第26話 VSジャイアントスコーピオン3
魔獣は二人が思っていたほど強くないし、ゼクトは自分自身が思っていたよりも強いようだった。それが分かった二人は一気に肩をつけようと決めた。
「ミエダ、あいつの弱点ってある?」
「それは、魔獣も生物だから心臓とか脳とかを叩き潰せば死ぬけど……」
「けど?」
ミエダは言い淀んだ。しかし、悪い意味ではない。
「そんなこと気にしなくても、今の私達ならこんな魔獣を倒すなんてわけないんじゃない?」
「それもそうか」
二人はとりあえず、思いっきり魔法を叩き込むことにしてみた。二人のしたが魔獣の背中なのだ。
「「連続ハンマーパンチ!」」
ドゴゴゴゴゴッ!!
「ギキッ!? ギッシャアアアアア!」
拳の雨が魔獣の背中になだれ込む。ゼクトとミエダの拳だ(ちなみにミエダはゼクトにハンマーパンチを教わった)。更に、二人は魔獣の頭のほうに移動して、
「雷撃魔法・サンダーキック!」
「憎悪魔法・ファイヤーキック!」
ドゴンッ! ドゴンッ!
「ギッシャアアアアア!?」
強烈な蹴りを魔獣の頭に叩きつけた。雷と炎の蹴りを受けた魔獣は脳震盪を起こしかけた。混乱状態だ。
「ギ、ギ、ギシャア……」
しかし、これで終わることはない。攻撃はやまない。もちろん、魔獣ではなく二人の攻撃がだ。
「ハンマーパンチ!」
「カーススティング!」
ドゴンッ! ドゴンッ!
「ハンマーチョップ!」
「ファイヤーパンチ!」
ドゴンッ! ドゴンッ!
「ギッシャアアアアア!?」
ゼクトとミエダの攻撃が何度も続いた。魔獣は何度も悲鳴を上げた。毒針で攻撃しようにも頭の上だからうかつに攻撃できない。下手すれば自分にあたるかもしれないくらい分かってしまうのだ。ハサミもないため打つ手なし、もうどうしようもない。
そして、
「…………ギイィ…………」
攻撃を繰り返すうちに魔獣は叫ぶこともできないほど弱っていった。毒針を飛ばす尻尾も地面に垂れ下がっている。戦うことすらできなくなっただろう。ゼクトは魔獣の様子を見て思ったことをそのまま口にした。
「勝った、のか?」
「いえ、まだよ」
「何?」
ただし、ミエダはまだ勝ったとは思わない。魔獣はまだ生きているのだ。息の根を止めて初めて勝利と言える。
「魔獣は再生能力がずば抜けて高いの。こいつは元から弱ってたけどいずれ元気になるわ。放っておけばね」
「そうか。だが、放っておくかよ、こんな化け物」
「ええ、次の一撃で終わらせるわ」
「おう、ハンタージャンプ!」
「とおっ!」
二人は自分たちの最高の技を放つために一旦高く飛びあがった。ゼクトの体が青白く、ミエダの体が赤く光り輝き始める。二人で最大限の魔力を使うからだ。
「強欲魔法・マキシマムサンダードライブ!!」
「尊大魔法・カイザーエンドストライク!!」
バッキィーン!! バッキィーン!!
ゼクトとミエダの二人の魔法キックが、サソリの魔獣に叩き込まれる。魔獣が巨体ゆえに、流石にそのままぶっ飛んでいくことはなかったが、大ダメージは確実だった。
「ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギィ………………」
もはや叫ぶことさえできない魔獣は、蹴りを入れられた胴体を中心に赤と青の光を発して完全に動きを止めた。生命活動が止まったのだ。
「やったな」
「うん、大勝利!」
胴体が黒焦げになった魔獣の上で喜ぶ二人。
「魔獣って聞いたからどんなもんかと思ったけど、思ったよりも強くなかったな」
「確かにダンジョンの狂戦士のほうが強かったけど本当ならもっと手こずったはずなのよ」
「やっぱりそうか?」
ミエダに言われて、ゼクトは改めて魔獣を眺める。目に入ったのは魔獣と魔獣に荒らされた土地だった。木々はなぎ倒され地面はめちゃくちゃだ。しかも、毒に汚染されたのか黒ずんでいる場所もあった。
「確かにヤバそうだな」
魔獣が通った土地を見て、ゼクトは今更になって魔獣の危険性を思い知った。自分たちは運がよかっただけだと実感した。
「今回は運よく弱ってたけど本来の実力があったなら相当大変だったわよ」
「それなら今度魔獣に出くわしたらもっと気を引き締めないとな。俺達の向かう先にはこんなのがいるんだろうし」
「ええ。あっ、増援が来たみたいよ」
ミエダが指さしたのは町……ではなく、町から来た冒険者たちだ。先頭にはニナールがいる。二人は合流して魔獣を倒したことを伝えたが、結構長く話すことになった。




