第13話 初めてのお泊り
テメジハの町の宿
ルルに教えてもらった宿の中でゼクトとミエダは、受付で手続きを始めた。ゼクトもミエダも宿に泊まること自体初めてだったので、少し緊張していた。大したことではない、はずなのだが……。
((ここが宿! 旅の冒険者の重要な場所!))
ゼクトは『冒険の旅』ということ自体に憧れていたこともあり、本当に大したことではないのに手続きだけで少し感激していた。普段は大人びたミエダもそのことを聞かされていたため、ゼクトと同じ気持ちでいた。この時の二人を第三者が見れば微笑ましく見えるだろう。
「お二人とも、宿泊をご希望でしょうか?」
「「は、はい! 宿泊をご希望します!」」
「部屋のご希望はございますか?」
「「!?」」
二人に新たな緊張が走った。部屋のご希望? 泊まる部屋に違いがあって選ぶことができる? ゼクトの冒険者の知識には無かった。泊まる部屋のことについては考えていなかったため、今ここで考えて決めなければならなくなってしまった。
(き、希望か……。どうしようどうしよう、ひとまず相棒と話し合ってからにしないと。うん、そうしようそうしよう)
こんな些細なことで頭の中が整理できなくなるゼクトは、この辺は子供のようだった。ここで、ミエダが口を開いた。ただし、ゼクトではなく受付の女性にだ。
「あ、あの、部屋って、どんな部屋がありますか!?」
(ちょ、相棒!?)
「私達初めてきたので、よく分からないんですが!」
「!」
ミエダの「私達初めてきた」という言葉に、ゼクトは乗っかることにした。
「あっ、そうなんです! 俺達、この町には初めて来たから、出来るなら一緒の部屋がいいなって!」
(アニキ! ナイス!)
ゼクトの「出来るなら一緒」という言葉を聞いたミエダは、心からゼクトを褒めた。頼れる相手が一緒の部屋に泊まるのだから安心できる。最初からそう言えばよかったのだ。
「一緒の部屋ですね。では、一部屋にベッド二つでよろしいでしょうか?」
「「!」」
受付の女性は、見るからに緊張して話す二人に落ち着いて対応できている。こういう客にも手慣れているのだろう。子供の二人が見習うべき大人のふるまいだ。
「「はい! お願いします!」」
「金額はこれぐらいになりますがいかがでしょうか」
受付の女性は金額を提示する。ゼクトとミエダはお互いの顔を見合わせて笑顔を見せ会うと……。
「「はい! 払えます!」」
ゼクトは懐から提示された額に合う金を出した。女性は受け取って確認する。
「間違いありませんね、ありがとうございます。では、これが部屋のカギになるので、ごゆっくりしていってください」
「「はい! ありがとうございます!」」
早速、二人はワクワクしながら部屋に向かっていった。少し前は無一文だったはずの二人がお金を持っている。それも実は大金だ。何故、そんな大金を所持しているかというと、それはギルドにいた時に……。
※数時間前のギルド
「ギルドマスターのところに行く前に魔物の換金だけでもしておきたいんだけど」
ギルドマスターのところに行く前に、ゼクトは換金だけ済ますことにした。実は無一文というのは心もとないのだ。これから行く先で何があるか分からない以上、お金はできるだけ持っておきたいのだ。
「そうですね、これらの魔物だと……これぐらいになりますね」
ギルド職員の女性は普通に換金した場合の金額を提示した。その金額を確認したゼクトは驚いた。
「えええ!? こ、こんな大金になるんですか!?」
「え~と、こんなにもらえるものなの?」
驚くゼクトと不思議そうなミエダに職員は当然とばかりに答える。
「当然でしょう。ランクBのラビットモンキー10頭とランクAのホーンタイガー2頭、同じくランクAのダッシュバード6頭ですよ。しかもこの爪ってやっぱりドラゴンでしょ? これぐらいの金額になりますよ。下手をすればもっと高値が付きますが、今のまま換金してよろしいですか?」
「はい! お願いします」
「そうね、早いうちにお金が欲しいしね」
「では、これが換金した代金です。お受け取り下さい」
「「!」」
この時に、ジャラッ、と音を立てるほどの大金を渡されたというわけだ。つまり、すでに魔物を換金して大金を所持しているため無一文から脱却、一転してお金に余裕ができたのだ。




