表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/46

9

 それからの日々は慌ただしいものでした。

 私は親戚中に頭を下げカレリア家の非礼を詫び、妹の婚約発表パーティの準備に走りました。

 彼らはお詫びに来たのが妹ではなくイリスだと気づいたとたん、態度をがらりと変え、にこやかに対応してくださいました。


「カレリア家の非礼、元カレリア侯爵家の娘としてお詫び申し上げます」

「いいんですよ。その代わりと言ってはなんだけれど……」

「はい」

「ソラリティカの貴方の屋敷――ストック男爵邸に、うちの使用人を研修に行かせたいの。地方都市でありながら王都の使用人以上に躾が行き届いた立派な者たち揃いだと伺ったの。よろしいかしら」


 私は驚き、そして笑顔で答えた。


「勿論です。ストック商会の従業員研修施設の管理は女主人の私に一任されております。勿論夫に一旦確認致しますが、きっと快く迎え入れるでしょう」

「ふふ。よかったわ。……私はカレリア家ではなく、ストック男爵夫妻と仲良くしていきたいわ」


 意外にも皆さん、私の不躾で恥ずかしいお願いを聞いてくださり、快く社交を取り交わしてくださいました。どうやら私が嫁いで以来、商業都市ソラリティカと成金ルーカス・ストック男爵の印象が、王都の中でどんどん変わってきていることが功を奏したようでした。


「あなたの嫁ぎ先、失礼ながら成金と噂だったけれど、それだけの実力がおありなのね。1を頼めば10の商品を提案してくる有能な商人として噂が立っているわ」

「王妃様の刺繍入りの手袋、あの絹糸はストック男爵のルートで手に入った東方国の逸品らしいけれど、本当?」

「先日はソラリティカのサロンでお世話になったわね。街の治安もよくて過ごしやすい旅行になったわ」


 私の結婚を機に、ストック商会の良い評判が王都の貴族社会に広がっていき、そこから商品の評判と商会の人々の仕事ぶりが貴族社会に受け入れられ――私の想像以上にどんどん夫、ルーカス・ストック男爵の評判が上がっているようでした。


 空気の私でも、愛する夫のために少しでも力になれたのでしょうか。それなら嬉しく思います。

 だってルーカスは元々、とても素敵な方だったのですから。


---


 婚約発表パーティの準備に追われる私と、妹の嫁ぎ先であるストレリツィ侯爵家のばたばたを知りながらも、相変わらず両親も妹も、ほとんど動いてくれません。


 しかし社交界を追放されかけた妹が動くのも、不倫に走っている母も、私がつなぎ直した御縁にヘラヘラと呑気に笑うばかりの父も、正直なところ邪魔、と申しますか。

 動いてくれないほうがよほどやりやすいです。


 ある日、準備の為に元婚約者ミハイル様のお屋敷であるストレリツィ侯爵邸に向かうと、そこで迎えたのは懐かしい元婚約者・ミハイル様ご本人でした。


「ミハイル様……失礼ですが、侯爵夫人はいらっしゃいますか?」

「母も母の使用人も皆、急用ででかけたよ。遠征中の父からの連絡が入ったとかでね。だから、僕が対応してあげる」


 彼は薄笑いを浮かべて私を客間に招き、使用人に命じて紅茶を淹れさせます。

 使用人も一緒にいるとはいえ、二人きりで部屋で向き合うと変な感じがします。じろじろと舐めるように私を、上から下まで眺める彼。

 昔からこんなに、気持ち悪い……方だったでしょう、か。


「まだお戻りにならないのでしたら、私は一旦日を改めて……」

「いいじゃないか。僕とゆっくり話そうじゃないか。元婚約者、だろう?」

「元、です。私は今はストック男爵夫人。妹の婚約者とはいえ殿方とこれ以上二人きりになるわけには」


 二人きり。その言葉を口にしてはっとします。

 気づけば私が連れていたメイドも、彼の使用人も席を外していたのです。

 ぞっと寒気を感じてミハイル様を見れば、彼は冷たい顔をしてぶつぶつとつぶやいていました。


「……おかしいな。手筈では」

「あの……ミハイル様……」

「まあいい。僕と君、二人きりなのには間違いない」


 彼がのっそりとソファから立ち上がります。

 柔和で麗しいお顔立ちをしている方なのに、私はとても恐ろしくなりました。


数ある小説の中からこの小説をお読み頂き誠にありがとうございます。

評価(下にある★ボタン)・ブックマークを頂けたらすごく励みになります!

お手数おかけしますが、宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

原作小説全3巻、発売中!

https://www.mag-garden.co.jp/comics/9689/)

81z3vj5t6DL._SY522_.jpg https://amzn.asia/d/07tC8Mim

婚約破棄された『空気』な私、成り上がりの旦那様に嫁ぎました。 THE COMIC 2 (マッグガーデンコミック avarusシリーズ) コミック – 2024/7/12

81z3vj5t6DL._SY522_.jpg

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ