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転生はできなかったけど転性はしました  作者: 紅葵
第二章『中学生編』
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第九話『初』

 学年末テストを終え、三年生の卒業式があり、春休みに入り、新年度に入って新入生が入学をした。

 新入生が入学したという事は、俺は中学二年生となったわけである。


 だからと言って何かが変わるわけでもなく、穏やかな日常はそのまま流れていく。

 ゴールデンウィークが明けた後に体育祭の準備が始まり、いつの間にか下級生からも人気を集めていた俺は、体育祭での応援団長を務める事となった。


 小柄な体の金髪碧眼の天使が、学ランを身に纏って応援する姿は敵味方関係なく魅了したようである。

 婆ちゃんも「孫娘の運動会に応援に行くのが夢じゃった。これでまた一つ夢が叶った」と喜んでいた。




 そして季節は夏に差し掛かり、この日は学校のプール開き。



「う~ん…このままで良いのだろうか?」

「どうしたの?リリーちゃん?」

 思わず呟いてしまった独り言を聞かれてしまい、俺は少しだけ焦って「なんでもないよ」と答える。


 今、俺は学校のプールに向かって歩を進めている。体育の授業がプールなのだからそれはしょうがない。

 ただ、一つ問題があるとすれば、それは着替えである。


 普段の体育の授業の着替えでは、肌着や下着までは脱がない。

 だから俺も割り切って普通に皆と一緒に着替えに混ざっていた。


 しかし、プールでの着替えは一度全裸になる。

 今は俺も女とはいえ、中身が元男である俺が皆と一緒に着替えても良いのだろうか?いや、よろしくないだろう。


 バレンタインの後に開催したお泊り会でも、俺は皆とは別に風呂に入ったくらいである。

 だからと言って自分一人だけ別の場所で着替えるわけにはいかない。

 それを悩んでいた。



 しかし、プールも校舎からそんなに離れているわけではないので、考えている間にプールへと到着をしてしまった。

 しょうがない。覚悟を決めてなるべく皆の裸は見ないようにして着替えるか。

 見えてしまった場合は不可抗力である。


 そう思っていたら、逆に俺の着替えを女子全員にガン見されてしまった。

「あの…そんなに見られると恥ずかしいんだけど…」

 無い胸とデリケートゾーンを手で隠しながら俺は着替える。


「はぁ…眼福眼福…」

 それからも女子全員が俺の着替えを拝みながら眺めていた。

 くそ…もう俺も遠慮はしねぇ…今度から皆の着替えを見まくってやる…。

 まぁ、皆の裸を見たところで反応する体の部位はないけどね。



 スクール水着に着替えた俺がプールサイドに現れると、男子全員がざわめいていた。

 何か『紺色スク水の天使』って聞こえたんだけど、また変な称号を増やすのはやめてくれ。


 準備体操と人工呼吸の説明などを終え、待ちに待ったプールに入る時間がやってくる。

「うぅー!冷たぁー!」

 気温は高くなってきたとは言っても、真夏に比べるとそこまでは暑くはない。

 俺は水の冷たさに思わず声を挙げる。だが、これが良い。


 それからは水に慣れる為のプール内運動をする。

 顔を水に浸けたり、プールサイドに掴まってバタ足の練習だ。

 その時に何かに違和感を感じたけれど、その違和感が何なのかはこの時には理解できなかった。


 水に慣れてきたところではあるが、先生が一度生徒全員をプールから上がらせる。

 そして出席番号順に数人に分けてどれだけ泳げるかの確認を始めた。


 やがて俺の出番がやってきて、俺はプールにゆっくりと入る。

 息を大きく吸い込んで浮かび上がり、プールの端を蹴ってクロールで泳ぎだし、そしてゆっくりと息を吐きだしていったところで、俺の体はプールの底へと沈んだ…。


「ガボガボガボッ!!」

「大変!リリーちゃんが溺れてる!?」


 急いで立ち上がって呼吸をしようと焦った結果、俺は見事に足を滑らせて溺れる。

 すぐに先生が飛び込んで救助。


「橘!泳げないなら先に言え!」

 先生が怒鳴り声を挙げる。

 そう、泳げない生徒は事前に申告をして別で練習をしているのだ。


「…ケホ…いえ、泳げてたはずなんですけど…」

 男の体の時には普通に泳げていた。

 別に泳ぎが上手なわけではなかったけど、問題なく泳げていたのは確かである。

 だからリリーの体になっても問題なく泳げると過信していた。


 この日の俺はプールの授業は見学となった。

 その間に何故泳げなくなったかを考察してみたりする。


「やっぱ、考えられる原因は体が変わったからかなぁ?」

 首を捻って考えるが、考えられる一番の候補はやはりそれである。


 もし体が変わった事が原因ならば、逆に考えて、何故体が変わっただけで泳げなくなったかを考えなくてはならない。

 リリーの体は、普段の運動でも全く苦労はしていない。

 運動音痴というわけでもないし、むしろ足だってクラスの女子の中でもかなり早い方である。

 昼休みによく男子に混じってサッカーやバスケもしているけど、普通に対抗できているくらいだ。


 リリーの体で目覚めたばかりの時は、それはもう筋肉も衰えて筋は固まっていたのでちょっと動く事すらままならなかったが、必死のリハビリの成果で今では体はかなり柔らかい。

 退院してからもストレッチと筋トレは欠かさず行っていたので、鉄アレイだって十キログラムの重さを片手で持つのだって余裕である。


 体は小柄でかなり細いが、リリーの体はかなり筋肉質に仕上がっていて余計な脂肪はほどんとない。

 普段は柔らかいお腹も、力を込めればメチャクチャ硬くなるもんね。

 そこまで考えたところで俺はふとある考えに至った。


「わかったかも…体を鍛えすぎて、筋肉が重いせいで沈むんだ…」


 そう、息を吐きだすまでの間は問題なく浮けて泳げていたんだ。

 それが息を吐きだした事によって、胸の中の肺の浮力を失って沈んでしまったんだ。


 たったほんの少しだけである。

 しかし、そのほんの少しの空気が、俺を辛うじて浮かび上がらせるかそうでないかを分けていたのだ。


 思い返してみると、バタ足の練習の際に感じた違和感は、足が沈みがちだったんだ。

 これは間違いなく余計な脂肪がないせいで浮けなくて、逆に筋肉が重いせいで沈んでしまってたんだ。


 更に思い返すと、新年度が始まってすぐの身体測定の時、他の皆よりも身長は低いしウエストもバストも何もかもが細かったにも関わらずに体重だけはやたらと重かった。

 いや、あくまでもリリーの体型からしたら重いだけであって、太ってはないからね!筋肉は脂肪よりも重いからなんだからね!


 これは筋肉の重さが原因で間違いないだろう。

 しまったなぁ…鍛えすぎたんだ。

 ストレッチはこれからも続けるけど、筋トレは控えめにしようっと。

 流石にムキムキにはなりたくないし。


 そんな事で、俺の中学校生活プール初日は水に浮かべず溺れて終了となった。



「ちょっと安心したよ」

「何が?」


 給食の時間中、一緒の班の女子がそう喋りかけてきた。


「リリーちゃんって、勉強もできるし、運動もできるし、料理だって得意だし、人気があるじゃん」

 その言葉に皆がうんうんと頷く。

「なんだってできちゃうリリーちゃんにも、苦手な事があるんだって知ったら、何か安心しちゃった」

「こっちは水に溺れてるんですけど!?」

 まあ、気持ちはわからなくはない。


「でも、苦手な事を苦手なままにはしないからね。来週には泳げるように頑張るから」

 そう宣言をして俺は牛乳を飲み干した。




 次の週のプールの時間がやってきた。


 今日は先週のリベンジと行こう。そう意気込んでいたのだが何だか今朝から体の調子があまりよろしくない。

 悪い物を食べた覚えもないのに、お腹が痛いし、ちょっとだけ頭痛もする。

 う~ん…寝る時に冷房を効かせすぎたかな?


 それでも、メチャクチャ調子が悪いというわけではないので、せめてプールサイドで泳ぐ練習をしようと思って授業に参加をする。


 着替えの際に、今度はこっちから皆の着替えをガン見してやった。

 特にクラスで一番胸が大きい女子を見てやった。…ちょっとだけ虚しかった。



 準備体操が終わり、いざプールに入ろうとしたその時だった。

「キャアァーッ!!リリーちゃん!?」

 突然クラスの女子が悲鳴を挙げる。


 驚いた俺は一体何事かと振り返る。クラスメイト全員も何事かと俺達の方を振り返った。

 すると、その女子は俺の下半身を指差して震えていた。


「……? うわっ!なんじゃこりゃ!?」

 リリーの白い太ももには鮮やかな色をした血が流れていた。

 血の出どころを確認すると、股の付け根からである。


 すぐに先生が駆けつけてきて、俺の症状を見た後に保健委員の女子を呼ぶ。

「悪いが保健室に連れていってやってくれ」

 いや、一人でも行けるけど…?

 そう思っていたが、俺は保健委員の女子と共に保健室へと向かった。


 俺の身に起こった出来事、それは初めての生理…つまり初潮であった。

 保健室に連れていかれた俺は、保健の先生に体の症状について聞かれ、その後生理用品の使い方を説明された。


「あまり重くない方みたいだけど、油断は禁物だからね。あと、家に帰ったら保護者の方に報告をすること!」

 そう言われて、この体育の時間中は保健室のベッドで休まされた。

 いつか来てしまうんだとは思っていたけど、やっぱり来ちゃったか…。



 それにしてもビックリした。

 まさかあんな急に生理が来るとは思わなかったんだから。


 家に帰り、婆ちゃんに生理の事を説明すると、婆ちゃんは「赤飯を炊かねばな!」と喜んでいた。

 いや、結局炊くのは俺だよね?


 そしてスーパーに買い物に行き、赤飯の素や他の食材を持ってレジに並ぶと、もはや顔見知りとなっているレジ打ちのおばちゃんから「あら?何か祝い事?」と聞かれてしまい、咄嗟の嘘が付けなかった俺は正直に話してしまう。

「あらあらまあまあ!リリーちゃんもこれで大人の女性の仲間入りね!」

「ぁぅ…あんまり大きな声で言わにゃいでくだしゃい…」

 あまりの恥ずかしさに噛んでしまった。



 そして、結局プール二日目もそうして泳げずに終わってしまい、三日目と四日目は天候不良の為にプールの授業の中止、五日目は普通に風邪を引いてしまって、結局俺はプールで泳げずに終わってしまうのであった。

・次回更新予定:本日中。



・天使の称号シリーズ

恋の天使

男よりも男前な天使

ボクに舞い降りた天使

料理上手な天使

紺色スク水の天使(NEW)



・嘘次回予告


明日から夏休み!のハズだったんだけど、遅刻や居眠りでロスタイムがあるという事で一学期が続行される。

七月いっぱいは一学期となり、八月からようやく夏休み!と、思いきや、リリーは不思議な感覚に襲われる。

「これってもう何度も体験したような?」

そう、リリーはすでにこの七月を何度も繰り返していたのだった。

リリーにだけ巻き起こる夏休みが始まらず、七月が終わらないループ。

リリーはこのループを抜け出す事ができるのか!?


次回、橘リリーの憂鬱 第十話『エンドレスセブン』

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