2話
○第一の街ヌール 噴水前
俺は初期リスポーン地でもある第一の街ヌールの噴水広場前に降り立った。
左端の緑と青のHPとMPを表すバーがあること以外現実とあまり差がなく、メニューは心の中で唱えない限り出てこないので、視界を遮る物はない。
と、一通り確認し終わりそこから周りを見渡していると、不意に目の前にピコンと半透明のプレートが浮かび上がり、確認するとチュートリアルをするかしないかを確認するものだった。
俺が、YESを押すと同時にまた俺は違う場所へ転送される。
○チュートリアルルーム
「やー、こんにちは僕のチュートリアルルームへようこそ!」
草原のような場所に降り立つと共にそんな元気な少年の声が聞こえる。
「僕は、チュートリアルルームの管理を担当している管理AIのディルクさ、よろしくね」
そう言って、いつの間にか目の前にいた少年が握手を求めてくる。
「おれはロイドだ、よろしく」
と言って俺は少年ディルクの手を握り返す。
そうするとディルクは、少し驚いた顔をした後ニカッと笑う。
「よかったよ、おにーさんとは仲良くできそうだよ!」
その言葉の意味がわからず、こちらが頭をひねっていると、
「いやー、最近挨拶してくれる人が全然いなくてね、ちょっと驚いちゃったんだ」
確かに、ゲームを早くしたいがためにチュートリアルは邪魔に感じるのだろう。
「最初の方なんか、さっさと終わらせろーとか暴言吐いてくるような奴もいたんだ」
ほんと、やな奴らだったよと文句を言いながらディルク頬を膨らませる。
そんな姿を見ていると、普通の男の子に見える。
「あーっと、話が逸れちゃったね。とにかくここは、チュートリアル用の部屋ってこと。まぁとりあえず始めるから、まずこれあげるからメニューから装備してよ」
ディルクがそう言うと脳内にアナウンスの音声が流れる。
《初心者盗賊のシャツを手に入れました》
《初心者盗賊のズボンを手に入れました》
《初心者盗賊の靴を手に入れました》
《初心者盗賊の短剣を手に入れました》
《器用の指輪を手に入れました》
メニューを開き<装備>でているアイコンを押すと
頭、胴体、腕、脚、靴のスロットと装飾品のスロットが三つ空いていた。
武器のスロットは左手と右手の二つがある。
俺はディルクに言われたようにもらった装備を全て装備する。
選択すると、服装が切り替わる。
見るからに速さを重視したような身軽な格好になり、その場で少しジャンプしたり動いたりしていると、ディルクが話しだす。
「よし、ちゃんと装備できたみたいだね。見た感じ動きに問題もなさそうだけど、おにーさん大丈夫?違和感とかなかった?」
「あぁ大丈夫だ、強いて言うなら動きがすこし速くて慣れないくらいか?」
その返答に、ディルクは少し驚いたように返す。
「へー、AGI30ですこしなんだ。やっぱりスポーツかなんかやってたの?」
「いやそう言うわけではないが?高校まで美術部だったからな」
あんまり走る機会なかったからなーなんて考えていたら。
「凄いね!スポーツをしているでもないのに」
そう言いながらディルクは俺の身体を眺める。
数秒間見ていたと思うと突然話し出した。
「まぁその話は後にしてチュートリアルをつづけよう」
そうディルクが言うと目の前にスライムが現れる。
スライムは某冒険の書ファンタジーに出てくるようなものとは違って、目や口はなく、そのまま透明で水色の水の塊を草原に置いたようなやつだった。
「次は実際にモンスターと戦っていこうか、おにーさんは【識別】とってるみたいだから使ってみるといいよ。スキルの使用方法はそのスキルを心で唱えればいいから」
ディルクに言われたとおり俺は心の中で【識別】と唱える。
目の前にスライムのものであろうステータスが浮かび上がる。
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スライム LV.?
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…………いや、知ってます。
「スライムとしか出てないんだが…」
せめてレベルくらいわかってもいいだろ。
「あはははは!まぁ、まだスキルのレベルが低いからね、しょうがないさ。あー、一応言っておくけど目の前のスライムはレベル1だからね」
「まじか、レベル1すら見えねぇの?」
「そうゆう事、こんな感じでスキルに関してはレベルに依存するところがあるから気をつけてね」
ディルクはそう言って笑う。
「さぁ、今度こそ戦ってみよう。腰の短剣抜いて君の思うように戦ってよ」
そう言うとさっきまで動かなかったスライムが動き始める。
だがその動きは遅く少しずつ這いずりながら近寄ってくる。
そんな姿を見ていると、ふと俺の1メートル手前くらいでスライムは動きを止めた。
何かあったのかと思いその場で立ち尽くしていると、ビュンッという音とともにスライムが先ほどとは段違いの速さで飛んできた。
「うおっ!」
いきなりの行動に驚きつつも、これを難なくかわす。
俺に攻撃を避けられたスライムは、俺のはるか後方に飛んで行く。
岩に真正面からぶつかって、そのままべちゃりといって潰れ、スライムのHPを表すゲージが緑、黄色、赤と減っていきなくなった。
「は?」
あまりに予想外の展開に俺はそんな情けない声を出す。
そうやって呆けていると、後ろから笑い声が聞こえてくる。
「あはははははっ!まさか、そんな方法で倒しちゃうなんて、やっぱりおにーさん面白いね!」
そう言って俺の背中をバシバシと叩いてくる。
「別に狙ってやったわけではないんだが…」
まさか、スライムが自分の攻撃で自滅するとは思わなんだ。
そんなこと思いながら手に持ったままの使っていない短剣を鞘に収める。
「まぁ、運も実力のうちって言うしね、しょうがないと思って次に進もう!」
そう言うことじゃないんだがと小さくときながら、ディルクの話を聞く。
「じゃあ次は、アイテムの採取だよ、元々は倒した相手のアイテムを回収する予定だったんだけどあそこに潰れちゃてるからねー」
そう言ってディルクは、先程スライムが突撃した岩の方を見る。
そこにはさっきまで俺が戦っていたスライムがベッタリとついていた。
モンスターはプレイヤーに討伐されればその場で素材が手に入り、死体はポリゴン状の粒子となって消えるが、モンスターによって倒されたモンスターや、自然的に死んだモンスターは数分間その場に残り続ける。
死体の状態が良ければ、そこから【解体】のスキルを使うことで、素材を手に入れることもできる。
見てわかるとおり俺のスライムは木っ端微塵になってしまっている。
「流石にあれからは取れないからね」
「ゔっ…」
「あははは!まぁいいさ、代わりにこの草原を探索してもらうからね」
そういうとディルクは緑の液体が入った小瓶を差し出してくる。
「これはHP回復ポーションさ、さっきの戦い用だったんだけどおにーさんには、ここで渡しておくよ」
「あぁ、ありがとう」
《HP回復ポーション×10を取得しました》
「さっきのやつのお礼も兼ねて、モンスターを何匹か追加で入れとくから頑張ってねー」
「OK、ありがとう。あいつら倒してもいいんだよな?」
「うん、まぁ倒せるかどうかわからないけどね!」
「ほぉ、言ってくれるじゃないか」
そう言われると、倒したくなるじゃないか。
そんなことを考えていると脳内にアナウンスが流れる。
《ユニーククエスト:【導き手の試練】を開始します》
「頑張ってみるといいよ」
そう言ってディルクはニヤリと笑う。
「じゃあ、よーいスタート!!」
その元気な声とともにモンスターたちが動き出す。