第14話 愚かな大男2
ゼクトとミエダが無事に宿に泊まれるようになった頃、あの男が目的地にたどり着いていた。
テメジハの町の領主の館
グロンショとその子分たちはテメジハの町の領主の館の前……ではなく、その裏のほうに回っていった。その辺りも柵で囲まれていたが、重要なのはそこではない。
「この辺りだったな」
グロンショは傍にある大きな岩を横にずらした。すると、岩の下に階段が続いていた。
「行くぞ。ついてこい」
「「「「「へい」」」」」
彼らは躊躇なく階段を下りていった。実はこれは領主の館に繋がる隠し通路であり、彼らは領主の長男に会うためにここを通るのだ。
領主の館・地下
「来たかグロンショよ」
「おう、待たせたな。オラウ」
目の前にいるのが『オラウ・アジャシャ』。領主の『ミュジェ・アジャシャ』の長男だ。ただし、嫡男と言える立場かと言えば微妙である。
「へへへ、貴族様が直々に会いに来てくれるたあ、嬉しいねえ」
「はん! 非公式だからな。今はうるせえ弟も居ねえしな」
「「ははははははははは!」」
実はこの男、かなり素行が悪く評判も悪い。父親は気が弱いため強く諫めることができず、母親は既に他界しているため、叱ることができる者が不在なのだ。ただ一人、オラウよりもずっと優秀で文武両道な弟にあたる『ガエ・アジャシャ』がいたのだが、王都に留学に出ているため、それをいいことにオラウは好き勝手していた。
「それで何の用だ? お前にたてつくやつでも出たのか?」
「ああ、その通りよ。よそから来た白髪の小僧と黒髪の女だ。この俺様をコケにしやがったんだ、むかつくぜ! せっかく病気を流行らせたってのによお!」
「そんな奴らが現れやがったのか。治療魔法だけでなく、戦闘にも……。ちっ、うちの弟と同じタイプかよ」
オラウは舌打ちする。弟と同じと思うだけでも腹正しいのだ。彼が嫡男と言える立場かどうかあいまいなのは、父親である領主が次期当主を弟にと考えているからだ。父親は隠してるつもりのようだが、オラウはその事実に気付いていたため、家族との仲は険悪になっていた。
「……おい、治療魔法だけでなくってどういうことだよ?」
「通信魔道具から連絡があったんだ。ギルドマスターからな。どうやら病気が治されたらしい。お前の言ってる二人にな」
「「「「「っ!?」」」」」
「な、何ーっ!?」
グロンショは大声を上げて驚いた。それと同時に血相を変えてオラウの胸ぐらを掴んで問い質しだした。
「ぐ、離せよ……!」
「おい! どういうことだ! お前の流した病気は、特効薬がないと絶対に治せないんじゃなかったのか! なんでギルドマスターが治るんだよ!」
「う、ぐ……」
「自然な流行り病に見せかけるために町中に病気を流したんだぞ! 話が違うじゃねえか、おい!」
グロンショの言っていることは事実だった。この病気は本当は流行り病などではなく、オラウがグロンショと共に意図的に流した病気なのだ。病気の入った液体をギルドや町周辺に撒いて、病気の元をばらまいたのだ。ギルドマスターに関しては、グロンショが酒に原液を混ぜて飲ませたから確実だった。
ことの発端は次期当主は誰になるかという問題からだった。父親が次期当主を弟に決めた決意を聞かされたため、オラウは激しく動揺して父親を病死させようと決めたのだ。ただ、父親だけが病気に罹るのは不自然だと疑われるのを避けるために、元貴族だったグロンショと結託して流行り病に見せかけたのだ。
「もし、流行り病じゃないってバレたら面倒になるだろうが! どうしてくれるんだ! せっかくあのうるさいギルドマスターがいなくなると思ったのによお!」
「そ、それは……」
グロンショが焦るのも無理はない。何しろ、病気をばらまく過程で町周辺で不審な動きをしまくったため、流行り病じゃないと分かれば真っ先に疑われるかもしれないのだ。真っ赤な顔に冷や汗が流れているの仕方がない。
グロンショの脳裏にギルドマスターの顔が浮かぶ。それも不機嫌な顔でこちらを睨みつけたり、不敵な笑みを浮かべたかと思ったら怒りに満ちた顔に変わったりと。全てグロンショが恐れるギルドマスターの顔だ。彼女さえい無くなればもう怖いものなしだ、自分がこの町の冒険者たちのリーダーだ、そんなことを考えていたのだが全てぶち壊されてしまったのだ。グロンショはそう思った。




