第27話 真相と旅立ち
テメジハの町に魔獣が迫ってきた事件から後日。冒険者たちや町の役人などの調べでいろんなことが分かった。それもこの町の領主にもかかわることだった。
最初に分かったのは、突然現れた魔獣が長い間封印されていた個体だったことだ。ミエダの察した通り、封印札によって封じられていた。だが、太陽の光に弱い札だったために、日の光に照らされて封印が弱まったのをいいことに復活したと思われた。
最初はどうして封印された魔獣がこの町に存在しているのか疑問に思われたが、最初の被害者が判明したことで出所が分かった。それは、荒くれ者のグロンショだった。事件から行方が分からなくなっていたが、グロンショと思われる死体が魔獣が現れた場所で発見されたのだ。
グロンショの遺体は干からびた死体となっていたため、魔獣に体液を吸われて捕食されたとみられた。更にその取り巻き達も同じように干からびた死体となっていたが、一人だけ生き残っていたものがいた。彼の証言によると、
「り、領主の息子から……親分は……受け取ったんだ……」
ということらしい。つまり、グロンショたちは領主の息子から魔獣が封印された箱をもらい、その箱をあろうことか適当に扱った結果、箱に日の光を照らしてしまい魔獣の復活に繋げてしまったようだ。実際にグロンショの傍にはそれらしい箱が横たわっていた。
この証言に驚かされたニナールをはじめとする冒険者や役人たちはすぐに領主の長男のオラウ・アジャシャを問い詰めた。オラウは魔獣とグロンショの関係を聞かされて問い詰められると、青い顔をして逃れようとした。だが、その態度と顔色から関係者だと言っているようなものだった。オラウは怒ったニナールによって強引に迫られて、青を通り越して白い顔で白状した。
「お、俺は、遊び半分で買ったんだ……でも、後で気味が悪くなって、あいつにそれを渡したんだけど……」
オラウは魔獣の封じられた箱だけ話すつもりだった。病魔の入った瓶と流行り病についてまでは言葉にすまいと思っていた。だが、現実はそんなに甘くない。
「グロンショの馬鹿の子分がこんなことも言ってたんだけどねえ。領主の息子が父親にあてつけするために病気の元を使って病をばらまいたってね。グロンショたちはそれを手伝ったってねえ」
「んなっ!? ち、違う! そんな事実はない!」
「あんたの親父さんも病気だったね? 傍にいるはずのあんたはどうして元気なのかい? うつってもおかしくないのに」
「それ、は……」
「箱が気味が悪くなったのは怖くなったからだろう? 自分たちがばらまいた病気が思ったよりもひどかったから怖くなった。どうなんだ、おい!」
「はい……」
結局、オラウはすべて話してしまった。話し終わったオラウはニナールに殴られて気絶するという自業自得な目に遭ったが、これからもっと酷な罰が待っていた。
事情を聞いた気の弱い領主ミュジェ・アジャシャは激怒して、病に蝕まれた体を引きずってまで長男を殴った。その場で廃嫡・絶縁を言い渡すと部下に縛り上げさせて役人に突き出した。その直後に倒れこむという事態になったが、オラウの部屋で発見した病魔の病気を治す薬を飲んで持ち直した。
「ニナール、すまなかった。オラウのやつがあんなにバカだったとは思ってもいなかった。もっと私がしっかりしていればこんなことが起きずに済んでいたのに……。私は町のみんなに償わなければならない。この薬を量産してみんなに配ってほしい。頼めるか?」
「頼めるか、じゃないよ。本当に気が弱い領主様だね。正直、あんたも殴ってやりたいけど病み上がりだし、今は薬の量産が先だ。だからこっちは任せな」
「魔獣を倒した冒険者たちにも償いと報酬を考えなければな。許されるとは思えないが……」
「報酬はあの二人だけでいいよ」
「何?」
ニナールは魔獣を倒した英雄について話を始めた。
魔獣ジャイアントスコーピオンが倒されてから一週間後。町の門の手前、ゼクトとミエダは旅に戻ろうとしていた。それを見送るのはルルとラレル、そしてニナールとギルド職員たちだ。
「もういっちゃうの?」
「もっとゆっくりしてもらってもいいんですが」
「本当だね。一生この町に居ついてもらってもいいのに」
「町の英雄なのに」
「さみしくなるわ」
多くの者が引き留めようとしたがニナールは違った。
「野暮なこと言うんじゃないよ。世界を旅するのも冒険者の生きざまさ。私には分かるよ」
「ありがとう、ギルマス」
「理解が早くて嬉しいわ」
ゼクトとミエダが旅に出る理由は初代魔王のダンジョンに挑むことだ。一々、通った街に居つく理由はない。それにミエダはともかく、ゼクトを追いかけて連れもどそうとする者たちがやってくるかもしれないのだ。ミエダの正体に感づくものも出るかもしれない。長居は無用だ。
「また、立ち寄ったら来るさ」
「その間に元気でね」
二人は門を出て町の外に踏み出した。
「「「「「ありがとうございました! どうかお元気で!」」」」」
二人は嬉しそうに笑って、手を振った。
「「そっちも元気でねー!」」
ゼクトとミエダの旅は始まったばかりだ。二人の旅の行きつく先は希望か絶望かは分からない。ただ、今は笑顔があるのは事実だった。




