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第五十七話 中学生編『調理実習』

第八話よりも前の話です。

 文化祭後、すぐに生徒会役員選挙が行われ、体育館で生徒会長へと立候補した者や推薦を受けた者が公約を掲げて演説をする。

 今回、その立候補者の中に『文化祭での飲食物の取り扱いに関する規制緩和』と公約を掲げていた者がいたので、俺は迷わずにその生徒に投票をした。

 しかし、残念ながらその生徒は落選となってしまう。良い案だと思うんだけどな。


 それから一週間後、二年生が修学旅行へと向かった為に、校舎内は生徒数が少なくなってちょっとだけ寂しくなった。

 来年は自分達も修学旅行か。ここの中学はどこに行くんだろうな?今度、先生に聞いてみようっと。



 それからひと月ちょっとの間は、穏やかな日々が過ぎていった。

 俺は週二、三回のペースで男女バスケ部に顔を出し、練習を手伝いアドバイスを出したりしていた。

 男子バスケ部からは「正式なマネージャーになってくれ!」と懇願され、女子バスケ部からは「入部して!」と毎回勧誘される日々である。


 もしも、俺が家の炊事洗濯をしてなかったらどちらかに入部してたかもな。

 婆ちゃんは家事は気にせずに好きな事をすれば良いって言ってくれてるけど、お世話になっているのだからきちんとやるべき事はやらないとね。

 そのおかげか俺の家事スキルや料理スキルはかなり上達した。


 バスケ部に顔を出さなかった日は、家に帰って宿題やある程度の掃除を終わらせてから、パンツァーⅣの仲間とオンラインゲームをして遊んだりしている。

 りえちゃんも始めてて、慎吾とりえちゃんは二人で小隊を組んでよく遊んでいるようだ。

 それを、守が羨ましそうにしていた。頑張れ守、お前にもいつかきっと良い彼女が見つかるさ。


 きょーちゃん達四人と、もはや俺達のグループに加わってる百合とも遊びに行くこともある。

 ただ、遊びに行く際にカラオケに行く予定の時には絶対に誘われない。俺が超絶音痴なのはわかるけど、それはそれで寂しいもんだ。




 十一月末に家庭科の調理実習の授業がある。もはや俺にとっての大の得意分野だ。


 課題の調理実習で作る料理の内容は簡単な物だった。

 全班共通でメインとなるおかずはアジフライで、それにキャベツの千切りとプチトマトを添えるだけ。

 そして白米を炊いて、味噌汁を作るというもの。


 味噌汁の出汁や味噌、具に関しては自由という事なので各班毎に違う味の味噌汁ができる事だろう。

 そして、自由調理としておかずをもう一品作るかデザートを作って良いとの事だそうだ。

 この自由調理は、作らなくても何も問題はないが、作っておくと評価が少しだけ上がる物である。

 なので、遠慮なく何か作らせてもらおう。



「リリーちゃん、一緒の班にならない?」

「うん、良いよ」

「わたしもわたしも!」


 すぐにヒナが俺と一緒の班になろうと誘ってきて、薺が自分もと加わってくる。

 一班五人って事だから、あと二人だが…。


「わたし達が加われば丁度良いよね?」

 香織ときょーちゃんがやってくる。

 

 他にも俺と組みたかったらしいクラスメイト達がしょんぼり顔で引き返して行く、こういう自由に班決めして良いパターンって、罪悪感もちょっとだけ発生するからあんまり好きじゃないんだよね。

 一応、男女混合で班を決めても良いとの事だったけど、俺達の班は女子だけとなった。


「それで、この中で料理作れる人は?」

 香織が仕切って皆に質問をする。

 手を挙げたのは俺だけだった。


「よし、じゃあこれ以降はリリーちゃんがこの班のリーダーという事で!」

「丸投げ!?」


 まさかの料理が作れるのは俺だけだった。

 まあ、中学一年生だしそんなもんか。でも、小学生の時とかでも家庭科で調理実習とかなかったのかな?

 俺が通ってた小学校ではあったけど。


「ん~…っと、それじゃあ、自由調理に関してだけど。豆腐ハンバーグとカップケーキを作って良い?」

「それは構わないけど…なんで二つ?」

「単純にわたしが食べたくなっただけ。…だめ?」


 あざといポーズのひとつである、軽く握った右手の拳を口元に当て、少し斜めの角度から見上げるポーズをとっておねだりをしてみる。この時、左手はスカートを軽く抓んでいるのがポイントだ。

 すると班メンバー以外のクラスメイトの皆も一斉に「かわいい…」と呟いていた。


「うんうん!いいよいいよ!リリーちゃんの思う様に作っちゃって良いからね~!」


 ククク…計画通り!


 自分ではニヤリと笑ったつもりの天使の微笑みをして、俺は自由調理をその名の通り自分の自由にすることができた。



 そうして迎える調理実習当日。


 俺は普段よりも早めに登校していて、家庭科室で味噌汁の出汁用の煮干しを水に浸し、持参したお米を研いで炊飯器に入れる。

 他の班の人達もちらほらとやってきて、俺と同じような作業をしていく。


 実際に調理実習をするのは三時間目と四時間目だけど、下ごしらえをしておかないと授業中だけじゃ時間が足りないからね。

 今ここに来てる人達は皆、家でも料理を作るのを手伝ったりしてわかってるってことだろうな。


 ちなみにこの日は一年A組の給食はない。

 この調理実習で作った物が自分達の昼ごはんとなるのだ。だから失敗と時間切れは許されないのだ。


「おはようリリーちゃん。それは?豆腐?」

 下ごしらえに来たクラスメイトに声をかけられる。


「うん、自由調理に使うから、先に水を切っておこうと思って。ちょっと切る時間が長くなっちゃうけどね」

 そう言って、俺はキッチンペーパーに切った木綿豆腐を並べて冷蔵庫に入れる。

 豆腐料理で水気を切る必要があるものは、どれだけ水を切れるかでその完成度が変わるからね。



 そうしてある程度の下ごしらえを終わらせてから俺は教室へと戻る。

 教室ではすでに調理実習で一緒の班となったきょーちゃん達が俺の机を中心にして雑談していた。

 実際に手伝わなかったとしても、せめて手伝いにくるポーズとかを見せてほしかったなぁ…。


 まあ、俺も手伝ってくれってお願いしたわけでもないからな、だから心には思っても口に出す事はやめておこう。もしもお願いしていてこれだったなら多少は怒っても良いとは思うけど。


「皆、おはよう」

「おはよリリーちゃん。今日も綺麗な金髪と青い眼だね」


 十月に入って衣替えをしてから、やたらと金髪碧眼の事を褒められるようになった。

 おそらくは、今までは白い生地がメインのセーラー服だったから金髪が目立ちにくかったけど、衣替えして紺色の生地のセーラー服になったから金髪が目立つようになったからだろうね。

 全体的に色が暗くなったら他が目立つようになる。

 ついでにリリーの透き通るような青い瞳も褒められるようになったのだ。


 髪の毛といえば、俺が髪の毛を結う時って今まで体育の時にポニーテールにするくらいしかなかった。

 レパートリーが少ない事を指摘され、そこからやたらと髪いじりをされるようになり、ついでに結い方まで教えてくれるようになったのはちょっとだけ助かった。

 おかげで最近少し凝った髪の結び方ができるようになった。


「おっはよ~」

「うわっでた」


 もはや当たり前のようにこの教室に突撃してくる百合に、俺はまるで嫌な相手と遭遇した時のような態度を取る。

 ただ、これはもう恒例とも言っていいやり取りと化していて、百合は気にせずに俺に抱き付いてくる。


「んー♪今日もリリーちゃん良い匂い。くんかくんか」

「髪の毛の匂いを嗅ぐな!」


 ちなみに今日の俺の髪型はメッシーバンと呼ばれているちょっとぐちゃぐちゃなお団子ヘアーをしている。

 調理実習だから料理に髪の毛が入らないようにお団子ヘアーにしようと思って、きっちりとしたお団子よりも、ゆるふわなお団子の方がリリーに似合うと思ってこの髪型をチョイスした。

 これも友達から教わった髪型の一つで、結構気に入ってる髪型の一つだ。

 三角巾は着けるけど、更に髪の毛を落ちないように工夫してついでにおしゃれをするのは悪い事ではないだろう。むしろ良い事だ。


 あとはサイドアップだったりハーフアップも好きな髪形で、休みの日でも結構髪の毛をいじるようになった。

 婆ちゃんが「緩やかなウェーブが似合うじゃろうな」って言ってたから、いずれパーマもかけてみたいもんだ。




 そうして毎朝のやり取りを終え、一時間目と二時間目の授業を終えた俺達一年A組の生徒達は家庭科室へと移動する。

 待ちに待った調理実習の時間だ。


 揚げ物という事で、高温となった油が飛び散って危ない事もあるので、数日前の家庭科の授業でも説明されていたが先生が再度皆に注意を促してから調理実習の授業が開始される。



「あら?橘さんは生パン粉を持ってきたのですね?」

「はい、出来たてを食べるのでしたら生パン粉の方が良いですので」


 それぞれの班を見て回る家庭科の先生が、俺の持ってきたパン粉を見て思わず声をかけてくる。

 他の班はスーパーで売ってる乾燥パン粉を持参していた。だが、俺だけが生パン粉を持参していたのだ。


 アジフライやトンカツ、それにコロッケなんかは、出来たてをすぐに食べるのであれば生パン粉で作る事がオススメだ。

 中の具に熱が通りやすく、しかも物凄くサクサクっとした食感になって美味しい。


 ただし、作ってからしばらく放置してしまうのであれば生パン粉は逆にオススメはできなくなってしまう。

 乾燥パン粉と比べて水分が多いので、時間が経つにつれてサクサク感が失われて逆にベチャベチャした食感になってしまうのだ。

 だから、調理後すぐに食べるなら生パン粉、時間を置いて食べるなら乾燥パン粉と使い分けるのが良いだろう。


 ちなみにこの生パン粉は俺の手作りだ。

 パン粉用に焼いた食パンを千切ってミキサーにかけてきたもので、家でも揚げ物を作る時には自作しているから作り方も使い方ももう慣れたものだ。



「えぇ、良い判断ですね。これは準備段階で評価せざるを得ないでしょう」

 そう言って、先生は手に持っていたメモ帳に何かを書き込んでいく。

 おそらくは通知表の成績を決める為のメモだ。これは頑張らないとな。


 そうして張り切ってしまった結果、俺は一人で突っ走ってしまっていた。


 俺と同じ班員である、きょーちゃん・香織・ヒナ・薺は、完全に手持ち無沙汰となってしまい、調理中は集中をしてしまう俺は皆を置き去りに一人料理を作る。

 もちろん、食器の準備や味噌汁の味噌を溶く作業、炊飯器のスイッチなんかは押してもらったりなんかはしたが、基本は全部俺一人でやってしまっていた。



 完全な出来たてを食べたかったから、アジフライを作るのは最後に回して、俺はデザートであるカップケーキ作りから始める。

 俺達の班だけで食べるのも勿体ないと思ったので、クラス全員に配れる分とプラスアルファを作り、カップケーキをオーブンへと入れる。


 オーブンでカップケーキを焼いてる間に、豆腐ハンバーグを作り始める。

 この豆腐ハンバーグにも、持ってきた生パン粉を使用した。ほんと、パン粉って便利だよね。


 豆腐ハンバーグを焼いてる間にキャベツを千切りにして皿に盛り付け、プチトマトを横に添える。

 米も炊きあがりまでもう少し時間があったので、その間に味噌汁の具を茹でる。

 味噌も適量を取り分けたので、それをヒナに溶いてもらい、沸騰させてしまわないように弱火で混ぜてもらった。


 豆腐ハンバーグが焼きあがる直前に、すでに適温となっている揚げ物用鍋の中の油に特製パン粉をまぶしたアジを投入していく。

 バチバチバチと大きな音が鳴って泡が勢いよく出て油が跳ねるが、家でも揚げ物はそれなりに作るからもう慣れたものである。


 アジを揚げている間に豆腐ハンバーグが焼きあがったので、お皿に盛りつけて自作した特製ソースをかける。

 これだけでも十分メインのおかずになりそうだ。


 お米も炊きあがり、オーブンで焼いていたカップケーキも焼きあがった。

 味噌汁も完成済みだからあとはアジフライが揚がるのを待つだけとなる。


「うわっ、良い匂い…」

 カップケーキのふわっとした甘い香りに、クラス中がざわめく。

 きょーちゃんと香織にお願いをして、そのカップケーキをクラス中に配ってもらった。


「ん、そろそろアジフライも揚がるから、ご飯とお味噌汁をよそっておいてくれない?」

 アジフライがそろそろ揚げあがりのサインを出す頃合いとなっていたから、俺は薺にご飯と味噌汁の準備をお願いする。

 ヒナと薺がその準備を始め、きょーちゃんと香織がクラス全員にカップケーキを配り終えて戻ってきたところで、アジフライを揚げている油の音がピチピチという小さくて軽快な音に変化した。


 アジフライ自体も表面に浮き上がってきていて、その色は綺麗なきつね色となっている。

 それを俺は菜箸で掴んでみる。


「よし、振動も出来上がりを告げてるな!完成だ!」


 アジフライを油から上げて天ぷらバットの上に置いて油を切り、粗熱を取る。

 粗熱が取り終わったら、千切りキャベツの横に置いて完成だ。



「先生、できました~」


 手を挙げて出来上がりの料理を先生に見てもらって評価をしてもらう。


「綺麗に揚がってて美味しそうだわ。生パン粉を使用してたからサクサクした食感でしょうね。豆腐ハンバーグも非常に良く出来てます。デザートのカップケーキも、先ほど試食しましたがとても美味しかったですよ」


 と、かなりの高評価だった。

 これは通知表にも期待が持てそうだ。


 先生の評価も終わったので、まだ完成していない班には悪いけど、俺達は実食に移る。

「それじゃあ…」

「「「「「いただきます!」」」」」



「うわっ!このアジフライすごくサクサクしてて美味しい!衣はこんなにカリッとしてるのに中の身はふっくら!」

「豆腐ハンバーグも凄く美味しい!普通に牛百パーセントのハンバーグって勘違いしちゃいそうなくらいジューシーで肉汁が溢れてくるよ!」


 ふふふ、班の仲間からも高評価だ。

 作った甲斐あるってもんだな。


 そうして俺達はワイワイと食レポのようなお喋りをしながら自分達が作った(ほとんど俺一人で作った)料理を口にする。

 そしてデザートのカップケーキも美味しくいただき、調理実習は終了となった。



 ちなみに、男女混合で班を作っていた班や料理をする者がいた班は良かったのだが、男子五人だけで組む事になってしまい、誰一人として料理ができない班が一つ存在していた。

 その班の料理が悲惨だった事は、言うまでもないだろう…。


「唯一の救いは、リリーちゃんが作ってくれたカップケーキがあった事だよ…本当にありがとう!」


 調理実習終了後に、その班の全員からそうやって感謝された時には、少し同情を覚えたものだった。




「ほい、百合。これあげる」


 その日の放課後、俺達の教室に遊びにきた百合に俺は調理実習で作ったカップケーキを渡す。

 透明な袋に入れられ可愛いリボンでラッピングされたカップケーキを受け取った百合は、一瞬何の事だかわからなくて首を傾げていた。


「今日の調理実習で作ったカップケーキ。いつも遊んでくれてありがとうね」

「……っ!! リリーちゃん、大好き!!」


 多少面倒くさい性格はしているが、今は仲良くしてくれてるのだ、これくらいはしてあげても良いだろう。

 そう思ってカップケーキをあげたのだが…。


「えぇい!邪魔!そんなにベタベタくっつくなら、やっぱりケーキ返して!」

「やだ!これは大事に大事に食べるんだから!!」


 返したくないなら離れろって遠回しに言ってるのに、百合は力強く俺に抱き付いてくる。


「えへへ、リリーちゃん大好きだよ」

「わかったから、離れろって!」


 見慣れたやり取りに、きょーちゃん達は諦めと呆れのため息を吐くのであった。

個人的にカツ丼の衣はしっとりとしてる方が好きです。




1月7日編集

パソコンが壊れて起動しなくなりました。

色々試してますが、無理だったら修理に出しますが、それまでの間小説の執筆ができないので、パソコンが直るまで少しの間更新を休みます。

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