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第一話 迷子の二人

アルファポリス様にも投稿している新作です!

 この世界ではかつて人間と魔族が戦争をしていた。だがそれも、10年以上前に人間側の勝利に終わった。勇者たちが魔王を倒したことによって。その後、人間の住む地上の世界は魔族の住む魔界と友好を進め、世界は全体的に平和になった。


 しかし、平和な世界になったとしても、地上でも魔界でもいいことばかりが起こるわけではない。いつの時代でも、悪いことが起こるものである。特に弱いものに対して。


 例えば、魔王を倒した5人の勇者を輩出したレバリャエム王国の端っこのとある森の中で、一人の少女が魔物に追われることがそうだ。


「ハァ、ハァ……!」


 赤い髪の10歳くらいの少女は必死に走る。薬草が詰まった手提げ袋を大事に持ちながら。そんなものでも手放せば少しは軽くなって走りやすくなるだろうに、どうしてもそれができない。


(この薬草はお母さんのためなんだ、だから……!)


 少女の名はルル・タスケ。彼女は病気で動けず日に日に悪くなっていく母親のために薬草を探すために森の中に入っていった。魔物に気をつけながら探し続け、やっと見つけ出して採草したところで魔物に見つかり追われているのだ。


 追ってくる魔物は3頭のブラックフォックス。肉食の魔物だ。小さな人間の子供なら襲ってくるほど危険な魔物だ。


「あっ……!」


 ルルは転んでしまった。しかも、転んだ拍子に気にぶつかってしまった。それを好機と見たブラックフォックスたちは、ルルを取り囲む。逃げ場を無くすためだ。


「うう……」


「「「グルルルルル」」」


 起き上がったルルはすぐに自分が魔物に囲まれたことに気付き震えあがった。このままでは自分は助からない。魔物に食べられる。薬草が届かず、母親も助からない。そんなことが頭をよぎる。


「だ、誰か……」


「「「グゥルルルルゥ」」」


「誰かー! 助けてー!!」


 恐怖の中で、ルルは大声で叫んだ。今、彼女ができることはそれぐらいしかなかったのだ。大声で叫ぶことで助けを呼ぶことだけが。本来なら、誰にも言わずに森の中に入ったルルの叫びを聞くものが都合よくいるはずがなくてもだ。


 

 本来なら。



「助けるぞぉぉぉぉ!!」

「助けるわぉぉぉぉ!!」


「え!?」


「「「ウウッ!?」」」


 突然、上のほうから二人分の声が聞こえてきた。ルルも3頭の魔物もその声に驚いて、声がした上のほうを見上げた直後、ルルの目の前に人が二人振ってきた。


「きゃあ!」


「「「ッ!?」」」


 驚いたルルはとっさに顔を背け、魔物たちも即座に後ろに下がった。


「な、何? ……え?」


 ルルが正面を向くと、そこには少年と少女が立っていた。少年は純白と表現できるほどの真っ白な白髪と青空のような青い瞳でまさに冒険者といった感じの格好をして、少女は漆黒の髪に赤い瞳で人形のように美しい美貌を持った魔法使いのようだった。


(何この人たち、空から降ってきたの……?)


「はぁ、無事着地って感じかな? なあ、相棒」

「どうかな、ちょっと埃を巻き散らしちゃったけど、問題ないんじゃないかな? アニキ」

 

「……は? え?」


 お互いを『相棒』『アニキ』と呼びあう二人の登場にルルの頭はついてこれなかった。助けを求めたのは彼女自身だが、その助けに来た人がこんな登場をしてくるとは思ってもいなかったのだ。当然だが。


「「「グゥルルルルゥっ!」」」


 ただ、魔物のほうの頭は早く対応を決めたようだ。3頭のブラックフォックスは現れた二人を敵とみなし、威嚇を始めた。それを見たルルは怯えるが、少年と少女の反応はルルを驚かせるものだった。


「ねえ、アニキ、あの魔物は何っていうの?」

「あれはブラックフォックスっていう狐種の魔物だな。3~5頭ぐらいで狩りをするんだけど、小さな子供も時には襲うときがあるっていわれてる。間違いなく、今がその場面ってとこだったんだろうな」

「ふうん、小さいけど狂暴な魔物ね」

「まあ、そうだな。人襲おうんだからな」


(ええ!? 何言ってるのこの人たち!?)


 ルルは混乱してしまった。魔物が3頭もいるのに何故か少年は少女に解説しているではないか。呑気にしている場合ではないはずなのに。


「あ、あの……」


「ん?」

「何?」


「た、助けてもらえないでしょうか……? お、お礼に、私の持ってる薬草を……」


 ルルはこの二人が自分を助けてくれるか心配になった。そこで薬草を差し出そうと決めた。本当なら、母のために取ってきたものだったのだが今は自分が助かることを優先したほうがいいと思ったのだ。ルルが死ねば母は悲しむからだ。幼い彼女でも母親の気持ちぐらいは分かる。


「「大丈夫!!」」


「ひえッ!?」


 だが、ルルが最後まで言い終わる前に二人同時に勢いよく口を挟んできた。少し迫力があったためかルルはひるんでしまった。


「俺達は必ず君を助ける! お礼なんて気にすんな!」

「そうよ、安心してね」


「ひゃっ! あ……」


 少女はルルを安心させるかのように、目線を合わせてから笑顔で頭をなでてくる。ルルは少女のしぐさに驚いたが、少女の美しい顔を間近で見て思わず呆けてしまった。しかし、少女がこの直後に発した言葉がルルを現実に戻した。


「私達ね、迷子になってるから、人里に道案内してくれればいいのよ」


「お、お姉さん……え? 迷子?」


「来やがれ、狐ども! チェイサースラッシュ !」


「「「ッ!?」」」


 ルルが現実に戻った直後、少年は剣を振るって光の斬撃を魔物に浴びせていた。3頭のブラックフォックスはあっという間に切り刻まれて倒されてしまった。


「す、すごい……!」


 ルルは自分が今見た光景に驚いていた。魔物を狩ることを生業とする冒険者の職業のことは知っていたが、ルルが実際に見た冒険者は大人の人だけだった。自分より年上というだけの少年がこれだけ強いことがすごいと思ったのだ。きっと彼も冒険者なのだろうとルルは思った。


「た、助けてくれてありがとうございます! なんとお礼を言えばいいか……!」


「ふっ、お礼何てそんな……ただ、どうしてもというなら……」

「それじゃあ、早速だけどどこかに町か村があったりしない? 私達二人、迷ってて困ってるの。案内してくれればお礼としては十分よ」


「ああ、それぐらいでしたら……」


「おおーい、ちょっと待てミエダ! 素直に迷子とか言わないでくれよ、カッコ悪いだろ!」

「あれー? 事実だから仕方ないでしょ? 道案内してもらうんだから迷子だってバレても仕方なくない?」

「そ、それは……」


「ほ、本当に迷子なんですね……」


「うぐっ!?」

「ええ、そうよ」


 ……少年はギクッっとした態度を取り、少女はにっこり笑って肯定した。ルルはどう反応すればいいか分からなくなって、とりあえず苦笑いするしかなかった。


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