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第74話 私の分まで……

 七月に入り私の病状は本当に悪くなってきた。


 そして遂に地元の国立病院に入院する事になった。


 やはりこのまま私は……


 でもこのまま入院していれば八月に飛行機に乗る事だけは回避できるかもしれない。


 事故死だけは免れるかもしれない。


 私はそう思いながら個室の病室のベッドに横たわっていた。


 すると一緒に病室にいたお母さんがとても悲しそうな顔をしながら私に話しかけてくる。


「浩美、ゴメンね……」


「え? 何でお母さんが謝らないといけないの?」


「だって、あなたに病気を持たせた形で産んだ様なものだから……」


 あんなにも元気で明るかったお母さんが最近、私以上に元気がなかったのは、ずっとそう思っていたからだった……お母さんのせいじゃないのに……


「お、お母さんは何も悪く無いよ。私はお母さんのお陰で前向きで明るい性格なんだと思うし、顔だってお母さんに似て一応みんなからは美人な方だって言われているし……それになんてったって今までずっと楽しく幸せに暮らせていたし……」


 二人の目からいつの間にか涙が流れている。


「グスンッ……あ、ありがとね、浩美……お母さん、一度家に帰るけど大丈夫かな?」


「うん、私は大丈夫だから早く家に帰ってお父さん達の夕飯の支度をしてあげて?」


「分かったわ……それじゃぁ、お母さん帰るから……」


「うん、気を付けて帰ってね?」



 病室のドアから出て行くお母さんの後姿はとても寂しそうに見えた。


 お母さんが家に帰ってから約一時間後、


 コンコン


 すると病室のドアを叩く音がした。


「はーい、どうぞ」


 私が返事をするとドアが開いた。そしてそこには彼とつねちゃんが神妙な顔をしながら立っていた。


「あっ!? 五十鈴君、それにつねちゃんまで!! お見舞いに来てくれたの!? 有難う……」


 私は二人を笑顔で迎えた。


 すると彼が申し訳なさそうな顔をしながら、


「石田、ゴメン……俺、つねちゃんに病気の事を……」


「別にいいわよ。つねちゃんだし……。私も久しぶりにつねちゃんに会いたかったしね。逆に有難う……」


 彼は私が逆にお礼を言ったので少しホッとした表情をしている。


「ひ、浩美ちゃん……まさかアナタが白血病だなんて……先生、今でも信じられないわ……」


 つねちゃんは目を潤ませながら私の手を握りながら声をかけてくれた。


「つねちゃん、心配かけてゴメンね。でも私は大丈夫だから……」


 私も目に涙を貯めながら『つねちゃん』の手をギュっと握り返した。


 そんな私達の姿を彼はとても複雑な表情をしながら見つめていた。


「ところでさ、五十鈴君……いなっち達には私の病気の事は言っているのかな?」


「い、いや、言って無いよ。なんか言いづらくてさ……石田が良いんなら俺からあの子達に伝えるけど……」


「そうね……お願い、五十鈴君から伝えてくれるかな? もう私にはあまり時間も無いし……今のうちにあの子達とも色々とお話しておきたいしさ……」


「バッ、バカな事言うなよ!! 何で病気が治らない前提で言うんだよ!? まだ治らないって決まった訳じゃ無いだろ!!」


 彼は少し怒った表情で私にそう言った。するとつねちゃんも彼と同じ様な言葉をかけてくれた。


「そうよ、浩美ちゃん。隆君の言う通りよ。いくら難病だからといっても今の日本の医学はとても発達しているから、白血病だって治るかもしれないじゃない……」


「う、うん……そうだね……二人ともゴメンなさい……」


 しばらく病室に沈黙が続く。


 彼はこの雰囲気を何とかしなければと思ったのか私にこう言った。


「そっ、そうだ!! 俺の妹も石田の復活を待ちに待っているんだぞ!!」


「えっ? かなでちゃんが?」


「そうだよ。奏は石田が部活にいないもんだから最近、元気が無くてさ……兄としても非常に心配なんだよ。あいつは石田がいないと全然ダメみたいだから……」


「フフ……そんな事は無いよ。奏ちゃん、とてもしっかりしているし、私がいなくても全然やっていけるよ。それに本当なら私もこの夏で部活は引退だったし、面倒は見れなくなるし……」


「ま、まぁ……そうなんだけど……」

 彼はそう言うと何も言わずに窓の外を眺め出した。


 その間、私とつねちゃんは『幼稚園時代』の話で盛り上がり、私の気分も少しだけ良くなった様な気がした。


 そして三十分くらい時間が経ったのだろうか、つねちゃんが「そろそろ帰りましょうか?」と言うと彼は黙って頷き帰り支度を始めだした。


 そんな彼に私は、


「ゴメン、五十鈴君。先に部屋を出てくれるかな? 私、少しだけつねちゃんと二人で話がしたいの……」


 私がそう言うと彼もつねちゃんも少し驚いた表情をしていたけどつねちゃんは笑顔で頷き、彼には先に病室から出ていてくれない? という様な表情をしながら彼の背中にソッと手を触れ、トントンと軽く叩いた。


 彼は私に「また来るから」 とだけ言い残し病室を出て行った。


 そして病室には私とつねちゃんの二人きり……


「浩美ちゃん、私にだけお話があるの? どんな話なのかな……?」


 つねちゃんは私に何を言われるのだろうという様な表情をしている。


 私は軽く深呼吸をしてから口を開く。


「つ、つねちゃん……私の分も五十鈴君の事をお願いね?」


「えっ? それって……」


「お願い、つねちゃん。これ以上は聞かないでくれないかな? 私、とても辛くなるから……」


「わ、分かった。聞かないわ……でも浩美ちゃんの病気は治る可能性だってあるのよ」


「う、うん……でもお願い。私のお願いをきいて欲しい」


 つねちゃんは私の彼に対する想いや死の覚悟を理解してくれたのだろう。


 これ以上しゃべらず目に涙を浮かべながら少しだけ頷き、私をギュっと抱きしめた後、病室を出て行くのだった。


 その後、私は色々な感情が溢れ出し、枕を抱きしめながら数時間、泣き崩れていた。

お読みいただきありがとうございました。


遂に浩美の病状は悪化し入院する事に。

そしてお見舞いに来てくれた隆とつねちゃん……

浩美はつねちゃんだけを病室に残し隆の事をお願いしたのだった。


物語も終盤(100話まではいきません)です。

どうぞ完結までお付き合いください。

驚きの最終回があなたを待っています。


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