10話
○チュートリアルルーム 草原
時が動き出し、俺も自由落下を開始する。
「さぁ、第2回戦と行こグフッ……!」
その直後俺の身体は地面に叩きつけられる。
自分が飛ばされていたことを忘れていたので受け身を取ることもなくそのまま地面に落ちる。
「ゴホッゴホッ!飛ばされてたの忘れてた。」
背中から落ちたせいでむせてしまう。
起き上がりアルブトーラムを見る。
アルブトーラムは確実に倒したはずの俺が起き上がっていることに驚いている様だ。
その隙に俺はアルブトーラムとの距離を詰める。
スキル[影の牙]を避けるためだ。今の状態では避けることができないので、アルブトーラムとの距離を取らない様にしたい。
そう考えながらアルブトーラムとの距離を詰めていく、するとアルブトーラムも構える。
真っ直ぐ走り込む、それに対しアルブトーラムは前足による大振りの一撃で答える。
「ガアァァア!」
ドガアァァァン!!
その一撃はハンターウルフたちのボスとは比べ物にならないほどの威力、速度を持ち、地面を叩き割る。
前足を叩きつけた場所を中心に蜘蛛の巣状に割れ、その結果割れた地面が所々隆起する。
この様なところを見ていると、本当にこいつの化け物さ加減を知らしめられてしまう。
俺は土煙が舞う中、割れて隆起した地面に隠れる事でアルブトーラムの視界から外れる。
◆
消えたロイドを探そうと辺りを見渡すが見つけることができない、そこで鼻を使い匂いを探り始める。
それによりロイドの位置を見つけ出す。
アルブトーラムの顔がニヤリと歪み、少しかがんで飛び出す体勢を整える。
アルブトーラムはその場から飛び前足による一撃でロイドが隠れていた岩ごと砕く。
ドカアァァンと音がなりまた土煙が舞う。
数秒間の間舞っていた土煙が落ち着くと、前足を上げロイドの死体を確認しようとするがそこには死体どころか血の一滴も付いていなかった。
そのことに流石のアルブトーラムも困惑する。
確かに匂いがそこからしていた、がそこには何もおらずただ岩を砕いただけに終わった。
その結果にただ困惑し、呆然とする。
するとその一瞬の隙をついて死角である左目の方から回り込まれ鼻に何か被せられる。
鼻に被せられた何かに困惑がさらに増す。
がその困惑はすぐに消え去る。
被せられた何かの匂いを嗅いでしまう、すると鼻を刺すような刺激臭が鼻全体に行き渡り、目を見開きその場でもがきだし、
「キャウンッ!」
とその容姿からは考えられない様な甲高い声で吠え、暴れだす。
◆
「成功だな」
アルブトーラムが鼻に被せられた物による匂いにより荒れ狂っている中、俺はそんなことを言う。
アルブトーラムは自身の体が傷つくのも気にせず、いや気にならないほどの苦痛なのだろう、顔を地面に削るかの様に擦り付ける。
鼻に被せられた物を外そうとするが、それとアルブトーラムの接着剤として機能しているベタベタとしたものが鼻の周りの体毛と絡みつき、より一層取れづらくなっていく。
人間は、主に視覚から情報を得て生活をしているのに対し、犬は情報の約4割程を嗅覚から得ている。
犬の嗅覚は、ひとの約1000倍〜1億倍と言われていて、それは犬種によって変わってくる。
それ故に、犬から嗅覚を奪うと言うのはそれだけで動きを鈍らせることができるのだ。
などと高説の様なものを述べてみたが要するに、ゴブリンから手に入れた汚れた布を接着効果のあるスライムジェルを使用してアルブトーラムの鼻先に被せる事で、鼻を使えなくすると言ったものだ。
人間の俺でさえ近寄りがたい悪臭を放っていた布を鼻にかぶせると言うなんとも鬼畜な作戦である。
そんなことを考えている間もアルブトーラムは暴れまわり身体中傷だらけになる。
特に顔付近は相当強く地面にこすりつけたのか血だらけだ。
そうこうしているうちに、鼻を覆っていた布が剥がれる。
「2割程度か…」
ほんとはもう少し削っておきたかったが、削れただけでもいいとしよう。
暴れまわっていたアルブトーラムはその場で起き上がる。
起き上がったアルブトーラムの瞳には俺に対する怒りが宿っている。
「グオォォォオオンッ!!」
鼓膜が張り裂けそうな爆音でそう叫ぶ、大気が震え風が吹き荒れる。
アルブトーラムは俺に対する怒りをそのまま体現するかの様に俺に飛びかかり噛み付こうとする。
右に全力で飛び避ける。
アルブトーラムは地面に前足がついたかと思うと、器用に体の向きを変えこちらに向け追撃を入れる。
怒りにより、その一撃一撃の威力は上がりかすってしまえばHPをほとんど持ってかれてしまうだろう。
確かに一撃ごとの威力は上がっているが、怒りのせいで攻撃が単調になる。
そのせいで攻撃と攻撃の間に隙ができてしまう。
だが隙ができたところでこの短剣による攻撃ではダメージを与えれない。
本当にそうだろうか?確かにただの攻撃ではダメージを与えられないかもしれない、ならクリティカルヒットならどうだろうか。
本来クリティカルヒットとは低確率で起こるものというのが常識だろう、がこのゲーム内でのクリティカルヒットは急所に当たることを意味している。
つまり、このゲーム内においてクリティカルヒットは誘発することができるということだ。
左手での短剣の扱いでもこの短い間の攻防で慣れてきた、幸い相手は身体中傷だらけである。
俺はアルブトーラムの攻撃をかわし隙をついて、傷に向けて短剣を薙ぐ。
「グッ……!」
最初の様に阻まれることなく剣を振り抜く、アルブトーラムが怯んだところを見るとダメージが通ったということだろう。
よしっ!とガッツポーズをしたい思いをこらえアルブトーラムに視線を戻す。
「まだまだこれからなんだ、付き合ってもらうぞ」




