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第五十六話 中学生編『文化祭』

第八話よりも前の話です。

 文化祭の季節がやってきた。


 俺の通う花園中学校の文化祭は、飲食物はほとんど扱わない本当に文化的な展示物だけを展示するちょっとだけつまらない祭りだった。

 各教室で絵であったり習字であったり川柳を展示したりと、とにかく地味な感じである。

 扱われている飲食物は保護者会が用意した焼きそばとポップコーンとわたがしの屋台、あとは紙コップでジュースが配られる程度であった。もっと色々あっても良いと思う。


 そんな中、この文化祭一番の盛り上げ役は文化系の部活動や音楽系の部活動がメインとなっている。

 特に吹奏楽部の演奏がメインであり、プログラムを見ても吹奏楽部がそのほとんどを占めていた。


 他にも演劇部による演劇や、各学年で一番歌の上手な教室が代表して合唱曲を歌ったりなんかもする。

 まあ、本当にただの文化祭ってやつだ。俺が男の時に通っていた高校の学園祭だったらもっと飲食店とか色々あったんだけどな。

 たま~に誰も思いつかなかったような変な出し物をして生徒や先生の度肝を抜かせる教室もあったりしたのだが、そういうのは次の年から何故か禁止の出し物になったりするんだよね。

 あれってなんでなんだろうな。ふしぎふしぎ。



 文化祭では生徒は自由に各教室や体育館で行われている何らかのプログラムを見に行く事ができる。


 同じクラスの友達で演劇部の友達がいるが、今回は出演をしていなくて裏方作業しかしていないそうなので、別に演劇を見に行く必要はなさそうだな。

 吹奏楽部の友達はフルートで演奏をするみたいなので、時間になったら見に行こう。


 それまでは、友達と自由気ままに学校中を見て回るとするか。



 最近、特に一緒に行動する友達である、きょーちゃん・香織・ヒナ・薺の四人と共に見て回る事になった。

 パンツァーⅣに関しては、慎吾とりえちゃんがデート感覚で文化祭を見て回るみたいだから、共には行動していない。

 残る男子の片割れである守は俺に告白をして振られても、めげずに「文化祭を一緒に見て回らないか?」と誘ってきたけど、流石に文化祭で男女のペアだけで行動していたら変な噂だって立てられるし、そもそも俺狙いの男子はかなり多いから、守の危険が危ない。


 だから女友達と一緒に見て回ることにしたのだ。

 まあ、今は俺も女だが、元々は男だ。普段の話し相手や遊び相手であれば男相手の方が気が楽ではあるが、こういったイベントでは可愛い女の子達と一緒に見て回りたいってのが本音である。

 まあ、メンバーの中で一番可愛いのは(リリー)なんだけどな…。



「…で、なんで百合までいるの?」


 ごく自然に、それが当たり前かのようにして、俺達のグループに別の教室の生徒である黒木 百合が混ざっていた。

 彼女はここ最近、当たり前のように俺のそばに居る事が多い。


 たまに話しかけてきたりもするが、基本的には俺のそばで俺の事を見ているだけで、実害があるかといえば、特にはない。

 ただ、誰かに恋愛相談を持ちかけられて、男心を説いてる時なんかはその視線の熱さは倍増している。


「まあ、良いんじゃないの?百合って結構面白い子だし」

 いやいや、本性は男を取られた嫉妬心から精神攻撃だけでなく物を使って間接攻撃をしてくるようなちょっと危ないやつだぞ。

 流石にその本性を暴露するのは可哀想だから言わないけど。


 俺がそんな事を考えてるとはつゆ知らず、百合はニコニコ顔で俺の後ろにピッタリとついて歩く。

 相変わらず怖い。ヤンデレストーカーの素質もあるんじゃないだろうか?

 コレに好かれていたマサツグって奴はコレの事を一体どう思ってたんだろうな?


「仲間はずれにする気はないけどさ、百合は同じクラスの友達を放っておいて良いのか?」

「大丈夫だよ。わたしの友達は大体文化系の部活に所属してるから、そっちの方に行ってるし」

「なんだ、ぼっちか」


 ぐさりと来た一言だったようで、百合は少し涙目になっていた。

「悪い悪い。悪気しかなかったんだ」

「余計に性質悪いよね!?」


 百合の頭をぽんぽんと撫でる。

 身長差がちょっとだけあるので見た目情けないけど、百合は俺に頭を撫でられてまんざらでもない表情をしていた。


 結局、いつもの四人に俺と百合が加わっての六人という中々の大所帯で文化祭を見て回ることになった。

 身長の低い順に歩いたから、俺が先頭となる形だ。


「それで、最初はどこに行こうか?」

 パンフレットを開いて皆に相談を持ちかける。

「二年B組がおばけ屋敷やってるみたいだよ」

「それはもうちょっと後にしようよ」


 クオリティーは流石に低いだろうけど、せっかく楽しめる娯楽の一つなんだ、最初に行ってしまっては後の楽しみがなくなってしまう。

「リリーちゃんはおばけとか平気?」

「本物だったり本気で怖がらせようとしてくるホラーとかは苦手だよ」

 その俺の返事にきょーちゃんと香織が「なーんだ…」といった反応をする。

 もしかして、俺が怖がるところを見たかったのかな?


「他には怖いものとかないの?」

「ん?じゃあ、今はわたがしが怖い」

「まんじゅう怖いみたいに言うな!!」


 変な漫才が俺達の間で巻き起こるが、そこで俺がわたがしの話を口にした為に、最初はわたがしを買いに行く事に決まった。

 わたがしとポップコーンは五十円だった。おそらくは利益は求めていなくて単純に材料費とか機材のレンタル料さえある程度稼げれば良いのだろう。すぐ隣にあった焼きそばの屋台も一パック百円と、それなりの量が入ってるのに安かった。


 ちなみにジュースは無料であちこちで配られている。

 といっても種類は少なかったけどね。


 まだ昼前だから焼きそばは後で買う事にして、わたがしとポップコーンを買い、ジュースを貰ってから俺達は校内を練り歩く。

 最近、同級生だけでなく上級生からも恋愛相談を受けてる俺の顔は広くなっていて、すれ違う女子生徒達に挨拶をされる。


「リリーちゃんちょっと前に転校してきたばかりなのに、凄い人気だね」

「可愛いだけでなくて人当たりも良いから、親しみやすいんだろうね」


 香織の言葉にきょーちゃんが同意する。

 自分で思ってなんだが、リリーは今やこの中学校のアイドル的存在になってきている。


 日本人とイギリス人のハーフであるが、顔立ちは日本人寄りの幼い見た目で、それがますます可愛さを引き立てている。

 そして学校で唯一の金髪碧眼だからそりゃ目立つ。


 そしてきょーちゃんの言っていた通り、俺は誰に対しても分け隔てなくフレンドリーに言葉を交わすから非常に人当たりが良い。

 最近は噛む事も少なくなってきたけど、たまに噛んでしまうのがまた愛嬌があるそうで、リリーの人気はうなぎ登りというわけだ。



 そういえば、黒髪黒眼の方が優性遺伝なのにリリーは金髪碧眼で生まれたんだな。

 顔立ちが日本人寄りなのに、それ以外がイギリス人寄りって中々の低確率だと思う。


 そりゃハーフで金髪碧眼が生まれない事はないけれど、その場合ってかなり日本人っぽいところは薄れると思うんだよね。

 それなのに、鼻は低いし童顔だし、結構天文学的数字じゃないのか?今度婆ちゃんに聞いてみようっと。

 多分丁寧に答えてくれるだろう。



 まあ、途中別の事を考えてしまったけど、今やこの中学校でリリーの事を知らない女子生徒はほとんどいないという事だ。

 勿論、上級生を含めた男子生徒からも人気を集めているから、男子生徒も俺の事を知らない人はほとんどいないだろう。

 だからか、すれ違う女子生徒だけでなく男子生徒からも挨拶をされていた。


「リリーちゃんって人生の勝ち組だよね」

「可愛い見た目に運動神経抜群、更には成績優秀ときてるもんね」


 可愛い見た目以外は全部努力の成果なのですが…。

 まあ、成績に関しては元々すでに知っていたという多少のズルはあるけど。それでも、きちんと授業を聞いて予習復習をして、わからないところは婆ちゃんに聞く、といった事をしていたから、基本科目の五教科全てで満点を叩きだせたのであって、余裕ぶって勉強していなかったら全部平均点程しか取れてなかっただろうな。


 しかも可愛い見た目もリリーからの借り物であって、俺自身が何か努力したわけではない。

 そう考えると、俺自身は人生の勝ち組とは到底思えないんだよなぁ。


「可愛い見た目なのは認めるけど、他は全部わたしの努力。そう簡単に言わないでよね」

 だから、せめて自分で努力したところだけはただの勝ち組の一言で終わらせてほしくなくて、少しだけそっけなくそう答えてしまった。


「うわ、自分で自分を可愛いって認めちゃいますか、この子は…でも不思議と腹は立たないよね」

「リリーちゃんだもんね」


 そんな態度をとってしまった俺であるが、皆は笑って許してくれるしむしろそれが当然といった反応をする。

 なんというか、皆も結構親しみやすい性格してるよね。



 それからはそんな友達と共に各教室の展示物を見ていく。

 あまり一つの教室で時間は取れないから、パッと見てパッと移動するような少しだけ忙しないかたちとなってしまった。

 そしておばけ屋敷をしている二年B組の前まで来る。


「おぉ、入り口の雰囲気は結構出てるね」

「いらっしゃ~い。二人一組で入って行ってね~」


 入り口で受付をしているお化けのコスプレをした女子生徒が俺達をペア分けして教室内へと誘導する。

 きょーちゃんと香織、ヒナと薺、俺と百合、の三ペアに分かれる形になった。



 中は中学生が限られた資材を元に作ったにしてはかなりの出来で、薄暗く薄気味悪い雰囲気がよく出ていた。

「キャー!リリーちゃん、わたしこわ~い!」

 百合があまり怖いと感じてなさそうな声を出して俺の腕に抱き付いてくる。

 たぶん、俺に男らしさを求めてるんだろう。


「まだ何も驚かせてきてないよ…」

 ちなみにそれは本当に入り口から入って間もない事であり、誰も俺達を驚かせてもいない。


「「きゃああぁぁぁぁぁぁ!!!」」


 ほんの一分程先に入場したヒナと薺の悲鳴が響き、その悲鳴に俺は少しだけビクリと反応をしてしまう。


 しかし、この先に驚くようなポイントが待ち構えているって事がバレバレになってしまったな…。

 それにしても、ヒナや薺よりも先に入ったきょーちゃんと香織の悲鳴は全く聞こえてこないな。


 んで、今のヒナと薺の悲鳴を聞いて、百合が少しだけ青ざめた表情でぶるぶると震えて俺に完全に抱き付いていた。

「大丈夫だって。俺がついてる」

 頭をぽんぽんと撫で、笑顔でそう答えると百合はさっきまでの青い表情から打って変わって頬を真っ赤に染めて恋する乙女のような表情をする。

 まあ、暗くてよく見えなかったけど、多分そうだったと思う。


 それからほんの少し先に進むと、黒いカーテンの陰から目玉の飛び出たゾンビが飛び出してきた。

 ちょっと待って、リアルすぎて怖い!!


「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」

「ぎゃああ!痛い!苦しい!!百合!力緩めて!!」


 百合が全力で俺の首に抱き付いてきた為、俺も思わず叫び声を挙げてしまう。

 別の意味で死にそうなくらい怖い。

 しかもこの間にヒナと薺の悲鳴が絶え間なく聞こえてきた。



 それから出口に向かうまでの間、俺達は悲鳴を挙げ続ける事になる。

 多少はおばけ屋敷側のドッキリパターンにも驚かされはしたが、俺の悲鳴の全てが、百合の物理攻撃によるものであった事は言うまでもなかった。



「中々面白かったね」

「ドキドキハラハラしたよ」


 廊下で俺達を待っていたきょーちゃんと香織は余裕の表情で立っていた。

 全然そうには見えないのだが?


「こ、こわかったよぅ…」

「うぅ~…今日、夜、こわくてトイレいけない…」


 対するヒナと薺は抱き合いながらまだブルブルと震えている。

 うん、守ってあげたくなる可愛さだな。


「嗚呼…リリーちゃん…」

「いや!さっさと離れろよ!!」


 百合がポーっとした表情でいつまで経っても俺の腕に抱き付いたままだったから振り払う。

 そして、言葉遣いが悪かったためにすぐに香織に注意されてしまった。


「それにしても、結構リリーちゃんも悲鳴挙げてたね」

「…物理攻撃食らいまくってたからね…ってか、二人は全く悲鳴挙げなかったね?」


「わたし、ホラー系平気だから」

「京子の怪談は本当に怖いから、わたしはそれで慣れてしまったのかもね」


 あー…二人共耐性持ちか。

 しかもきょーちゃんの方は怖がらせるのを得意としてるのか…。


 こういうきょーちゃんみたいなおかっぱ頭の子が怪談話を得意としてるって、絶対ガチで怖いやつだろ。

 今後、修学旅行とか行く時に、きょーちゃんと同じ部屋になったら気を付けないといけないな。

 恋バナならまだ許せるけど、怪談はダメだ。もしも怖くなってトイレにいけなくなったら…またおねしょするハメになってしまう。それだけは阻止せねば。




 それからはヒナと薺の気持ちを落ち着かせるために、ジュースを一杯飲んでから演劇部がしていた白雪姫の劇を観る事にした。

 二人とも子供っぽいところがあるからとても楽しそうにその劇を観ていて、おばけ屋敷での怖さも薄れたようである。


 そして昼頃に焼きそばを購入して食べ、残る教室の展示を見てから吹奏楽部の演奏を聴き、文化祭は終わりを迎える。


 始めは地味な文化祭だなって思っていたけど、中々に楽しめた。

 あとはやっぱりもっと飲食物を取り扱ってくれれば言う事はなかったと思える文化祭だったな。

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