表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/46

2

 私はソラリティカに発つまでの数ヶ月の間、これまでお世話になった方々への挨拶に追われました。

 未来の夫となるルーカス・ストック男爵の名を告げると、みんな一様に面食らった顔をしました。


「あの成金の所ですか」

「輸入業で儲けていて、ずいぶんと羽振りがいいらしいですよ」

「とてもひどい労働環境で従業員をこき使っているらしくて、彼の商会に一度勤めたら二度と戻ってこないらしいですわ。逃げられないようになっているとか……」


 私の耳に入るのはどれも伝聞で聞きかじった悪評です。

 けれど悪評は伝聞系の「らしい」ばかりで、全く当てになりません。 

 唯一確実な情報として得られたのは、彼が王弟である公爵閣下の屋敷と取引があるということ。

 爵位はおそらく、公爵閣下に拝謁するために得たのだろうということ。


「公爵閣下に謁見できるような方でしたら、少なくともきちんとした方なのは間違いないわ」


 不確かな噂話のなか、やっと見つけた情報にささやかに安堵しながらも、私は一人苦笑いしました。


「……どんな人だとしても、私はすぐに離婚させられるでしょう。だって、私は『空気』なのだから」


 それでもできる限り相手のことは知っておきたいし、彼に敬意を払いたいと思います。

 ソラリティカに出立する前、私は顔を合わせたことのない婚約者に向け、挨拶の手紙を出しました。


『妹ではなく姉の私が行くことになり申し訳ありません。私は華のない、地味な「空気」です』


 妹を欲しがっていたということは、妹のような愛らしい少女を娶りたかったはずでしょう。

 金髪の巻毛が美しく、明るくて元気いっぱいで、小柄な小鳥のような少女。


 私は鏡を覗き込みます。

 夜の帳のような漆黒の髪。井戸の底を覗き込むような、真っ黒の瞳。唯一特徴的なぽつんと目元に添えられた泣き黒子は、好色に見えると言われたことしかありません。


「私は地味な…空気なのだから」



---


 後日。

 私を迎えるため、はるばるソラリティカから馬車がやってきました。

 暗い目をした少女メイドが、私の前に現れぎこちないカーテシーで挨拶しました。


「……これからお世話をさせていただきます、キキと申します」


 緊張しているのか困惑しているのか、こわばった怖い顔をしているキキ。

 王都の貴族令嬢を迎えたと思ったのに、こんな地味な女で驚いたことでしょう。困惑するのも無理はありません。


「あの、……ご実家からのお荷物はこれだけですか?」

「ええ、これだけよ」

「王都からお越しになる……使用人の方は……?」

「誰もつけられないわ。だってお屋敷を維持する最低限しか、雇っていませんから。……ごめんなさい、貴方に苦労をかけるわね」

「それは…………いいのですが……」


 彼女は困ったように視線を落とし、押し黙ってしまいました。


 私に持参金はありません。

 嫁入り道具は使い古した私物と、亡き母の遺品だけ。

 私はほぼ身一つで、顔も見たことのない、素性もよくわからない旦那様の元へと嫁ぐのです。


数ある小説の中からこの小説をお読み頂き誠にありがとうございます。

評価(下にある★ボタン)・ブックマークを頂けたら励みになります。宜しくお願い致します。

※本日複数回更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

原作小説全3巻、発売中!

https://www.mag-garden.co.jp/comics/9689/)

81z3vj5t6DL._SY522_.jpg https://amzn.asia/d/07tC8Mim

婚約破棄された『空気』な私、成り上がりの旦那様に嫁ぎました。 THE COMIC 2 (マッグガーデンコミック avarusシリーズ) コミック – 2024/7/12

81z3vj5t6DL._SY522_.jpg

― 新着の感想 ―
[一言] どうか·····幸せを願います
[良い点] 娘の嫁ぎ先に、持って行くものが酷くない 仮にも、本来なら家を継ぐ娘なのに
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ