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にゃおうの森~もふもふな魔王様~

作者: 雪野みゆ

 むかしむかし、ある国の森に絶対に倒すことができないという最強の魔王が住んでいました。


 この国の王様は何度も手練れの騎士を魔王の元に送り込みましたが、帰ってきませんでした。


 何しろ、国一番の聖騎士ですら、帰ってこなかったのです。


「魔王を倒した者には褒美ほうびを望みのままに与えよう」


 ある日、国中におふれを出しました。


 ところが、魔王討伐のために森に踏み入った者は誰一人として帰ってこなかったのです。


 困り果てた王様はいちかばちかの賭けにでました。


 異世界から勇者を召喚し、魔王を倒すというものです。


 そして、勇者召喚は成功しました。しかも一度の召喚で四人も呼び出すことができたのです。


 勇者たちは日本という異世界から来た「高校生」という職業の少年少女でした。


「勇者たちよ。どうか魔王を倒してくれ」


 王様は勇者たちに頭を下げて頼みました。


「は? なんで俺らがそんなことしないといけないわけ?」


 真っ先に答えたのは勇人ゆうとという少年でした。王様の御前でひざまずくこともなく、耳をほじっています。


「魔王とか興味ないから。日本に帰してよね」


「そうよ。今日彼氏とデートなんですけど」


「もしや、これが有名な異世界召喚? はっ! 今日は『もふもふ異世界無双』の放映日だった」


 口々に勝手なことを言っている少女三人は順番にありさ、るな、かれんという名前です。ありさとるなは大広間の豪華な鏡の前で化粧直しをしています。かれんは『もふもふ異世界無双』に思いをはせているようです。


 ちなみに『もふもふ異世界無双』とは最近始まった人気のアニメだそうです。


「魔王を倒してくれたら、日本とやらに帰そう。褒美も与える」


 王様は無礼極まりない勇者たちをとがめることなく、言いました。


「マジで? 金くれるの?」


「望みのままに与えよう」


 ハイタッチをしながら喜ぶ勇者たちには聞こえない声で「召喚したら帰れないがな」と王様は呟きました。



 お城の武器庫で適当に剣や防具を選ぶと、勇者たちは魔王が住む森へと出発しました。


「あたし弓道なんてやったことないんですけど?」


 森の中を歩きながら、ありさが与えられた弓矢を見ています。


「異世界召喚された勇者はチートになれるんだろ?」


 勇人が剣を振り回しながら、かれんに聞きます。


「読んだ小説にはそう書いてあったけど……」


「あたしらが魔王に倒されたら、どうするのよ? 彼氏とデートできない!」


 短剣を不安そうににぎっているるなの手が震えます。


「そうなったら、この杖で魔法を使って生き返るとか?」


 かれんが両手で握りしめている杖をかかげます。


「そっか! なら安心!」


 

 勇者一行はさらに森の奥に進みます。すると、お城が見えてきました。


「あれが魔王の城?」


「なんとかランドに似てない?」


 彼らは魔王の城というので、おどろおどろしい城を想像していました。ところが、目の前のお城はメルヘンな造りでびっくりしたのです。


「とっとと魔王倒して、帰ろうぜ」


 勇人が正面の扉をけやぶり、中に入ると正面に黒い影が佇んでいました。


「よくぞ、ここまでたどり着いたにゃ」


「にゃ?」


 よく見ると、ふてぶてしい顔をした黒い猫が玉座と思われるキャットタワーの一番上にいました。


 彼らはなぜキャットタワーを玉座と判断したのでしょう? それは黒い猫が王冠をかぶっていたからです。


 黒い猫は飛び降りると、勇者たちの前にのっしのっしと二足歩行で歩いてきます。


 体長が二メートルはある大きな黒猫です。


「でっかい……にゃん」


 勇人は白目をむいてしまいましたが、三人の少女は黒猫に抱きつきました。


「「「もふもふ!」」」


 黒猫のおなかの毛は温かくてもふもふでした。


「お猫様が魔王様?」


「そうにゃ。人間たちはそう呼んでいるのにゃ。しかし、吾輩はケットシーの王なのにゃ。間をとってにゃおうと呼ぶにゃ」


 ケットシーとは妖精猫のことです。


 ケットシーの王様は人間に領土を奪われこの森に住みついたこと、召喚されたら帰れないことを少女たちに話しました。


「あのブタ王、だましたわね」


 ブタ王とはこの国の王様のことです。まるまると太っていたので、ありさがそうあだなをつけたのでした。


「あたしら、帰れないの?」


 しょんぼりとする少女たちにケットシーの王様はこう提案しました。


「ちょうど吾輩の世話をしてくれる者を探していたのにゃ。ずっとここに住むといいのにゃ。なに。すぐに慣れるのにゃ。にゃっはっはっはっ!」


 ケットシーの王様のほがらかな笑い声に少女たちは破顔はがんしました。


 彼女たちはみんな猫好きだったのです。多少でかい猫だろうと、しゃべろうと問題ありません。


「「「喜んで! にゃおう様!」」」


「冗談じゃねえ! 俺は帰る!」


 やっと正気を取り戻した勇人がそう叫び、お城を出ようとします。


「それは困るにゃ。我輩の正体を知られるとまずいのにゃ」


 ケットシーの王様が合図をすると、二足歩行の猫がわらわらと出てきて、勇人をあっという間に捕まえると、どこかに連れていってしまいました。


「勇人はどこに?」


「ここに慣れるまで『にゃおてぃーる』の製造工場で働いてもらうのにゃ」


 聞きなれない単語に少女たちは首をかしげます。


「にゃおてぃーる?」


「ケットシーのおやつのことにゃ」


 今まで魔王……ケットシーの王様を討伐しに来た人間たちは、みんな『にゃおてぃーる』の工場で働いているとにゃおう様は語ります。


 実はブタ王……この国の王様はとんでもない暴君で国民に嫌われていました。


 人々は討伐と見せかけてこの国を逃げ出したり、ケットシーの王様に仕えていたりします。誰一人として帰ってこなかったのはそのためだったのです。


「あの国が滅びるのは時間の問題にゃ」


 日本に帰れなくなった少女たちはケットシーの王様をもふもふしながら、末長く幸せに暮らしました。


 めでたしめでたし!

お読みいただきありがとうございました(*´∀`*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] にゃおう様が優しく、召喚された女の子達とも仲良しになるところが良いですね!やっぱり女の子と猫の絆は最高ですね! このままあのブタ王をやっつけて、にゃおう様が代わりに国王になった方が王国はよ…
[一言] 勇人くんはそれで良いのかね……
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