通勤途中、駅で水色の癒しに出会う
「大丈夫ですか?」
心配そうに声をかけてくれたのは、毎日の通勤に利用している駅の職員さんだった。
私は、相当顔色が悪かったらしい。
朝から、ちょっと頭痛がしていた。
熱は無かったが、だるさは感じていた。
しかし、それだけで休むという選択をすることはできなかった。
食欲も出なかったため、砂糖と牛乳を多めに入れたコーヒーだけを口にして、玄関を出た。
そして、今、私は、駅の改札口を抜けて、ホームへ向かう階段の手前で、気分が悪くなってしまったのだ。
理由はおおよそ分かっていた。
この1か月間の間に、かなりのストレスが自分にかかっているのを自覚はしていたから。
胃の辺りが痛むこともあった。
今朝だけでなく、もうずっと食欲が落ち続けていたのだ。
職員さんは、「病院へ行きますか?」と訊ねてきた。
しかし、通勤途中で、しかも保険証も自宅に置いてきている状況で、直接病院へ向かうのも難しかった。
私は、とりあえず職場に向かうことにした。
カバンの中から出した胃薬を飲み込みながら。
職員さんは、私がそのままホームへ向かおうとしているのを見て、エレベーターのボタンを押し、箱を下げて待っていてくれた。
「ホーム、注意してくださいね。やっぱり戻られると決められたら、周囲の人に声をかけて、駅員を呼んでもらってください。」
仕事とはいえ、その心遣いがありがたかった。
平日は毎日利用する駅の構内で、当たり前のように過ぎていた通り道。
躓いた時に、手を貸してもらえることが、こんなにも嬉しいことなのだと、私は感じていた。
職場に着いてから、医務室を訪ね、状況を話すと、やはり病院へ行くように言われてしまった。
そこで、どうしても済ませておかねばならない業務だけを優先して、今日は胃薬でなんとかやり過ごし、明日、病院へ行くことを上司に申し出た。
上司は、「まぁ、本当だったら、今すぐ病院へ向かわせるべきなんだけど……。明日は絶対休みなさい。」と言った。今日、私が抜けると困るのは、お互いに分かり切っていた。
そして定時に上がった私は、明日は病院に行くことができる安心感も手伝って、少し持ち直していた。
帰りの電車を待ちながら、私は、今朝、手を貸してくれた駅の職員さんの名前を確認していなかったことに、今更のように気が付いた。
ちゃんとお礼が言いたいな。
駅の職員さんは、職種によって着用している制服が違うようだ。
時折オレンジ色と濃いチャコールグレーのシャツを着用している職員さんも見かけるが、今朝、私に声をかけてくれたのは、水色のシャツに紺の斜めストライプ入りのネクタイ、やはり濃いチャコールグレーのスラックスを着用した職員さんだった。左胸にワッペン型の名札を付けているようだが、完全に見落としていた。
私は、自宅の最寄り駅で電車を降り、改札口の手前で、他の乗客たちが通り過ぎてしまうまで待つことにした。
「大丈夫でしたか?」
と、後ろ側から声をかけられ、慌てて振り向くと、そこには今朝の職員さんが立っていた。
青いラインの入った帽子もかっこいい。
「明日、会社を休ませてもらうことになりました。病院へ行って来ます。今は胃薬のおかげで少し持ち直してます。今朝はありがとうございました。助かりました。」
私がそう言って頭を下げると、職員さんは、笑顔を返してくれた。
胸の名札を確認しなきゃ。
名札には「中島」と書かれてあった。
中島さん。素敵な人だな。制服が似合っていて、本当にかっこいい。笑顔もいいな。
私はすっかり舞い上がってしまった。そして、胃の辺りだけでなく、もう少し上の辺りがドキドキするのを感じた。
「お大事に。」
中島さんは声も素敵だ。いいな。
私は中島さんが職員用の扉の方へ行ってしまったので、定期を出してタッチして改札を抜けた。
また会えるといいな。
「着こなせ!制服~お仕着せ企画~」の参加作品ということで、駅員さんの登場です。
最近は、男女ともにスラックスの制服なんですよね。
女性の車掌さんや運転手さんも普通に見かけるようになり、スカートより動きやすいものが求められているのだと思います。が、スカートはスカートで良かったりするんだよなぁ……。
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何の話を始めたのかって?
だって、制服……。