第12話 愚かな大男
ルルとラレルの親子の家から出た後、ゼクトとミエダはルルに教えてもらった宿に向かっていた。二人は仲良く嬉しそうに話をしている。
「いいことしたな。不思議と気分がいいもんだよな」
「うん。ルルちゃんみたいなかわいい子が喜んでくれると心が和むわ~」
それと同じ時間に、ある男が子分を引き連れて町の領主の屋敷に向かっていた。
「くそっ! くそくそくそくそくそ、くそっ!」
「「「「「…………」」」」」
この男はグロンショ・ゴバリャウ。少し前にゼクトとミエダに絡んだことで笑いものにされた挙句に子分ともども気絶させられた短気で乱暴な男だ。彼らが今領主の屋敷に向かうのは、ゼクトとミエダに仕返しをするためなのだ。子分達は気が進まないが……。
「あいつらは絶対に許さねえ! 今に見ていろ! 俺に恥かかせたことを後悔させてやる!」
少し前に彼らは起き上がった。その後、反撃に転じようとしたがギルドには誰もいなかった。それもそのはず、あそこにいた職員たちと一緒にゼクトとミエダはギルドマスターの元に向かっていたのだ。
(畜生! 逃げたな! ギルドに誰もいないとは!)
ただ、ギルドで何もしなかったわけではなかった。気晴らしに子分たちにギルドの机や椅子を破壊させたり、書類を破るなどして鬱憤を晴らそうとしたのだ。その時、子分の一人がゼクトとミエダが魔物の換金の時に書いた書類を見つけてグロンショに見せたのだ。
(ふん、ゼクトにミエダか。……ちょっと待て、ゼクトだと? ま、まさか!?)
(親分、どうしたんすか?)
(おい、ゼクトといえば確か勇者様の息子も同じ名前だったような……)
(まじか!? たまたま同じ名前なんじゃないのか!?)
(でも、あの強さはすごかったぞ。本物なんじゃ……)
(それじゃ俺達は、勇者様のお子様に手を出しちまったのか!?)
子分たちは顔を真っ青にして震えだした。この町でも勇者は強大な存在なのだ。だが、頭であるこの男だけは違った。
(……ゼ、ゼクト……一年前に王都で恥をかかせやがったあのガキか!)
(((((え?)))))
(あのガキがまたしても俺に恥をかかせやがったってことか! 許さん! 絶対に許さねえ! 絶対に仕返ししてやる!!)
(((((ええー!?)))))
……子分たちが恐れる中、グロンショだけは顔を真っ赤にして震えていたのだ。実はこの男、一年前にもゼクトに出会っていたのだ。その時の様子はというと……。
(何だてめえ!)
(あんたこそ何してんだ! こんな小さい子に絡むなんて!)
一年前のグロンショは王都で商人の娘に難癖付けて絡んできた。目的は商人から金をかすめ取ろうとするためだった。その時、まだ髪が白くなかった頃のゼクトに阻止されたのだ。
(くらえ!)
(くらわん! てやっ!)
グロンショは殴りかかるが見事にかわされた。更に股間に強烈な蹴りを叩き込まれてしまったのだ。
(ぐおおおおおおお!!??)
(大丈夫?)
(お兄ちゃん、ありがとう!)
(ありがとうございます! 娘を助けていただき感謝します、ゼクト様!)
(ゼ、ゼクト……? ぐうう!?)
痛みに悶絶する中で聞いたのは『ゼクト』という名と周りからの嘲笑の声だった。
(あはははは、何あれ?)
(見てみて! 大男が子供に負けてる!)
(子供に絡んで子供に負ける、超ウケるんですけど!)
(大人として最低だけでなくカッコ悪!)
(ぎゃはははは!)
(…………!!)
子供に負けて笑われる。グロンショはとてつもないほどの屈辱を思い知った。自業自得なのだが、激しい怒りがこみ上げた。本当に救いようがない男なのだ。この後、グロンショは兵士たちに逮捕されて牢屋に送られた。出所した後は、王都にいられなくなり故郷であるテメジハの町に戻ったのだ。
一年前に起こったことを思い出したグロンショは、その時の『ゼクト』とさっきの『ゼクト』が同一人物だと思い込んだ。実際そうなのだからすごい偶然があるものだ。
「ゼクトとかいうあのガキ! 勇者の息子とか関係ねえ! 絶対に俺を二度もコケにしたことを後悔させてやる! 来い、野郎ども!」
「「「「「へ~い……」」」」」
グロンショは復讐のためにまず領主の屋敷に向かう。領主とはとある理由で繋がりがあり、それを利用しようとしているのだ。だが、それが後に彼自身を破滅に導くことになる。




