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第五十九話 中学生編『リリーの誕生日』

第八話の少し前の話です。

 終業式の次の日から冬休みに突入をした。

 夏休みに比べるとそこまで長い休みというわけではないが、それでも学生にとっては嬉しい長期休暇だ。


 冬休みに入ってすぐにクリスマスイブがやってくる。

 休みに入る前から友達と遊ぶ約束をしていて、俺はきょーちゃん、香織、ヒナ、薺、百合と共にイルミネーションが綺麗に飾られた駅前の街中を歩いていた。

 ただ、今はまだ昼間な為にそのイルミネーションの真価は発揮されていない。


「リリーちゃんと一緒にイルミネーション見たいなぁ…」


 俺の腕にまるで恋人のように抱き着いて歩いている百合が周囲が明るいせいで全く目立っていないイルミネーションを見て呟く。


「じゃあ、夕方頃もう一度駅前に来ようか。それまでどこで遊ぶ?」


 遊ぶ約束はしていたが、どこに遊びに行くかは決まっていない。全てはその時の気分次第というやつである。

 ちなみにこの時、百合は「リリーちゃんと二人きりで…」と心の中で思っていたようであるが、そんなことは全く俺には伝わっていなかった。



 それから俺たちは、カラオケ以外で何か遊びに行くところを話し合い、軽くデパートでウィンドウショッピングをしてからフードコートで軽食を食べ(俺は軽食と呼べない量を食べたが)、ボーリング場へと向かった。



 つい、男の時の癖で十五ポンドの玉を取りに向かってしまったが、置いてある十五ポンドの玉は全部リリーの指に対して穴がでかすぎた。

 重さとしては全然持てるんだけどなぁ…。ぶかぶかすぎる。


 しょうがないのでリリーの指のサイズに合うボーリング玉を探す。

「手、小っちゃすぎるんだよなぁ…」

 自分の掌を見ながらぐっぱぐっぱと握ったり開いたりしてみる。


 いくら女の子とはいえ、十二歳とは思えないほど小さな手。

 おそらくは五歳から十歳までの五年の間、ずっと意識不明の寝たきり状態だった為にあまり成長できなかったのだろう。

 一応はホルモンを投与などして寝たきりでも多少は成長はしていたみたいで、脳移植をして俺がリリーとして目覚めてからもホルモン治療は続いている。

 それでもリリーの体は今現在九歳前後くらいの成長具合といったところだった。


「リリーちゃん?自分の手を見てどうしたの?」

「ん?いや、手が小っちゃいなぁって」


 声をかけてきたヒナと見比べてみても、その手の大きさはそこそこ差があった。

 このメンバーの中で、俺を除けば一番小柄な体型をしているヒナよりも身長も手の大きさも差があるくらいだから、かなり小柄だということだ。


「わたし、リリーちゃんのその小っちゃい手、好きだよ」

 そう言って、ヒナは俺と手を合わせる。


 ヒナの手の第一関節くらいまでの大きさしかない…。

 いくらなんでも小さすぎる。


 それはそうと、こうやって可愛い女の子と手を合わせるのって、なんだかドキドキするな。

 男の時にこんなシチュエーションをやってみたかった。多分、「わー実くんって手おっきいねぇ」みたいな反応されたんだろうなぁ。


 そんな妄想をしながらヒナと手を合わせていると、百合が「あー!ずるい!わたしもリリーちゃんと手合わせしたい!」と、割り込んでくる。

 なんかその言い方だと、武術の稽古みたいな言い方になるな。

 そうして次に百合と手を合わせていると、皆が「次はわたしも」と言った具合に結局全員と手を合わせる事になった。


「リリーちゃんの手って小っちゃくてぷにぷにしてて可愛いよね」

「でも、そんな可愛い手なのに男子よりも強い握力なんだよね…」


 今でもたまに男子たちと力比べをしたりしてる。

 柔道部の男子には相変わらず勝てないけど、それ以外の男子には大体勝ってたりする。

 でも、最近皆俺に負けるのが悔しいのか筋トレとかし始めてるみたいで、力比べに勝つのが前よりも苦しくなってきた。

 やっぱり、男は女と比べると筋肉つきやすいからいいなぁ…。



 結局、自分の手の大きさに合ってそれなりの重さがある玉は十ポンドだった。

 ほとんど子供用だな…。


 重さとしては十三ポンドくらいが丁度良かったんだけど…指のサイズが問題だからしょうがない。

 マイボールを作るほどボーリングには来ないだろうけど、これからボーリングで遊ぼうとする度に重さじゃなくて穴のサイズで選ぶのはちょっとやだなぁ。




「楽しかったね♪」


 ヒナがとても楽しそうにスキップをしながらボーリング場の出入り口から飛び出る。

 その手には二ゲーム分のスコアが載った用紙が握られている。


「リリーちゃんは流石の運動神経だったね。でも、最後の最後でターキー出せなかったのは惜しかったねぇ」

「…あれは本当に悔しかったよ…」


 そう言って、俺も自分の手に持っている自分のスコアが載っている用紙を開いた。


 一ゲーム目は二百五点で、二ゲーム目は百九十八点の素人にしては中々の高得点だった。

 スコアはそれなりにスペアかストライクのマークで埋まっていた。


 ただ残念なのが、二ゲーム目の十フレーム目だ。

 ストライク・ストライク、と続いてラスト一投が九だった。

 一番右端のピンが倒しきれずにターキーならずだったということで、本当に悔しかった。


 ちなみに、他の皆は大体百点前後だった。



 それからはすぐ近くにあるゲームセンターに寄った。

 ゲームセンターに来るのは久しぶりで、俺は真っ先に最近のアーケードはどんなものなのかを見に行こうとする。

 しかし、百合に引き止められて皆でシールをプリントできる撮影機のところへと向かうことになった。


 最近のこの機械の進化は凄いな。

 落書きしなくても何か勝手に色々と加工してくれてるし、「この機能いる?」ってものまで搭載されてる。

 俺が最後にこの機械を使ったのって、男の時の中学生の時だから…うわ、もう六、七年も前の事なのか。そりゃ機械の機能のグレードアップだってするわな。



 それからも俺たちはゲームセンター内で遊んで時間をつぶす。

 そうして外が暗くなってきた頃…。



「うわぁ!綺麗だねぇ!」

「そうだね」


 俺たちは駅前のイルミネーションを見に戻ってきた。

 普通に飾ってあるだけのイルミネーションも綺麗だが、まるで雪が落ちるように灯りが下へと流れるイルミネーションや、様々な色に変化するイルミネーションがとても綺麗だった。


 そのイルミネーションに感動を覚えていると、横からソッと手を繋がれる。

 誰と言わなくてもわかると思うが、百合である。


 心の中で苦笑をしながらきょーちゃん達を見てみると、きょーちゃん×香織、ヒナ×薺、で手を繋いでいた。うん、これは尊い…見ているだけで癒される。

 と、言うかなんだかここに三組の百合カップルができてしまったな。

 しかも、その内一組は名前自体が百合だし…。


 しばらくの間、イルミネーションを堪能した俺たちは帰路へと着く。

 駅から中学校の方へと歩いていき、途中の道でそれぞれの家の方角へと分かれていく。


「じゃあ、またね~。よいお年を~」

「うん、よいお年を」


 そうして最後に残ったきょーちゃんとも分かれ、俺は自宅へと帰る。




「ただいま」

「おかえり。楽しかったかの?」


 家に帰りつき、リビングに向かうとそこで婆ちゃんはテレビを観ながらくつろいでいた。

「うん、楽しかったよ。ごめんね、せっかくのクリスマスイブなのに友達と遊びに行っちゃって」

「構わんよ。どうせワシも昼間は研究室にこもっておったし。リリーはリリーの好きな事をするが良いて」


 相変わらず婆ちゃんは俺の好きなように行動させてくれようとする。


「じゃあ、すぐに夕食の支度するね。今日はクリスマスイブだから豪勢にいくからね!」

「それは楽しみじゃのう」


 買い物は前日のうちに済ませていて、ある程度の仕込みは昨日の段階で終わらせていた。

 それでも暗くなるまで遊んでいたので少し急がないといつもの夕食の時間には間に合わなくなってしまう。



 そうして手際よく料理を作っている時だった。


「そういえば、明後日はリリーの誕生日じゃのう」

「え?俺の誕生日は六月…あ、俺じゃなくてリリーのか」


 一瞬、転性前の自分の誕生日を思い浮かべてしまった。

 でも、婆ちゃんが言ってるのは(オレ)の誕生日ではなく、リリーの誕生日の事を言っているのだ。


「そういえば、リリーの誕生日って、十二月二十六日だったね」

 すっかり忘れてた。

 しかも、さっき婆ちゃんが言っていた通り明後日の日付である。


「じゃあ、今日のご馳走はクリスマス兼リリーの誕生日祝いって事で…」

「何を言うとる!リリーの誕生日はちゃんと盛大に祝わねば!」


 おっとっと…一まとめにしようと思ったら婆ちゃんからストップがかかってしまった。

 まあ、婆ちゃんがリリーに関する事を省略しようとはしないよね。


「去年までは病院じゃったから何もできんかったが、今年からはリリーも家にいるんじゃ。じゃから盛大に祝おうではないか」

「う、うん。そうだね」


 そうだな。俺の誕生日じゃなくて、リリーの誕生日なんだ。

 この体を使わせてもらってるのだから、せめて誕生日くらいは盛大に祝ってあげよう。

 それが、リリーへのせめてもの手向けになるはずだ。



 そうしてこの日はクリスマスイブを盛大に祝う。

 そしてその翌々日にはリリーの誕生日を、クリスマスよりももっと盛大に祝うのであった。

 まあ、婆ちゃんが高級レストランのオードブルとケーキをお持ち帰りしてきたから準備は楽だった。

 しかも、流石は高級レストランといったところか、めちゃくちゃ美味しかったのは言うまでもなかった。

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