとした。
しかし、それが鳴ることはなかった・・・。
魔王が、そのものを指さした瞬間、その指先から強烈な一条の光が放たれ、そ
のものを蒸発させたからである。
残りの仲間二人は、声をあげて、我先にと逃げていく。
私も早く逃げ出したかった・・・。
しかし、その場を動くことが出来ない。足がすくみ、動けなかったのである。
魔王が、私のほうに近づいてくる。
その手に握られた剣が、白く輝き、その身を小刻みに震わせている。
私は・・・ここで死ぬのだ。
私は、自分の死を受け入れる覚悟を決めた。
しかし、魔王は・・・。
白く輝く剣の柄を私のほうに差し出し、語りかけてきたのであった。
・・・・
私の首を撥ね飛ばすがよい。この剣でな。
だが、私の首を撥ねた後、お前は・・・新たな魔王として、その道を歩むこと
になるだろう。かつての私のように・・・。
まあ、私の話を聞くがよい。魔王になる運命を背負うものよ。
私・・・いや、我々も、かつて、人間と呼ばれていたのだ。
我々は、お前たちと同じように、魔族と呼ばれるものたちを討伐し、彼らを統
率する魔王を殺した。そして、今度は・・・我々が、魔族に仕立て上げられ、お
前たち、新たな人間により、討伐される。
知っているか? お前たちが、モンスターと呼ぶものたち・・・。
ヤツラも、かつては、人間と呼ばれていたことを・・・。
そして、私がお前に殺された後、我々もまた、モンスターとして、その種を残
していくことになるのだ。
お前たちは、創造主にけしかけられたのだ。
そう、我々も同じだ。
創造主にけしかけられ、魔族と呼ばれるものを襲い、滅ぼしたのだ。
そして、今度は、お前たちが『聖戦』という名のもとに我々を襲い、我々は、
お前たちにより、滅ぼされる運命にある。
だが、それは・・・因果応報というやつだ。受け入れるのは、構わない。
だがな・・・心配なのだ。
次は、お前たちが、魔族に仕立て上げられたりしないか、がな。
創造主は、なぜ、こんなことをするのだろうか?
なぜ、我々を魔族に仕立て上げ、新たな人間に我々を排除させようとするの
か?
なぜ、我々とお前たちは、共存することができないのか?
私は、今まで、ずっとそればかりを考えていた。
だが、いまだに答えは出ずにいる・・・。
私は、お前たちの国に何度も使者を送ったのだ。
共存の道を歩べきだと・・・。
だが、その都度、使者は無残にも殺され、お前たちは、我々にその死体を送
り返してきた。
『これは聖戦だ。創造主の御心なのだ。』という言葉と共にな・・・。
考えてくれ! 新たな魔王となるものよ。
私は、いや、我々は、お前たちに滅ぼされるのは構わん。仕方あるまい。
だが、我々の次に魔族に仕立て上げられるものたちよ。
お前たちは、お前たちの次に現れる人間と戦わず、共存し、創造主とやらに
戦いを挑んでくれぬか?
我々は、永遠と同じことを繰り返している。
滅ぼしたものは、やがて滅ぼされる。
滅ぼしたものはその呼び名を変えられ、次に来たるものに滅ぼされるのだ。
これをずっと繰り返している・・・。
もう、この繰り返しを止めるべきなのだ。
我々は、この円環を断ち切らなければならない。
私は、このことを・・・私が手にかけた魔王に言われた。
その時は・・・ただの戯言だと思っていたが・・・。
これは、真実だったのだ。
だから、私も、お前に・・・次なる魔王に伝える。
そして、お前は・・・さらに、お前を滅ぼすものに伝えるがよい。
さあ、私を殺せ! 人間よ!
そして、魔王となれ!
次に来たる人間たちに今の言葉を伝えよ!
やがて、この円環が断ち切られるまで・・・。
・・・・
どうすれば・・・いいのか?
私は、その場に立ち尽くしていた。
完全に戦意を喪失する私に対し、魔王は一切、手を出してこない。
むしろ、こちらを憐れむような眼差しで見つめている。
その時、魔王の体にいくつもの矢が突き刺さり、魔王は、床に倒れ伏した。
逃げた仲間が、他の分隊のものたちを引き連れて、戻ってきたのだ。
そして、私のことを救ってくれたのである。
仲間たちが、長い毛でおおわれた胸を両手で叩き、荒々しい獣のような咆哮を
あげる。私も、それに応えるように、目を炎のように赤く燃やし、その鋭い牙の
間から荒々しい獣の咆哮をあげる。
私の体の呪縛が、解けたような気がした。
私は、倒れた魔王の体に馬乗りになり、すぐそばに落ちていた白く輝く剣を手
にすると、魔王の首を切り取った。そして、その首級を高々と掲げる。
魔王の首級は、喜びの咆哮をあげる人間という名の獣たちを、憐れんでいるか
のように見えた。
これから、魔族として生きていくであろうものたちの行く末を、ただただ、案
じているかのような表情であった。
そこで目が覚めた。