15話
前回までの加護の内容を少し変えています。
こちらの諸事情により、投稿遅くなりごめんなさい。
○神殿内 教会
初老の男は柔和な笑顔で俺にそう聞いてくる。
その表情と漂う雰囲気から額の傷が気にならないほどに優しげな印象を受ける。
「転職の方で頼む」
そういうとニッコリと笑い左手に本を持ち俺の額に向けて手を翳そうとするが、
「うーむ、君は少し背が高いので少しかがんでもらえるとたすかるよ」
180cm強ある俺に対して男は170cmと少しぐらいである。
10cmほど身長に差があり額に手を翳そうとしても届かないのだ。
俺は牧師の男に言われた通り少しかがむ。
「これで良いか?」
「ああ、ありがとう。歳でねあまり肩も上がらないんだ。まぁ、今日のように時々この教会でこの仕事をしているんだけどねぇ」
時々と言うことは常時ここにはいないと言うことなのか?
「ん?この神殿の者じゃないのか?」
「ええ、わたしは普段孤児院で子供達の面倒を見ていてね。お金を工面するためにこうやって時々神官の真似事をしているんだよ」
そう言うとコホンと咳払いし、
「なりたい職業を頭に浮かんだ職業の中から選んで、言ってください」
そう言って男は俺の額に手を掲げる。
すると男の言ったようにいくつかの職業の名前が浮かび上がる。
俺はその中から魔法使いを選び、口にする。
「魔法使いで頼む」
「わかりました。ええ…では、『神に仕える神官の名の下に、神に代行し、汝に新たな生を与えよう。その生の名は、魔法使い』」
すると俺の身体がレベルアップ時のように光る。
少しの浮遊感が数秒続いたかと思うと落ち着き、その感覚に驚いていると、アナウンスが流れる。
《職業:魔法使いがレベル1になりました》
《スキル[魔法使いの心得]を取得しました》
《スキル[火魔法]を取得しました》
《加護【冥神の加護(小)】を取得しているためスキル[影魔法]を取得しました》
まさかのおまけ付きだった。
と言うか冥神と言うのだから闇魔法とかかと思ったが影魔法なのか。
盗賊の次は影魔法とは…このままいくと暗殺者にでもなれそうだな。
「その反応を見た感じ成功したようだね。よかった、よかった」
「えっ…失敗することもあるのか?」
そう聞き返すと男はしまったと言う顔をし口を抑える。
することがあるのかよ!
その反応が俺の疑問を確信へと変える。
「…最近はあまりこの仕事してなかったからねぇ。ちゃんとできるか心配だったんだ」
「おい…。これで試したのか」
「ははは…確かに名前も知らない人に試すのは間違っていたかもしれない、すまないねぇ。君、名前はなんと言うんだい?」
男は謝りはしたが、全く反省した感じはなく穏やかな笑顔のまま名前を聞いてきた。
まくし立てるように名前を聞いてくる男に少し引きながらも、質問に答える。
「俺はロイドだ。あんたは?」
そう言うと男は少し頭をひねり考えると、思い出したかのように話す。
「言ってなかったかい?すまないね。わたしはハイレン、敬称など無くそのままハイレンと呼んでくれて構わないよロイド君」
初老の男、ハイレンはそう言って手を伸ばしてくる。
それにこたえ俺はハイレンの手を握る。
握ったハイレンの手は孤児院の院長といった者ではなく、剣ダコなどによるゴツゴツとしたどちらかと言うと剣士と言った者のものだった。
今まで話していて気づかなかったがこの男相当強いな。
「あんたほどの人がなんで孤児院の院長を?」
疑問をそのまま口にする。
それに対してすこし苦い顔をし、
「わかるかい?この額の傷を受けた時にダメになってね。それ以来、院長として孤児院を開いているんだよ」
額の傷に触れながら悲しげにそう答える。
昔に何かあったのだろうか?
「この傷は、敗者の証。天に近づきすぎた愚か者の証さ」
そう言うとハイレンは少しうつむき、少しして顔を上げる。
その顔は先ほどまでの悲しげな者ではなく、最初に会った時のような柔和な笑みだった。
「ささ、ロイド君転職は終わったんだ。次は祈りの間に寄ってみなさい。今日は火神の日、祈って回るならば、火神、水神、風神、光神、地神、闇神の順に回るといい。運が良ければ神々より試練をもらえるだろう」
「ん?回る順に意味があるのか?」
「ああ、ロイド君は異邦人だから知らないだろうがーーー」
ちなみに異邦人とはゲーム内の住人(NPC)が俺たちプレイヤーのことを指す言葉だ。
たしか異国人、別の地域、社会から来た人的な意味合いだった気がする。
ハイレン曰く、この世界では一週間を7柱の神に例えているそうだ。
つまり現実で言う月曜が闇神の日、火曜が火神の日、水曜が水神の日、木曜が風神の日、金曜が光神の日、土曜が地神の日、日曜が聖神の日だそうだ。
神の中で序列というものは重要なようで、自身の日が1番神としての力が強まるそうだ。
だがさっきハイレンが言った順番に聖神と言うものがなかった。
ハイレンが聖神のことを話す時の顔を見る限りあまりいい顔をしていなかったところを見ると、あまりいい神ではないのだろうか?
そこも気になったがハイレンの話にルシュトール、冥神が出てきていなかった。
「ルシュトールはここには祀られてないのか?」
ハイレンの顔が驚愕に染まる。
「な、なんでその名を、冥神様の名を知っているんだロイド君!」
さっきまでの落ち着いた感じはなく、ハイレンは俺の肩を掴みガクガクと揺らす。
えー…なんでこんなに興奮しているんだ?と言うか痛い痛い!
「痛い!痛い!おち…落ち着いてくれ!!」
マジで死ぬ、肩揺らされるだけでHPゴリゴリ削られるんだが?!
ハイレンお前どんだけ強いんだよ。
俺のVITが低いからかもしれないが、それにしてもレベル差がありすぎる。
「ああ…すまない、少々冷静ではなかった」
ハイレンは落ち着いたようで、掴んでいた俺の肩を離した。
「はぁ…落ち着いたようで何よりだ。聞いたのは俺が冥神の加護を持っているからだ」
「冥神様が加護を…。そうですか、ですが神殿の者にそのことは話さない方がいい」
「なんでだ?」
ハイレンの言葉に対しそう聞くと、ハイレンは話し出す。
「この世界の神には人神と言う人の姿をとった神々と、獣神と言うその名の通り、獣の姿をとった神々がおり、私たち人間が主に信仰しているのは先ほど言ったような闇神や火神等の人神なのだよ」
「それに対して獣神と呼ばれる今は隠れられている神々は一部の人間や獣人、魔物から崇められているんだ。冥神、ルシュトール様のような方であれば犬や狼系統の獣人や同じく狼の魔物から信仰されているんだよ」
そこまで言うと、ハイレンは「はぁ〜…」と重いため息をはいて続きを話し出す。
「そう言った魔物に信仰されていることもあり、獣神様方の事を邪神と言い張る不届きものまでいる始末だ。だがあの方達は断じて邪神などではないその事だけは、忘れないでくれ」
「いや別にルシュトールの事をどうこう言う気はない、確かに少々自分勝手に試練を押し付けられたが、加護を貰った手前悪く言うつもりはない」
その言葉を聞くとハイレンはホッとしたように一息はき、また笑顔を浮かべる。
確かにただの動物に加護をつけただけであそこまで凶暴化するのなら邪神と思われてもしょうがない気もするが…。
「わかった、気をつけよう」
「そうした方がいいでしょう、変なのに目をつけられる」
変なのってなんだろう、邪神の加護を持っていると知られて動き出すとしたら異端審問官?
俺の脳裏に「粛清、粛清」と言いながらメイスを振り回す狂人の姿がよぎりブルリと震える。
うわぁ…喋らないようにしよう。
「ははは、何かあった時は少しばかりわたしも力を貸そう」
「その時はまた頼むかもしれない」
そう言って俺は教会を出ようとする。
「今度、うちの孤児院に来るといい冒険者ギルドに入っているなら[地図]のスキルは持っているだろ?」
ん?
「そんなスキル持っていないが、ギルドと[地図]スキルなんか関係があるのか?」
「[地図]スキルを持ってないのかい?確かアレは冒険者ギルドでスキル石を購入出来たはずだが?」
「そうなのか?ありがとういい事を聞いた」
そんなスキルをギルドで買えるとは、本当にいい事を聞いた、魔法使い用の装備を買うついでにギルドに寄って行こう。
「ハイレン、何から何までありがとう。また孤児院に寄った時にでも礼をしよう」
「楽しみにしているよ」
その会話を最後に俺は教会を出る。




