表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

タクシーと都市伝説

作者: 森 三治郎

Dさんの証言


その客は、矢板駅に近い飲み屋街で、12時頃乗車して来た。

白っぽい和服、髪をアップの憂いを帯びた美人、どこかのホステスらしい。

「長峰墓園の少し先まで、お願いね」

「はい、承知しました」

タクシーは走り出した。


新人の頃には、先輩にコワい話しを聞かされてきた。

包丁を突き付けた強盗の話、もらい事故の話、乱暴な酔っ払いの話、「金が足りない。すぐそこが家だから、取りに行く」と言ってそのまま消えた話、肘をブラブラさせた骨折しているらしい気持ちの悪い人の話とか。

その中に、夜乗せた美女が墓場付近で振り返ると居なくなっていて、後座席が濡れていたというもの。

それって、どこかで聞いた都市伝説じゃないか。

そんなことを、思い出した。白い和服の美人のせいかな。


「長峰墓園の先ですか、墓場の近くで怖くはないですか」

「人はいずれ死ぬでしょうに、怖がるなんておかしいわ。『人間(じんかん)、いたるところ青山(せいざん)あり』

というでしょう。人間(じんかん)とは人間(にんげん)と書いて人と人の間のこと。青山とは墓場のこと。

要は、人間にはいたるところに死に場所があるということ、ということはいたるところに生ける場所はあるということね。つまり、小さなことなど気にする必要はない。ということ」

「へえ~、お客さん、学がありますね」

「あらイケナイ。ヘンなところでヘンなもの出しちゃったわ。ダメねえ、私たちは聞き役でなきゃいけないのに、修行が足りないかな」

「ふ~ん、インテリじゃダメなんですね」

「そうなの、知ったかぶりはダメ。かと言って丸切りのバカじゃ話にならない。けっこう、そのサジ加減が難しいものなのよ」

「それと、美しい人じゃなきゃならない」

「ほほほ、お上手ですこと」


そんなことを話しているうち、長峰墓園に着いた。

「お客さん、着きましたよ」

Dさんが振り向くと、お客さんは消えていた。

背筋に悪寒がはしり、

思わず「出た~」と車外に飛び出すと「それって、『出た~』じゃなく『消えた~』じゃないの」という声がした。

よく見ると、お客さんは座席に腹ばいになっていた。

「なにやってんですか」

「あのね~、コンタクトレンズ落としちゃって・・・」

「おどろかさないで下さいよ~」

真夜中、墓場、美女、灯りは車のヘッドライトのみ、周りは真っ暗、何か心臓に悪いなぁ。

料金をいただき帰る時、バックミラーに映る彼女が白くぼんやりと浮かんでいて、果たして生きている人か死んでいる人か分からない感じがした。


翌日、新聞を読んでいたら『長峰』の文字が目に付いた。

「あれ~」と思い、記事を読むと長峰墓園近くの家での刺殺事件。男女の愛憎のもつれらしい。写真が出ていた。

「えっ」

これって、昨夜の客。

事件が起きたのは昨夜の11時ごろ。

何だ、やっぱり別人だと思った。


昼のテレビのローカルニュースで、事件の報道があった。より鮮明なあでやかに微笑む、顔写真が出た。やっぱり、彼女だ。

彼女は双子だったのだろうか、それとも姉か妹がいたのだろうか。新聞社に尋ねたら、分かるだろうか。

いや、止めておこう。

『あの女の人以外に考えられない』なんて答えだったら、怖くて深夜の仕事が出来ない。

運転手仲間でも話題になっていて、何気なく聞いた話しだとその家の娘は彼女一人だという。

脇にニチャという感触があり、私はかなり脇汗をかいていたことを知った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ