21話
投稿遅くなり本当に申し訳ありません。
○第一の街 職人街
「汚ねぇぞ、ロイド!」
俺の吹いたお茶を顔面に受けた目の前の男、ヘファイストスが抗議の声を上げる。
「ゴホッ、ゴホッ!す、すまん…」
お茶を飲んでいる最中であったこともあり、むせてしまう。
「と言うか、俺の聞き間違いじゃなければヘファイストスと聞こえたんだが?」
俺の聞き間違いかもしれないので、聞き返す。
「だからそう言っているだろ、オレはヘファイストス。武器や防具、道具も打つ鍛治士だ!」
そう言って、ヘファイストスは「がっはっはっは!」と豪快に笑う。
俺の記憶が正しいなら、ヘファイストスはギリシャ神話の神の名前だった気がするんだが、確か炎と鍛治の神だったか?
俺の浅い知識ではこの程度だろうか、だがそれだけでもこの目の前の、ゲルドにそのまま年取らせたような男がすごい奴であることはわかる。
俺が考え込んでいるのが気になったのかヘファイストスが話しかけてくる。
「何だ?そんなに考え込んで、オレの名前におかしなところでもあったのか?」
「いや、そう言うことじゃない。少しと言うか結構、聞き覚えのある名前だったからな」
「お?何だロイド、聖陽国に行ったことでもあるのか?」
「聖陽国?」
「その感じだと行ったことが無さそうだな。まぁオレは、そこじゃあ知らない者はいないほどには有名だったからな」
吹いてしまい、殆ど入ってない俺のコップにお茶を継ぎ足しながらそんなことを言う。
「そんな大物が何でこんな駆け出しの街に?」
「ただ国から降りてきた時、ちょうど下にあったのがこの街だったんでな、何でも丁度この工房が余ってるって聞いて、そのままここにいるんだ」
「そんな適当な理由だったのかよ…。…と言うか、降りてきた?どう言うことだ?」
国から降りたってどう言うことだ?そのまま捉えるとまるで国が浮いているみたいだ。
「ロイドは、聖陽国について全く知らんのだな。むぅ、何処から話したものか…」
そう言いながらヘファイストスは聖陽国について話し出す。
「聖陽国ディウス確かそんな名前だったか?教会関係の奴らには神国だなんて呼んでる者もおる。他にも、天地だの太陽に最も近い国だとか言われてるなぁ」
「へぇ…」
なんかいろんな呼び名があるみたいだが、聞いた感じ、なんか凄そうな国だな。
と言うかその国の人間だったくせに国の名前はっきり覚えてないのか…。
「まぁ、そんな風に呼ばれているのは浮島にいるからじゃあねぇんだが」
「ん?違うのか」
てっきりそうだと思ってたんだが…。
「あぁ、違う。あの国の王は現人神って呼ばれてる。要するに神様だとよ」
だから、教会から神国なんて言われてるのか…。
だが、普通そんな奴が出てきたら、
「逆に、教会から反感を買うんじゃないのか。神を騙るなんて大罪だろ」
「がっはっはっは!そうだろうな。だがこの国の王は本当の神だった。しかも実在し、皆が知っている。面白いだろう、お前も教会に行ったことがあるなら聞いたことくらいあるだろ聖神だよ。聖神エスト、奴が現人神として王としてあの浮島にいるからだ」
「神が国を作って、治めてるのか?」
「あぁ、建国から一度もあの国の王は変わっていない。スゲェだろ俺が生まれて来る前から王だってのにまるで見た目がかわらねぇんだ」
まさか本当に神が作った国があるとは…。
「まぁ、だからっていい場所ってわけでもねぇがな…」
そう言いながら、ヘファイストスの表情に少し怒りが見える。
心なしか、部屋の気温が上がっている気がする。
ハイレンに続いてヘファイストスまでこんな表情するとか、聖神何したんだよ。
ヘファイストスはコップに入っているお茶を一気に飲み干し、テーブルに叩きつけるとテーブルにヒビが入る。
「はぁ…すまんかったな。ちょっと頭に血が上っちまってた。まぁとにかく聖陽国はそういう国だ。行くのはオススメしねぇがな」
「気にするな、まだ少し聖陽国について気になるとこだが……これ以上は自分で調べるとしよう。で、この小屋に呼んだのは、何で何だ?」
「お?おぉ、そうだったな。すっかり忘れてたぞ。がっはっはっは!」
ヘファイストスは、本来の目的を忘れてしまっていたらしく、豪快に笑う。
ますますヘファイストスがゲルドに見えて来る…。
そんなことを思いながら、注がれていたお茶を飲む。
ヘファイストスの話を聞いていて乾いていた喉をお茶が潤す。
このお茶やっぱり旨いな。
「この茶は、やっぱり旨いな何処で買えるんだ…」
不意に口からそう漏れてしまう。
「そんなに気に入ったのか?在庫はあるから譲ってやろうか、この間報酬として受け取りはしたが流石に量が量でなぁ」
「本当か!ありがとうヘファイストス!これからこの茶を毎日飲めると思うと嬉しいな」
「おう!帰るときにでも渡そう」
このゲームをする理由が増えた気がする。
こんなに旨い茶があるのなら、旨い飯もあるんじゃないか?
旨い飯を探し回るのもいいな、現実の方ではできないからなぁ…。
「おう、そうだロイドお前職業は何にしているんだ。見たところ盗賊あたりか?」
「ん?あ、あぁ、昨日まではそうだったが、今は魔法使いをしてる」
「そうなのか…近接職なら作れたんだがなぁ…どうしたもんか」
俺が魔法使いをしていることを知ると露骨に落ち込むヘファイストス。
そんなに落ち込まれても困るんだが…。
と言うか、この落ち込んでいるところを見るからに俺の武器でも作ってくれるのだったんだろうか?
「お?その腰の短刀は…」
落ち込みながらも、俺の身体を観察していたヘファイストスは、俺の武器をみてそう声を漏らす。
「おいロイド、その腰の短刀ちょっと見せてくれよ」
「いいぞ、ちょっと待ってくれ……ほら」
俺はバルカンの短刀を装備から外し、ヘファイストスに渡す。
するとヘファイストスは剣を鞘から出したかと思うと、左を向いて短剣を振るう。
何をしているのかとヘファイストスに聞こうとすると、ヘファイストスは二回目を振る。
だが今回は、1回目とは違いバルカンの短刀の刀身が真っ赤に燃え上がり、短刀を振った後に炎が残る。
「やっぱりか…」
「っ…!今のが薪の炎って奴か!って言うか何でヘファイストスがその力を知っているんだ?」
俺がそう聞くとヘファイストスは短刀を革製の鞘に収めながら、自慢げに話す。
「がっはっはっは!それはな、ロイド!この短刀を俺が作ったからだ!」
まさかの返答だった。
なんか高いと思っていたが、評価以外にもヘファイストス作だったからなのか。
と言うか、あんなに武器を売らないと言ってたやつの武器が、あんな大通りの店に売られているのかよ。
脳内に昨日聞いた、アーサーの「灯台下暗しだよ」がリピートされている。
ちょっと、アーサーがドヤ顔なのがムカつくな…。
「大通りの店に売られてたぞ、武器や防具は売らないんじゃなかったのか?」
「あそこの店主には、売っていいと思った者にしか売るなと言ってある。お前がこれを買っているって事は、少なくともロイドが悪いやつではないと言う事だ」
そう言いながら、短刀の刀身の根元を指差しながら話す。
「ここにオレの名前が掘られてるだろ。俺が打った証拠だ」
「マジだな…全く気づかなかった」
「なぁロイド、俺の打った武器もっと欲しくないか?必要なら打ってやるぞ。」
ヘファイストスからそんな提案が飛んでくる。
「打ってくれるなら、打って欲しいがいいのか?金ないぞ」
「代わりに素材を出してくれればいい、他の金は今回はこっちから頼んでるんだしなしでいいぞ!」
めちゃくちゃいい条件なんだが、これじゃ流石にヘファイストスに悪いな。
流石に素材を出すとしても金は払うべきだよな。
「作ってくれるなら素材も出す、金も払う少し安めにしてもらうだけでいい。って言っても作ってもらう俺が言う立場じゃないんだがな」
「むぅ…別に金には困ってないから別にいいのだが…。まぁいい、それなら決まりだ!形はどうする?刀あたりはどうだ!」
これで決まりだっと言うかのように、そうまくし立てるヘファイストス。
と言うか武器を新調したばかりなので、あまり欲しいと言うのが強いわけじゃないが、向こうから作ってくれると言うのなら喜んで打ってもらう。
ヘファイストス、刀も打てるのかすごいな、いやまぁ短刀を打っているんだ打てて当然なのだろうが…。
刀も確かに欲しいがーーー
「刀の場合、俺は筋力が足りんと思うんだが?大丈夫だろうか」
「むぅ…だが刀は、短剣などの短めの武器以外なら一番筋力を必要としないはずだぞ。確かに今は無理だろうが、レベルが上がれば装備できるだろう」
「その辺は、専門家に頼む。筋力あまり使わないなるだけ器用を重視するようなので頼む」
「うむ、分かったが、素材はどうする。当てはあるのか?素材が良ければ良いほど、要望に応えられる武器が作れるぞ」
そう言われて、メニューの中でいい素材がないか探す。
何気に蹴りうさぎを狩った時の素材が、100個以上入っていた。
あのうさぎ、どんだけいたんだ本当に…。
昨日のうさぎとの戦闘を思い出しつつも、メニュー内を探る。
すると、ちょうどいいと言うかここ以外での使い方があまりわからないものを見つける。
それはメニューから取り出すと禍々しく、そして鈍く光り、赤黒い瘴気を纏っている。
「これでいいならあるが、大丈夫か?」
「おぉ、ロイドこれは…」
そう言って俺は、[隻眼の餓狼の塊魂]をヘファイストスに見せる。




