コミカライズ2巻発売記念SS
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(下に画像リンクあり)
椿谷もみじ先生のこちらの絵があまりに素敵で思わず描いてしまいました……!
素敵な2巻、発売です!
ソラリティカの港に花火が散る。
私とルーカスは海に面した商会の、会長室から、二人でそれを楽しんでいた。
「綺麗……」
まるでルーカスの瞳のように明るい橙色に弾ける光に見惚れていると、ルーカスが隣で私を見て笑った。
「びっくりした猫みたいな面してんな」
頬を撫で、愛おしげに目を細めてルーカスは言う。
「俺は雪をみたことがなかったが、あんたは花火が初めてだったか」
「はい。王都は建物が密集しておりますし、川沿いにも人が溢れています。とても花火を上げられるような街ではありませんでした」
私の装いは彼が仕立ててくれた。
黒髪を結い上げて、偏光する貝殻を加工して作った花冠を模したアクセサリーに、異国の姫から贈られた珍しい装い。本来は祭りに着るものではない、カジュアルなものだと聞かされていたけれど、眼下に広がるソラリティカの街では、人々が物珍しい新しい衣をまとって賑やかに花火見物をしていた。
ルーカスが、社員や屋敷の使用人たちに生地違いの既製品を急拵えで揃えたのだ。
宣伝になるし、もの珍しいものに喜ぶ感性を持っていて欲しいからと彼はいう。
実際に異国の姫からいただいた品は、今私たちが二人で纏っている。
苦労してコルドラさんとキキが着付けてくれたのち、ルーカスは纏った私を見て
「表に出るな。一緒にいろ。その格好で出るのは俺だけにしとけ」
と厳命した。
コルドラさんとキキはブーブーと横暴だ、亭主関白だ、せっかく綺麗なのにと怒っていたけれど、私は二人だけで特別な装いでいたいと言ってくれたルーカスが嬉しくて、むしろ、その言葉が嬉しかった。
そっと肩に腕を回されたので、私もその胸元に寄り添う。
いつもより薄い布地越しに伝わるルーカスの温もりに、私は静かに心が満たされていくのを感じる。
言葉を交わさずとも、体の一部を触れ合わせて、同じものを綺麗だと見惚れているだけで、こんなに贅沢な気持ちになれるなんて。
ルーカスもこれからの未来、ずっと、この贅沢な気持ちに満たされていて欲しいと思う。
私はそっとルーカスの顔を覗き見た。スッとした鼻梁。真っ直ぐに空を見つめる、少年めいた眼差し。太陽の光の瞳。私の大切な旦那様。
黒髪で、地味で、目立たない女と言われ続けた私だけれど。
この人の腕の中にいれば、闇の中でも私は自分の輪郭を見失わない。
この人もまた、腕の中の湿度を、ちゃんと捕まえていてくれるだろう。
私たちは、夫婦なのだから。これからもずっと。






