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第六十一話 中学生編『お泊り会』

第八話でカットした話です。

 バレンタインデーに約束をしたお泊り会の日がやってきた。


 俺は皆を家へと案内する為に待ち合わせ場所へと向かう。

 一応は、年賀状のやり取りで俺の住所は知っているはずなので、地図アプリでも使えばすぐにわかるとは思うが、そこはやはり案内をして連れてきた方が良いだろう。


 待ち合わせ場所に到着すると、きょーちゃんと香織、そして百合が待っていた。

「みんな、おはよ。ヒナと薺は?」

「おはようリリーちゃん。ヒナと薺はもうそろそろ着くって」


 二人は少しだけ家が遠くにあるみたいだからな。

 まあ、遠くといっても徒歩三十分圏内ではあるが。


 それから待つこと数分、ヒナと薺がやってくる。

「これで全員揃ったね。じゃあ、家まで案内するよ」

 そう言って、俺は先頭に立って家の方へと歩き出す。



 今日のお泊り会の目的は、皆に料理の作り方を教える事、だ。

 期末テスト前の調理実習で、皆の学ぶ機会を奪ってしまっていたから、その埋め合わせとして料理を教える。

 調理実習で同じ班となったきょーちゃん達四人は、皆料理作るのは苦手って言ってたけど、違うクラスの百合に関してはそういえば知らないな。


「百合は料理はできるの?」


 家の方へと向かって歩きながら、俺は百合に質問を投げかける。

 バレンタインの時に泣きついてきたくらいだから、あまり料理は得意そうではないと思っているが、さて、どうなのだろうか。


「…苦手、全然作れない」

「…目玉焼きくらいは?」

「それくらいならできるけど…」


 まあ、さすがに目玉焼きくらいはね…。でも、結局百合も料理は苦手なのか。

 と、言うことはやっぱり全員に教えなきゃな。


 でも、今日作る料理はカレーなんだけどね。

 きょーちゃん達は入学してすぐにあったオリエンテーションで、皆は悲惨なカレーを作ってしまったらしいから、そのリベンジをさせてあげようという計らいだ。

 まあ、最初に小難しい料理に挑戦させるよりも作りやすい料理からの方が良いよな。



 そんな事を考えながら歩く事十分程、自宅へと到着をする。


「着いたよ。ここがわたしンち」


 そう言って振り向いて家を手で指し示す。


「ここがリリーちゃんのハウスね!……って、でっか!」


 百合が少し危なそうな台詞を言ったあとに良いリアクションをして驚く。

 びっくりしただろ?俺も最初は驚いたよ。


「わぁ…リリーちゃんの家ってお金持ちだったんだね」

「おっきい~…庭も含めたら学校の体育館くらいはありそうだねぇ」


 本当に広い家だと俺も思う。

 大半は婆ちゃんが研究室として使ってるけど、それでもまだまだ空き部屋沢山あるし。

 まあ、皆の驚きのリアクションも見れたことだし、家の中に案内しよう。


「「「「「おじゃましま~す」」」」」


 玄関をくぐり、皆の声が綺麗にハモる。


「いらっしゃい。よく来てくれたのぅ」


 到着前に婆ちゃんに連絡を入れていたので、婆ちゃんが玄関で出迎えてくれた。

 皆は気品溢れる婆ちゃんの姿を見て少し惚けたような表情をしていた。


「ワシはリリーの祖母の橘 花蓮じゃ。いつもリリーと仲良うしてくれてありがとうな。これからも、リリーと仲良うしてやっておくれ」


「花蓮さん、今日は一日お世話になります!」

「「「「お世話になります!」」」」


 香織が代表して挨拶をし、皆がそれに倣って頭を下げる。


「うむ、大したおもてなしはできぬかもしれぬが、ゆっくりとくつろいでいっておくれ」


 その後、それぞれ順番に一歩前に出て自己紹介をしていった。

 その皆の自己紹介を婆ちゃんは笑顔で頷きながら聞いていた。



「リリーちゃんのおばあさまって凄く素敵な方ね」

 (リリー)の部屋に向かっている途中、百合にそう話しかけられる。

 皆もそれに同意なのかうんうんと頷いていた。


「そうだね。わたしから見ても、婆ちゃんは本当に素敵な人だと思うよ」


 本当に、素晴らしい人だ…。本気でそう思っている。



「ここがわたしの部屋」

 そう言って、俺は自分の部屋に皆を招き入れる。

 こうして誰かを部屋に招き入れるようになるなんて思ってもいなかったな。


「わー!すっごーい!ひろーい!」

「見て!お姫様みたいなベッドがあるよ!」


 皆は部屋の広さと天蓋付きベッドに驚いている。

 しかし、その後すぐに別の驚きを見せる事になる。


「うわっ…なに、これ…」


 香織が見ているのは、女の子らしいファンシーな部屋にあるのはかなり違和感が残る物体だ。

 その物体は部屋の隅の方に寄せられているもので、その正体は…。


「なんでこんなに筋トレ用品とかストレッチ用品があるのよ…」


 異様な雰囲気を放つ物体の正体は、俺が毎日使用しているトレーニング用品の数々だ。

 婆ちゃんがリリーに似合う可愛らしい部屋に仕立てたのに、これが完全に台無しにしていた。


「道理でリリーちゃんって男子よりも力があると思った…」

 薺が謎は全て解けたという表情と呆れの混ざったちょっと複雑な表情を浮かべる。

 その横では、逆に俺の男らしさを披露してしまったせいで目をハートマークにして俺の方を見ている百合の姿があった。



 トレーニング用品の山には適当なタオルケットをかけてその姿が見えないようにする。

 それだけでも部屋の雰囲気はグンと明るくなった。


 今はまだ昼前なので昼食の時間まではせっかくなので宿題をする事にした。

 ちなみに昼食は婆ちゃんが宅配ピザでも取るか?と提案してくれていたので、皆にも「お昼はピザで良い?」と聞いて許可をもらっていた。

 なので、それまでは学生らしく勉学に励む事にして、昼食後はトランプとかで遊び、夕方少し前になったらカレー作りを開始するといった予定を立てておいた。


 百合は別のクラスだけど、同じ学年なので出される宿題はほとんど一緒である。

 なので仲間外れになる事なく、しっかりと皆と一緒に勉強をする事ができた。



 昼になり、皆でリビングに集まってピザのチラシを見てトッピングを決める。

 こういう選ぶ時間も何気に楽しいよね。


 そして届いた大量のピザを囲んでワイワイと会話をしながら食べる。

 この時、婆ちゃんが「こういう騒がしいのも悪くないのぅ」と呟いていた。


 婆ちゃんや皆がお腹いっぱいとなり、それでもピザがかなり余ってしまっていたので、俺が責任を持って全部食べた。もう一度言う、全部食べた。

 食後は俺の部屋へと戻り、カレーを作る予定の時間まで皆とトランプをして楽しんだ。

 大人数でするカードゲームってなんでこんなに楽しいんだろうね。久々に白熱したよ。



 夕方前になり、俺は皆を我が家のシステムキッチンへと案内する。

 皆、キッチンの広さとその充実した設備に驚いていた。


「とりあえず、牛肉はバラとブロックを用意したけど、皆はどっち派?」


「え!?家で作るカレーってチキンじゃないの!?」

 ヒナがとても驚いている。


「あ~、チキンカレーも良いよね。一応ささみ肉もあるから、牛肉と鶏肉のカレーの二種類作る?」

 人数も多いのだから、少し多めに作らないと足りなくなるかもしれないからね。

 ちなみに、このささみ肉は本当はサラダに使おうかと思って用意していた物だ。

 もしもカレーに使用するのであれば、サラダはポテトサラダに変更しよう。


「豚肉派のわたしは、もしかして異端?」

「いや、ポークカレーだってあるんだから全然異端じゃないよ。それよりごめんね、今日は豚肉はないや」

「ううん、大丈夫。カレーの肉にこだわりがあるわけじゃないけど、家のカレーは豚肉だったから言ってみただけ」


 ちなみに家庭で作るカレーで一番使用される肉は実は豚肉だそうだ。

 豚肉も良いよね。俺は試した事ないけどきっと脂身が良い感じにカレーのコクや旨味を高めてくれそうだ。

 あと、カレーうどんに物凄く合いそう。


 まあ、俺はカレーの肉は牛肉派だけどね。バラとブロックどちらも好きでカレーを作る時には交互に作っている。

 百合はバラの牛肉で、薺はブロックの牛肉、ヒナがチキンで香織は豚肉、そしてきょーちゃんはというと…。


「ウチはお母さんが肉がダメだから、いつもシーフードなんだよね」


 まさかのシーフードだった。


「ご、ごめん…シーフードもない。…もしかして、きょーちゃんも肉はダメだったりする…?」

 予め確認しておくべきだった。

 牛肉であることが当然だと思っていたから、完全に確認を怠っていた。


「ううん、わたしはお肉大好きだよ。だから給食以外でお肉の入ったカレー食べられるのすごく楽しみ」


 その言葉に安堵のため息を吐く。

 本当に良かった。これできょーちゃんが肉がダメだったら肉なしカレーにするかきょーちゃんだけ肉を取り除いたカレーにしなければいけなかったから。



 結局、全員が家で作られるカレーの肉や具材がバラバラだった。

 なので、贅沢に牛肉のバラとブロックを両方共入れた牛カレーに、ささみ肉を使用したチキンカレーの二種類を作る事にした。


 サラダとしてポテトサラダを作ることも決定し、俺は皆に作り方を指示していく。


「料理の基本は、レシピに忠実に作る事!アレンジレシピや時短料理は、何度も同じ料理を作って慣れた後!」

「「「「「はい!」」」」」


 本当にこれが全てだと思う。

 おそらく料理が下手な人は、勝手に時間短縮をさせようとしたり、途中で「これを入れたらもっと美味しくなるかも」って変な物を投入するから下手なんだろうね。

 調味料を間違えちゃうって人は、きちんと各調味料をわかりやすくすること!



 俺は皆にカレールゥの箱の裏のレシピを見せながら、それぞれの調理風景を確認していく。

 俺は芋の皮は包丁で剥くけれど、皆にはピーラーを使ってもらった。

 ただ、一個しか用意してないので、いくつか剥いたら交代って形をとった。


 じゃがいもの芽もしっかりと取り除き、一口大にカットしたら水に浸してもらう。

 これだけでも灰汁(あく)がある程度抜けるから、カレーやシチューを作る時には是非試してみてほしいって伝える。

 もちろん、炒める時にはこの水は捨ててもらう。

 せっかく灰汁抜きをしたのにその水を入れたら意味ないからね。


 そして皆は箱の裏のレシピを見ながら、俺の指示を聞きながら調理を進める。

 慣れない手付きながらも、皆は懸命に料理を作っていて、見ていて微笑ましくなった。



 そうしておよそ一時間が経過し…。


「うん、美味しい!バッチリだよ!」


 味見の結果、見事、美味しいカレーが完成した。

 皆は諸手を挙げて喜んでいる。

 こうして自分たちの力で、協力して料理を完成させるのって良いよね。


 鼻からカレーの香辛料の香りをかぎ、更に味見をした事によって俺の口内は唾液が分泌され、少しだけおとなしくしていた胃が活発な運動を始めた。

 その結果、どうなるかというと…。


『くぅぅ~~ん…』


 なんか、子犬の鳴き声みたいな音が鳴った。

 もちろん、俺の腹からである。


「あはは、リリーちゃんお腹すいちゃったんだね」

 ヒナが屈託ない笑顔を向けて笑うけど、香織ときょーちゃんは少しだけ怯えたような表情をしていた。


「あ、あれだけ昼にピザを食べておいて、もうお腹がすいてるの…?」

「わたし、まだピザがお腹の中に残ってる感じがするのに…」


 あぁ、うん…そりゃ一番食べてた人が一番にお腹すいてたらそりゃ驚くよね。

 でも、そんな怯えたような表情で驚かないでくれよ…。


 きょーちゃんはまだお腹すいてないようだし、夕飯にするには少しだけ早い時間だったので、少しだけお喋りをする事にした。

 婆ちゃんも研究を終えてリビングに来ていたので、皆の話し相手になっている。


 やがてカレーのスパイシーな香りの効果によって、きょーちゃんもお腹がすいてきたところで夕食となった。



「美味しかったね~」


 皆で後片付けを終えた後、俺の部屋ではない広い和室に集まった。

 この和室には来客用の布団があるので、今日は俺も含めて皆でここで寝る事にしたのだ。

 ただ、百合が俺とあの天蓋付きベッドで一緒に寝るのを夢見ていたようで、少しだけ残念がっていた。


「もうちょっとしたらお風呂が沸くから」

「リリーちゃん!一緒に入ろう!」


 すかさず百合が一緒に入ろうと誘ってくるが…流石にそれはまずい。

 皆は俺が元男だとは知らないから、素知らぬ顔で一緒に入る事は可能である。

 でも、それは良くないだろう。


「い、いや、わたしは一人で入るよ…。それよりも、ウチのお風呂は広いから皆で入れるよ。皆で一緒に入ってきたら?」

「だったらリリーちゃんも一緒に入ろうよ!」


 今のは余計な情報だったかもな…。

 でも、流石に皆の裸を見る事になるのは忍びない。ここは何か適当な理由をつけて、一人で入ろう。


「わたしは…ほら、上がる時にお風呂掃除だってしないといけないし、それに…ぇっと…そうだ!お風呂に入ってると歌いたくなるんだ!」


 お風呂掃除は本当の事だけど、歌いたくなるのは別に本当の事ではない。

 しかし、その理由は効果抜群だったようで、皆は心底嫌そうな顔をしていた。

 そこまで嫌そうな顔されると、逆にショックなんだけど…。



 そうして百合は最後まで渋っていたが、何とか俺は一人で風呂に入る事に成功する。


 お風呂から上がり、人数分敷かれた布団の上で俺たちはガールズトークで盛り上がる。

 と、言っても俺はまだまだ女子力(この場合、女子としての人生経験)が低いから、若干トークについていけない部分もあったが…それでも、まるで修学旅行みたいで楽しかった。


 これからも、皆と仲良くしていきたいものだ。



 こうして開かれた料理の勉強会もとい、お泊り会は大成功をむかえるのであった。



カレーにミックスベジタブル入れると更に美味しくなります。

グリーンピースが平気な方は是非試してみてください。

グリーンピースが苦手な方は、スイートコーンを入れるのが良いでしょう。

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