20話
投稿遅くなり申し訳ないです。
○第一の街 職人街
《スキル[熱耐性]を取得しました》
この地獄のような暑さに嫌気がさしていたとき、そんなシステムの音声が流れる。
あまりの暑さにスキルを取得してしまったんだが…。
と言うか、広くないか職人街。
歩いている間にも[熱耐性]のレベルアップを知らせるアナウンスがなる。
少しずつだが暑さが薄れている……気がする。
なんたってこの辺り、暑すぎる。
いくら耐性のスキルって言っても、レベルが低いこともあってか、気休め程度にしか楽になってないな。
頬を溢れる汗を拭いながら、俺は歩く。
◆
それから歩くこと数分、目的地である職人街最奥の工房にたどり着く。
その工房は、思っていたより無骨ではっきり言って、くる途中にあった工房の方が、綺麗なところもあった気がする。
もう少しで最奥ということもあり、立派な見た目をした場所だと思っていたこともあって、少し肩透かしを食らった気分だ。
まぁ、これで最後の配達物だ。
と言うか、さっさと蒸し暑いこの場所から立ち去りたい…。
そんなことを考えつつ、工房の中に入る。
工房の扉に手をかけると、開くためにドアを引くが、全く動かない。
鍵がかかっているのかと思い、取手の周りを見るが鍵穴のようなものはない。
「別に鍵が閉まってるわけじゃないみたいだな」
ただ異常に扉が重いだけだったようで、とってを両手で握って力ずくで引っ張って開ける。
ズルズルと重い音が鳴り少しずつだが、扉が開く。
開いた扉の隙間から尋常じゃない程の熱気が漏れる。
「……ッ!」
なんっで!こんなに重いんだこの扉!
重すぎる扉と部屋の中から出てくる熱気に苦戦していると、ふと力を入れていた扉が軽くなり、さっきまで俺の力で開けていた時とはまるで違う速度で扉が開かれる。
「うおっ!」
いきなりのことに驚き、転びそうになるがなんとか堪える。
そしてすぐさまその原因であろう人物に目を向ける。
そしてそこに立っていた人物の姿に驚きを隠せなくなる。
歳は、ハイレンよりすこばかり上ぐらいだろうか?
身長は俺と同じくらい、顔の大部分は怪我でもしているのか、眼帯のようなもので覆っていて、あまりわからないが、ドワーフのような灰色のヒゲを蓄えている。
筋骨隆々で、その体の所々に鍛治士とは思えないほどの戦闘によるものだろう傷があるのを見ると、こんなところでその手に鍛治用の槌を持っていなければ、歴戦の戦士と見間違えるだろう……と言うか歴戦の戦士というのはあながち間違えじゃないんだろう。
そこまで確認して彼の足に目がいく。
その姿だけでも印象的だったのだがその足を見てさらに驚く。
左足がなかった、代わりに膝から下は、義足というには程遠い、海賊映画などでよく見る木の棒を金属で補強したものだった。
「なんだ小僧、ジロジロ見て気色悪いな…。何度来ようと武器は作らんぞ」
何を勘違いしたのか、目の前の男はオレを睨みつけながらそう告げる。
「ギルドの依頼できた」
「だから、言ったはずだ。お前らのような金を払えばなんとかなると思っている奴らに、売るような武器はないわかったらさっさと帰れ」
「いや、だからギルドの依頼でーー」
「だから言っているだろう!貴様らのようなものに売るようなモノはここにはない!オレの気の変わらないうちにさっさと消えろ!そして二度とここにくるな!」
えー…全く話を聞いてくれないんだがこの男、と言うか絶対違うやつと間違えてるだろ。
とにかく、依頼を遂行するためにもこの男の誤解を解かなくては…。
「話を聞いてくれ!俺が今日来たのはーー」
「まだ、分からんのか?さっさと帰らなければ後悔するぞ。オレぁ優しいが我慢強いわけじゃないんだーー」
「だから話聞けって!俺が来たのはーー」
「うるせぇ!オレのところに貴様らのような、クソ野郎どもに下ろす武器も防具も道具もないと言っているんだ!商業ギルドぉ!」
どうやら俺を商業ギルドの人間と間違えているようだ。
俺は、また遮られないように声を張り上げて叫ぶ。
「俺が来たのは、冒険者ギルドからの依頼だ!」
俺の言葉が、槌の音が鳴り響く職人街に響き渡る。
男は、俺の言葉に驚いたように目を見開いたかと思うと、
「ぬ…もしかして小僧、商業ギルドの者じゃないのか?」
「だから最初からそう言おうとしていただろう。俺は冒険者ギルドの依頼で荷物を運んできただけだ」
そう聞いて、今度は俺の体を見る。
「……確かによく見ると、商業ギルドの者じゃなさそうだな」
「だからそう言っている…」
再確認するように俺にそう聞いてくる。
すると男からさっきまでの険悪な雰囲気はなくなり、俺の肩に手を回しバシバシと叩く、
「がっはっはっは、すまんな!間違えてしまったようだ!小僧、名はなんと言う!」
「がっはっはっは!」と笑いながら豪快に俺の肩をバシバシと叩く。
痛いっ痛い、ハイレンもだったが、何でこうもこの世界の住人はちょっとした動作で、俺のHPをゴリゴリ削っていくんだ!
「ロイ…ッドだ!痛い、待ってくれ!叩くのをやめろオォォオ!」
「お?すまんかったなロイド!がっはっはっは!」
あまりの事にそう叫んでしまう。
この男、誰かに似てると思っていたが、わかったぞゲルドだ。
そう男の言動から伝わってくる適当さがそれを物語っている。
「すまんかったなぁ。最近オレのところに変な奴ばかりくるものでな。そいつらと間違えてしまった」
そう言うと、男は少し頭を下げる。
別にこちらに被害がなかったから大丈夫なんだが…。
「いや別に大丈夫だ」
「本当にすまんかった。礼と言っては何だが、中で茶でも飲むか?」
そう言って男は、熱気により歪んで見える工房内を指す。
これは…こう言っては失礼かもしれないが…
「俺を殺すつもりか?」
「がっはっはっは!ロイド冗談がキツイぞ!この程度の暑さでただの人は死なん。精々、体の血液が煮えたぎるか、皮膚に焦げがつくぐらいだ」
「それを死ぬと言っているんだよ!」
「何だロイド、異邦人は死んでも生き返ると聞いている。別に減るもんじゃないだろ。ほれ、遠慮するな」
「だからって、自分から進んで死にたいわけじゃねぇよ!血液が煮えたぎって死ぬとかどんな拷問だ!」
「ドワーフの奴らは、そこまで暑そうではなかったぞ。貧弱すぎるのではないかロイド」
「ドワーフって、この辺で暮らしてる奴らだろ!こんな年中、火山の火口みたいな暑さの場所に住んでる奴らと一緒にするなよ!普通に死ぬわ!」
そこまで話すと、男は「むぅ…」と言いながら腕を組み、少し考える。
「しょうがない、客人用の小屋がある。そっちなら、空調設備用の魔道具がつけてあるからそっちに行くぞ」
「最初からそうしてくれ、と言うかお茶飲むのは確定なのか…」
そう言いながら、俺は男の後ろについていく。
◆
「着いたぜ、ここだ」
そこはさっきの無骨な工房とは打って変わって、まるで貴族の家というほど豪勢なものであった。
だがそれは家と言うには少し小さい事から、男が言ったように小屋というのは、間違った表現ではないのだろう。
男が、扉を開くと中から涼しい空気が漏れ出る。
その小屋の中は、外の暑さとは考えられないほどかけ離れた、快適な空間だった。
「おお、すごいな」
「そうだろう!がっはっはっは!この魔道具を持っているのは王族か、それに次ぐ貴族ぐらいだ」
「これは…。商業ギルドだったか?これを作れるんなら欲しがるだろうな」
「いや、これはオレが作ったわけじゃない。道具と言っても、これほどのものを作るのはオレの分野じゃねぇ」
そう言って、男は頭をかいて部屋の隅に置いてある瓶を取り、棚の扉を開け中から金属製のコップを取り出しそこに瓶の中の液体を注ぐ。
その液体が茶独特の匂いを放っているところを見ると、これが男の出すと言っていたお茶なのだろう。
コップを自分用と俺用だろう二つを用意し、机に置くと椅子に座り、向かい側の空いている席をさしながら話し出す。
「まぁ、それについては茶を飲みながらでも話そう。座ってくれ」
俺は男に言われるがまま座り、茶であろうコップに入った液体を飲む。
おお、これは…旨い。
別に旨い茶ばっかり飲んできたわけではないが、今まで飲んできた茶の中でも、1番と言っていいほど旨い。
…これどこで売っているか教えてくれないだろうか…。
だが、これだけ旨いんだ結構高いんじゃないのか?
「お、気に入ってくれたようで何よりだ。旨いだろうこの茶は。がっはっはっは!」
「ああ、旨いなこの茶は相当なものだろう」
味わって飲もうと思ってしまうのは、やっぱり貧乏性というものだろうか。
そんなことを考えながら、俺はお茶を飲む。
「そうだろう。…おお、そうだオレの名前を教えてなかったな」
ああ…旨いなこのお茶。
やっぱりもらえないだろうか、話が終わった後にでも聞いてみようか。
「オレの名前はヘファイストス!よろしくなロイド!」
「ブッ!!」
俺は、飲みかけていたお茶を全て吹き出した。
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