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「こ、コルドラさん……」


 はっきり言います。

 今回の対応に最もそぐわない女性です。


「奥様、ホワイトワンド家の執事はあたしが対応します。あたしはストック商会でルーカスが一番最初に苦労していた立ち上げの時から一緒に働いていたんです。重要なお客様なら、私が出てもおかしくないでしょう?」


 私はすぐに返事をせず、彼女の顔をじっと見定めます。

 曲がった襟元を整えるふりをして、キキが私に小声で耳打ちします。


「奥様。コルドラさんは確かに商人相手なら対応がお上手なんです。なによりストック商会の古株という経歴もありますから。でも……すっごくカッカしやすい人です」


 私はキキに小さく頷き、そしてコルドラさんに向かいます。


「今回お越しの執事はあくまで商談ではなく挨拶にお越しの方です。今日の対応内容は明日対応の社員の方全員に周知いたしますので、今は私にお任せください」

「マナーブックでしかない若奥様に、一体何ができるのですか?」


 コルドラさんは私にずい、と近づきます。他の社員はというと、彼女から目を逸らして黙っています。なるほど。彼女にあまり強く言えないのは、キキの言う通り彼女が実績を持つ古株だからでしょう。


 ――これはあまりよろしくない、と私は感じました。


 仕事に誇りをもって励むベテランが組織の財産であることは、実家で屋敷を切り盛りする中で知っています。

 社交で他家に訪問した際も、使用人の雰囲気に屋敷の女主人の手腕が如実に表れていたものです。

 

 彼女はストック商会において、自身を「女主人」代行と位置付けているようです。

 本当に彼女がルーカス様の妻もしくは相応の肩書を与えられている立場ならば、組織は乱れません。


 しかし単純に「発言権の強い古株社員」だからと組織を左右する立場になってしまえば。

 組織の統一が乱れ、そのほころびはそのままルーカス様の足場に障ります。


 彼女の誤った認識に対応しなければならないのは――ルーカス様に貴族の来客対応を任された、私です。


 黙った私に、コルドラさんはさらにぐいぐいと寄ってきます。


「若奥様はご存じないようですのでお伝えいたしますが。この来客屋敷のお菓子はソラリティカの菓子店に一任しています。若奥様がわざわざ王都から呼び寄せたコックが出る必要はありません。王都のお菓子は、どうぞ王都育ちの若奥様がお召し上がりください」

「……」

「何ですか? 何かおっしゃったらどうですか? 女主人ならば、」

「今はもめている場合じゃないでしょう、コルドラさん」


 私は溜息を吐きます。


「それでは私のサポートにコルドラさん、お力添えいただけませんか? その代わり、今回は私の手配した準備に従っていただきます。もし本日私の手配で問題が発生しましたら、明日の本番……ホワイトワンド伯爵夫妻のご訪問の時の対応を変更いたします」


 彼女は少し溜飲が下がったのか、ふん、と鼻を鳴らします。


「まあ、いいですよ。その代わり、あたしは忠告いたしましたからね」

「ご安心ください。これから何があっても私がフォローします」


 私の言葉にコルドラさんの眉間がぴくっと動きます。

 彼女が「私がフォローする」という言い方に苛立ったのは承知です。

 しかしここで言い争っている暇はないのです。


 それに――多少の事は、義母や妹をフォローするよりも、きっとなんとかなると思えるのです。

 だって少なくとも、コルドラさんはストック商会を愛していらっしゃいますので。


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