第四十九話 中学生編『これがリリーの戦車道』
前話と同じく、第六話中でカットされている話です。
また、今回は戦車のゲームの話が題材となっているので、ゲームをしない人、戦車の事を知らない人にとってはあまり面白くない話かもしれません。
中学に転入してから数日が過ぎた。
改めて自己紹介をしあったり、男子とは腕相撲勝負をしたりしたおかげで、俺はかなりクラスに馴染んでいた。
そんな中、俺は戦車好きの男子二名と仲良くなる。
眼鏡をかけたちょっとだけ前髪が長い男子の名前が赤松 慎吾、好きな戦車はアメリカの軽戦車のM24、通称Chaffeeである。
そしてツーブロックの髪型をしている男子の名前が杉山 守、好きな戦車は慎吾と同じアメリカの戦車で、中戦車のM4A3E8、通称Shermanだ。
どっちも良い戦車だよな。俺も好きだ。
でも、俺が一番好きな戦車はドイツの軽戦車のⅡ号戦車L型、通称Luchsである。
戦車のオンラインゲームも昔やっていて、およそ二万戦プレイしている中の一万戦近くはルクスで遊んでいたくらいルクスが好きだ。
そういえば、俺のアカウントってどうなってるだろうか?およそ二年プレイしていないけど、普通は削除されずに残っているよな。
ログインメールアドレスとパスワードは…確か…うん、多分これで間違いないはずだ。インストールして試してみよう。
もしも違ってたらしょうがない。初めからやり直すとするか。
慎吾と守も、中学に入ってからそのゲームをやり始めたそうだ。
まだ五百戦ほどしか遊んでないそうで、チャーフィーやシャーマンを購入するまでの道のりは遠いらしい。
自宅に帰り、家事や炊事を全部終わらせた俺はゲームをインストールして、前のアカウントでのログインを試してみた。
「お、合ってた。残ってる残ってりゅ」
ログインに成功し、俺が購入して育てた戦車たちがズラリと画面に並んでいた。
「相変わらず、狂ったかのようにルクスばっかで遊んでりゅにゃ」
戦績を見て、記憶に誤りがないかを確認する。
うん、やっぱり半分近くはルクスで遊んでいた。
俺は苦笑をしながらインターネットでそのゲームの操作と現在の状況を調べる。
「げ、マジか。このマップ削除されたのか…好きなマップだったんだけどなぁ…」
当時、このマップに当たればほぼ勝っていた得意マップが削除されていて少しだけ気分が萎える。
更に調べてみたら、前まで存在していたフレンドリーファイアがなくなって、味方に砲弾が当たっても、味方の戦車と追突してもダメージが入らないようになっていた。
「フレンドリーファイアなくなってしまったのか…あった方が良かったのに」
別にフレンドリーファイアをしようとは思ってない。
ただ、それがなくなるとどうなるかというと…。
「あ~…やっぱりふざけて撃ってくる奴がいるなぁ…」
ある程度ゲームの事を調べ終わった俺は、久しぶりにルクスでの出撃をする。
カウントダウンが終わってゲームが開始されてすぐに味方から撃たれた。
まだ出撃開始直後ならほんのおふざけで通るだろうけど、茂みに隠れてスポットしてるところでふざけて撃たれると、一瞬だけ敵に見つかってしまったのかと思ってつい動いてしまう。
やっぱりフレンドリーファイアはあった方が良かったな。
ペナルティがない事を良い事にこうしてふざけて撃ってくる奴らが現れる。
「しっかし…やっぱり腕落ちてるなぁ…あと、知ってるマップだったけど、茂みとか少にゃくにゃってるな。隠れられる場所が減ってる」
久しぶりの第一戦はそこそこは活躍できたけど敗北してしまった。
まず、覚えていた茂みに向かって突撃したのだけど、その目的の茂みがなくなっていたのだ。おそらくゲームバランスに調整が入ったのだろう。
だから急遽方向転換して別の茂みに潜り込んで索敵をしたのだが、あんまり敵戦車の発見には至らなかった。
マップの調整だけでなく、ナーフされてる戦車もあるだろうから、あとでもう一度調べなおさないとな。
序盤はそうした失敗をし、中盤で残りライフの少なくなった敵の後ろに回りこんで倒したりしていたが、終盤で重戦車の砲撃を浴びて履帯が切れ、修理キットで履帯を直そうとしたが操作が追い付かずに装填が完了したその重戦車の砲撃によりルクスは爆散した。
「こういう操作勘とかもしっかり取り戻さないとなぁ…ぁ、そうだ。せっかくのゲーミングマウスなんだから、このボタンに修理キットとかの番号割り振ったら良いかもな」
婆ちゃんが用意してくれたパソコンのマウスは、ボタンが十二個もついているマウスだ。
わざわざキーボードの数字キーを押すよりも、右手の親指一つで操作が可能ならそっちの方が当然楽だし早い。
俺はマウスのボタンに数字キーを割り振って再度ゲームで遊ぶ。
そうして遊ぶ事二十戦。
「うん、だいぶ操作も慣れてきたな」
ルクスだけでなく、他の戦車でも出撃をして操作勘を取り戻す。
少し驚きだったのが、自走砲の砲弾から徹甲弾がなくなって、全部榴弾になっていた事だった。
上空から徹甲弾で貫くの好きだったんだけどなぁ。
まあ、代わりに榴弾の爆発によるスタンと、スタンアシストというものが加わったみたいだし、あんまり自走砲は使わないから別に構わないんだけど。
「よし、そろそろ慎吾と守と一緒に遊んでみるか」
俺はスマホを取り出して、慎吾と守に連絡をする。
少しして二人から返事が返ってきたので、ゲーム内のユーザーネームを教えてフレンド登録をしてもらう。
「んじゃ、プラでも組んで遊んでみるか」
『『りょーかい』』
無料通話で音声でのやりとりをしつつ、俺達はゲームを始める。
『うわ、リリーちゃん約二万戦も遊んでる…』
『しかも実績見てみろよ。全体勝率五十九パーセントで、車両別で見たらルクスの戦闘数がおかしな数字になってるぞ』
スマホの向こう側から二人のそんな声が聞こえてくる。
『なんだこりゃ!ルクスの戦闘数約一万回の勝率六十二パーセントで生還率四十パーセントって!やり込みすぎでしょ!!』
「中々に高いっしょ?ルクスに優等マークがあれば、確実に三優等は取ってた自信はあった。…優等マークは次のTireⅤ帯からだからなぁ」
しかし、まだゲームを始めたばかりの二人は優等マークの事を知らなかった。
『へぇ、そんなのがあるんだ』
『俺もシャーマンで三優等つけれるくらい頑張りたいな』
「その為にはまずは勝利を重ねて、技術ツリーで研究進めていかないととね」
二人の戦績や所有戦車も見てみるが、まあ…初心者だししょうがないかってレベルの勝率だった。
俺もやり始めの頃はこんなだったしな。
「二人共TierⅢまでは進んでるようだね。好きな戦車に一直線かと思ったら結構満遍なく色んな戦車で遊んでる感じにゃのか」
『ただ、ほとんどが負けてばっかりなんだよ~』
『俺も早くチャーフィー欲しいけど、好きな戦車であったとしても、実は他の戦車の方が使い勝手が良くてそっちの方が勝てるってのがあるかもしれないからね』
それはわかる。
戦車の知識があっても、その戦車が好きだったとしても、実は遊ぶにあたって別の戦車の方が使い勝手が良いというのはよくある事だ。
「しかも、チャーフィーはかなりナーフされてるみたいだからなぁ…」
チャーフィーも持ってるので野良試合で出撃してみたけど、何か操作性悪くなってるし弾の威力も下がってる気がして調べてみたら、やはりナーフされてた。
ナーフって本当に悲しいよな。
『え?それマジ?』
「マジのマジ。昔に比べたらかなりナーフされてるよ」
スマホの向こう側から悲しそうなうめき声が聞こえてきた。
目指しているお気に入りの戦車が、すでに弱体化済みだとそりゃ気分も萎えるわな。
「俺のおしゅしゅめは勿論ルクスだ。三十ミリ機関砲は装填には時間かかるけど、全部貫通すれば一瞬で三百ダメージを与える事だってできるし、かんちゅーりょくが高い。しかも移動速度も速いしいんぺー率も高いから、普通にこのTier帯なら強戦車だと思ってるぞ」
だからこそ、敵にルクス三体でプラを組んでるのを見かけると恐怖を覚えてしまう。
野良試合で後からプラを組んだのは、経験値ボーナスが欲しいだけだろうから問題ない。
でも、開始時点ですでにプラを組んでいるのは、音声でのやりとりをしている可能性だってあるし、連携がかなり取れているのだ。
これが軽戦車と中戦車と自走砲でのプラ、とかなら問題ないけれど、ルクス三体の小隊は本当にやばい。
まず、確実に三体が固まって突撃してきて、囲まれて蹂躙されてしまうからだ。
まあ、だからこそそんな相手に勝つ事ができた時には「どうだ!俺の方が優秀なルクス使いだ!」って気分も良くなるんだけどね。
メチャクチャ早口でそんな事を語ってしまい、二人が少しだけ絶句していた。
しかも、ただ早口なだけならまだしも、途中が噛み噛みだったのがなんとも…。
気を取り直して、俺達はプラを組んで試合を開始した。
二人はまだゲームを始めて間もないので、どう動けば良いか判断ができずにとにかく敵戦車が発見されればそこに向かっていって砲撃をしていた。
「慎吾、もう少し下がって車両角度も変えた方が良い。そこだとその更に後ろにいる駆逐から攻撃を喰らうし、角度が付いてないせいで砲弾弾けないから」
『そうなの?わかった』
慎吾はすぐに少しだけ後退して、敵の砲弾を弾きやすい角度を取る。
「うん、悪くない。そこならもうちょっとだけ攻め込んできた敵戦車に自走砲の攻撃だって通るだろうし、敵の駆逐からの攻撃は通らにゃいはずだ。あ、でも自走砲からの攻撃が飛んでくるかもだから、止まらずに前後に動いたりはしろよ!」
『りょーかい』
『リリーちゃん!俺は!?』
「ごめん。守はもう無理だと思う。そろそろ…あ、死んだ」
わたわたと慌てて指示を求めてきた守だったが、前に出すぎていた。
集中砲火を浴びた上にとどめの自走砲の砲撃が直撃したのだ。
「まさに、だんちゃ~く、今!って感じでやられたね」
『うぅ…悲しみ…』
「まあ、せっかくだから画面を俺のに切り替えて、動きでも見ててよ。これが軽戦車で求められる動きだから」
そう言って、俺は茂みを使って隠れつつ少しずつ前へと進んでいく。
このゲームは、ある意味陣取りゲームである。
どれだけ自分達に有利な場所を取り、そこから陣地を広げていくかが大事である。
その為、攻撃力は低いが索敵能力の高い軽戦車の動きはとても重要なのだ。
軽戦車が多い試合は泥仕合になる事が多いが、軽戦車の少ない試合は、軽戦車が生き残っている方が勝つ。
それくらい、軽戦車は生き残る事が重要であり、大事な存在なのだ。
俺は守に『見せる』試合をしながら、ゲームを楽しむ。
こうして、誰かに教えながら何かをするのは久しぶりな気がする。
そうだ、この感覚は後輩にバスケを教えているような感覚だ。
懐かしい感覚を味わいながら、俺はゲームを続けた。
この戦車のゲームは、基本的に敵味方十五台ずつの合計三十台で戦闘をするゲームである。
そして、戦闘終了後の結果なのだが…。
「十三対ゼロ、こっちでやられたのは守と知らない誰かだけだな」
『悲しみ…』
たまにある圧倒的な勝利である。
今回、自分が索敵していた方面が問題なしと判断した俺は、すぐに反転して別の場所の索敵を開始した。
乗員が育っている為、敵に発見された場合にはアラートが鳴るスキルが付いている。
だが、発見されたアラートは鳴る事なく戦闘が終わり、俺は一度も敵に見つからずに戦闘に勝ったのだった。
『リザルトは…リリーちゃんがトップスコアだね』
『俺は、下から三番目か…でも、一ダメージも与えてないのに最下位じゃないんだな』
「アシストポイントだろうね。最初に集中砲火浴びた時に何台か発見してたみたいだし」
むしろ、生き残ってるのにスコア最下位のやつは一体何をしていたのだろうかと疑問に思う。
たまに、戦闘開始直後から放置してる人いるからなぁ…。
『しかし、リリーちゃんの動きは参考になったよ。軽戦車ってあんな感じで動けば良いんだね』
「無理に攻撃はする必要はないよ。んで、見つかったなら無理せず逃げる事。とにかく最後まで生き残るのが軽戦車にとって重要な事だから」
ちなみに、今回の戦闘で俺は一発も撃ってない。
与ダメージはゼロなのに、スコアトップなのである。
それだけ、敵車両を発見してそのアシストポイントを稼いでいたという事だ。
「まあ、これのせいでダメージレーティングが全然上がらないんだけどね…」
あちらを立てればこちらが立たず、というやつである。
まあ、逆に軽戦車なのにアシストポイントを全然稼がずに自分だけで三千ダメージを与える戦闘とかもあったりしたけど。
そんな感じで、俺はクラスメイトである慎吾と守と共に戦車のオンラインゲームを楽しんだ。
軽戦車だけでなく、中戦車や駆逐戦車の動き方なども教えながらプレイしていたので、二人はメキメキと腕を上げていく。
重戦車や自走砲に関しては、俺が扱い苦手だからあんまり教える事はできなかったけどね。
こうして誰かと音声通話をしながらゲームをするのは初めてだったから、意外に楽しくてハマりそうだ。
でも、あんまりハマりすぎて時間を忘れないようにと、俺達は一日一時間だけ小隊を組んで遊ぶ事を決めるのであった。
最近、Ⅲ突でプレイするのにハマってます。
十榴じゃない75mm砲の方が扱いやすい事に最近気が付きました。
あと、ネタとしてM3Leリーとか書きたかったけど、やめました。




