第73話 言いたいけど言えなかった
「私……白血病なの……」
「えっ!?」
彼は私の告白を聞き顔面蒼白になっている。
「だからね……私が将来、『女優』になれるはずが無いの……」
「そっ、そんなの分からないじゃないか!? 白血病だからって治るかもしれないじゃないか!!」
彼は語気を強めてそう言った後、何か考えている感じで黙り込んだ。
「五十鈴君……? 私ね、死ぬのは全然怖くないんだよ……」
「えっ!? バッ、バカな事を言うなよ!! いっ、石田が白血病なんかで死ぬわけが無いじゃないか!!」
きっと彼は知っているんだ。この病気はそう簡単に治らないという事を……
おそらく彼が知っている未来でも……
「私ね……色んな思いを皆に伝えられないまま死ぬ事が一番嫌だし、一番怖いの。後悔しながら死にたくないの……」
「だっ、だから、まだ死ぬって決まった訳じゃ無いんだから!! そんな悲しい事を言うなよ……」
「そうね。ゴメン……それに有難う……お母さんも私の病気をなんとか治したいと思ってね、必死で調べてくれてたの。それで東京に白血病専門の有名な先生がいるって事が分かって、近々、東京に行く予定なの……今もそうだけど、治療には凄くお金がかかるから、だから塾も辞めてしまったんだけどね……」
東京という名前を言った瞬間、彼の顔色が変わる。
「東京にはいつ行く予定なんだ?」
「えっとね、全国の患者さんからの予約がいっぱいらしくて私が診察して貰えるのは八月くらいだとお母さんは言っていたわ……でも……」
八月頃と言った瞬間、彼の表情がこわばる。
やはり……
「石田、東京に行くのをもう少し早める事は出来ないのか!? そ、それとも九月くらいに伸ばす事とかは出来ないのか!?」
私は確信した。やはり彼は私よりも『先の未来』から……
これはもう、本当の事を伝える時が来たのでは……
「五十鈴君……? さっき私に何を考えているのか分からいって言ってたけど、私からすれば五十鈴君の方が何を考えているのか分からないところがたくさんあるわよ。それに五十鈴君って昔から子供のくせにどこか『大人』の様なところがあったし……それと何だか『先の事』が分かっているかの様な発言もたまにあるしね……」
私の言葉で彼が緊張しだしたのが分かる。
彼の激しくなった心臓の鼓動が聞こえるようだ。
そして彼は何か覚悟をした表情に変わり口を開く。
「い、石田……実は……」
「五十鈴君!!」
でも私から真実を伝えたいとう思いが強くなり、彼の言葉を遮る様に話を変える行動に出てしまう。
「五十鈴君!! まっ、前にね、国立病院の前で偶然、出くわした事があったでしょ?」
「えっ? ああ……そんな事もあったなぁ……中一の頃だったかな?」
「あの時……あの時、私……国立病院に入院しているお婆ちゃんのお見舞いに行った帰りだって言ったでしょ? でも実はあれ、嘘なんだ。本当は私が病院で診察を受けて家に帰るところだったの……」
「そ、そうなんだ!? でも……言われてみれば今なら納得できるよ……」
「あの時に五十鈴君、私に言ったよね? 『事故』に気をつけろって……」
「えっ? あっ、ああぁ……そんな事を言ったような……」
「私が『事故』で死んじゃう夢を見たって言ってたよ。それも何度か見てるって……」
よし、今よ。私から真実を伝えよう……
そう覚悟を決めた瞬間、
トントン……
「あっ? はーい、どうぞぉぉ」
ガチャッ
お母さんが部屋に入って来てしまった。
「ジュースとお菓子を持って来たわよ。五十鈴君、ゆっくりしていってちょうだいね?」
「あ、ありがとうございます……」
「五十鈴君、しばらく見ないうちにホント『良い男』になったわねぇ?」
「へっ!?」
彼はお母さんの言葉で照れてしまい顔が真っ赤になった。
そんな照れている彼を見た私は少しだけ嫉妬してしまい、ほっぺを膨らませながらお母さんに文句を言った。
「もうぉぉ!! お母さん、五十鈴君に何を言ってるのよ!? 変な言い方しないでよ!!」
「アラッ、ごめんなさいね。おばさん、思った事をつい口走ってしまう癖があるのよぉぉ」
「もういいから、早く部屋から出て行ってちょうだい!!」
「ハイハイ、分かりましたぁぁ。五十鈴君、遠慮せずにゆっくりしていってちょうだいね?」
「は、はい……ありがとうございます……」
ガチャッ バタン……
ふぅぅ……
彼は大きく息を吐いている。
「五十鈴君!? 今、お母さんに『良い男』って言われてまんざらでもなかったでしょ!?」
「えっ? べ、別にそんな事は……」
きっと彼は『本当の年齢』で考えるとお母さんくらいの女性に興味があるんだろうなぁ……
なんか悔しいなぁ……
私ももっと大人の状態で『この世界』に来たかったなぁ……
「ほんと五十鈴君ってさ、『大人の女性』が好きよね? つねちゃんといいさ……」
「ほっ、ほっといてくれよ!! つっ、つねちゃんは『特別』なんだから!! あっ、な、なんかゴメン……」
「はぁぁぁ……何で謝るのよ? 別に五十鈴君は何も悪くないんだから……でも私も、もう少し生きられたら五十鈴君の『特別』になれたかもしれないのになぁ……」
「しっ、死ぬ前提で言うなよ!!」
「それじゃあ、病気が治ったら私と付き合ってくれる!?」
「えっ!? そ、それは……」
「フフフ……冗談よ、気にしないで……」
でも、もし私が死なずに大人になる事ができたら……
私はつねちゃんに負けないくらいに魅力のある女性になってあなたを悩ませたり、惑わせたり、そして最終的に振り向かせる気持ちはあったんだよ。
「石田……俺、そろそろ帰るよ……」
「そうね。今夜は塾がある日だもんね」
私と彼が玄関まで行くとお母さんが待っていた。
「五十鈴君、また来てちょうだいね?」
「は、はい……どうもお邪魔しました……」
彼が外に出て少し歩き出した時に私は彼を呼び止めてこう言った。
「五十鈴君!? 本当は他に何か私に言いたかった事があったんじゃない? でも私も本当は五十鈴君に伝えたかった事があったの。だからまた次の機会にゆっくりお話ししましょう!!」
彼は私の言葉に表情を変えずこう答えた。
「そ、そうだな。また来るよ。その時にゆっくり話をしよう……」
私はこの時、次こそ彼に真実を伝えようと決意をしたけど、私の部屋に彼が来たのが最初で最後になるとは思ってはいなかった……
浩美の病気の事を知り焦る隆
そして彼が何か言おうとした矢先に浩美から言おうとして話が途切れてしまい……
結局、お互いに言いたい事が言えなかった状態で別れる事になってしまった。
今後、浩美の病気の事を知った隆はどういう行動をとるのか?
どうぞ次回もお楽しみに。




