おにぎり貴族~醤油の香りが結ぶ恋~
何だかんだで、なろうラジオ大賞2に出した短編も10作品になりました。
楽しんで貰えてれば良いなと思います。
ギリムス=シーオル準男爵。彼は『おにぎり貴族』の愛称で親しまれる、勤勉な青年である。その名の由来は、彼の活躍には『おにぎり』がよく登場するからである。
彼の『おにぎり』には、兵達に力を与え、戦況を変える不思議な力があると、評判である。
小さな村の村長の息子として生まれ、望まない戦争に巻き込まれる形で貴族となり、準男爵にまで成り上がったギリムス。村人と共に米を育てる彼には、当然ながら貴族のマナーなど知るよしもないのだが、彼も貴族の端くれ、ついにパーティーへと招かれてしまった。
戦場で仲良くなった貴族に教えを乞い、付け焼刃のマナーでパーティーに挑むギリムス。
人生の中で一番緊張しながらも、何とか渡り合う彼の側で、騒ぎが起こった。
「何よそんなドレス!こうしてやるわ!」
「きゃあ!」
気の強い貴族の娘が、気の弱そうな少女のドレスに、黒いソースをかけたのだ。幸いと言うべきかソースは少女の腕を少し濡らしただけで、ドレスに目立つシミはないが、辺りには醤油の匂いが広がった。
「フン!このソース、あんたの領地の名産でしょ!お似合いだわ!」
「…………」
まだパーティーは続くと言うのに、醤油の匂いをつけられた少女は泣きそうだ。何が原因かは知らないが、ギリムスはその少女を助けたいと思った。
ギリムスが料理の乗ったテーブルを見ると、そこには『おにぎり』が乗った皿もあった。ギリムスが呼ばれているので、並んだ料理だ。
そして肉料理のテーブルには、その場で肉を焼く為の網と炭火がある。ギリムスはうつ向く少女に手を差し出した。
「お嬢さん、少し手伝って貰えませんか?」
「え?……貴方はおにぎ……あ、失礼しました」
「いえ『おにぎり貴族』で合ってますよ」
「まあ。……フフ」
ギリムスは少女と共にテーブルへ移動し『おにぎり』に少女の領地の特産である『醤油』のソースを塗り、焼き網で香ばしく焼き上げた。
「ああ、いい香りだ。私はこの香りが大好きですよ」
「……それは、私もです」
やがて香ばしい香りに誘われた貴族達が『焼きおにぎり』に手を伸ばし始めた。
「これが名高い『おにぎり貴族』のおにぎりか。確かに旨い!」
「この香ばしい香りが堪りませんな!」
醤油の香りで沸く会場で、少女はギリムスに輝く様な笑顔を見せ、ギリムスは見とれて少し焦がしてしまった。




