第20話 魔獣2
~~ホワイトサイド~~
正直言って、相棒の発言は爆弾発言だ。人間の世界で貴族を疑うということは、結構重みがあることなのだ。もっとも、すぐそばに貴族かその関係者がいなければ別にいいのだが、いまこの場にはギルマスがいるんだぞ! どう出るか分かったもんじゃないんですけど!
……といいたいところだけど、幸いというのか、疑われたのは評判の悪い男みたいだからセーフ。しかも、ギルマス達もすっげえ悪く言ってるから大丈夫だろうな。後で注意しておこう。……っていうか、彼らが真剣に考えこんでる辺り、そいつが元凶で間違いないんじゃないか?
「あ、あの、思い当たることがあるんですか?」
「……この町の領主が早い段階で病に倒れてんだ。ちょうど一か月前にね」
「そのことで長男なのに奴は嬉しそうでしたね」
「グロンショの馬鹿もその時から横暴さが増していました」
おいおい、父親が病気でウキウキしてんのかよ、馬鹿じゃねえの? あの大男もその頃から? これって、もう確定でいいんじゃないか?
「……そういえば、領主のところで働いている友人からこんなことを聞きました。馬鹿長男が怪しげな商人から変なものを売りつけられたとかって」
「変なもの?」
「確か、気味の悪い液体が入った瓶だの、不気味な箱だのと……」
何だそりゃ? 本当にバカみたいなドラ息子だな。絵にかいたみたいなやつだ。
「それが原因じゃないの?」
「え?」
相棒が反応する。どう関係あるんだろう?
「その気味の悪い液体にこそ病魔が詰まっているんじゃないの?」
「「「「ええっ!?」」」」
「どういうことだよ!? 病魔ってそんな風に扱えるのか!?」
「魔物や魔獣の毒は扱いによっては保存できる。毒薬として武器に塗ったり、殺害目的の毒薬としてもね」
そういえば聞いたことがあるぞ。戦争でも魔族が毒を扱って戦うとか。それって魔獣の毒だったのか!
「……これは奴にも詳しく効かせてもらおうかね。もし本当に元凶そのものか、あるいは関係者だったらただでは済まされないねえ」
ギルマスの目が鋭くなり、声がなんかヤバくなってる。ていうか魔力のオーラが噴き出てるんですけど!?
「ニ、ニナールさん落ち着いてください! あれでも貴族ですから、まずは……」
ギルマスがヤバくなって職員がなだめている。これは何かすごそうだ。隣にいる相棒も戦慄しているようだった。もうこの事件はもうすぐ終わりそうだな。俺は安心してしまった。
その時だった。衝撃が起こったのは。
ドッゴオオオオオオオオン!!
「「なっ!?」」
「「「「えっ!?」」」」
突然、地響きが起こったのだ。驚いた俺達は一瞬で領主の馬鹿うすこの話から脱線した。もうそれどころではなくなっていたのだ。
「な、何ですか今の!?」
「じ、地震か!?」
「落ち着け! まずは外で何が起こったのか確かめるんだよ! みんな、町の安否とその周辺に何があったか調べるんだ、そこの二人もお願いしていいかい!」
「もちろんです!」
「喜んで協力するわ」
流石はギルドマスターだ。突然の急展開でも的確な指示が出せるとは。正直、俺もパニックになりそうだったぜ。
「そんじゃあ、行くよ! ついてきな!」
「「「「「了解!!」」」」」
俺達は皆でギルドに出る。ついでに、ギルマスはギルド内にいた少数の冒険者たちにも声を掛けた。非常事態だからその場にいた全員が協力をしてくれた。慕われてるなあ。
ギルドの外は人々の叫び声で騒がしくなっていた。
「「「うわあああああ!!」」」
「「「きゃあああああ!!」」」
多くの人に都が騒いでいるけど、一体何に怯えてるんだ?
「お、おい! 見ろよあれ!」
「え? 何だありゃあ!?」
「お、おいおいおい! あれってまさか!?」
街の端っこのほうを向いた冒険者たちが気付いた。俺達もそっちを振り向く……え、マジかよ!? 嘘だろ!?
「そ、そんな、馬鹿な……!」
「本当に、いたんですね……!」
ギルマスですら絶句している。無理もない。噂をしていた時に現れるんだ。いるかどうか、というよりもいないと信じたかったヤバい化け物が……!
「ま、ま、ま……!」
「「「「「魔獣だー!!」」」」」」
そう。それは、巨大なサソリの姿をした魔獣だったんだ。




