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第四十六話 転性編『花蓮の仕事』

第五話から数日後の話です。

 婆ちゃんが仕事で出かけている間に、俺は家の掃除をしていた。

 かなり広い家なので、掃除する場所が多すぎて大変だ。でも、お世話になっているのだからしっかりと頑張らなきゃ。


 そうして昼食を食べ終わった後も、俺は掃除を続ける。

 今日は婆ちゃんは仕事の仲間と外で昼食をとるとの事だったので、俺の昼食は簡単に炒飯で済ませた。

 そして、今はリビングで掃除機をかけているところである。


「ん~…今日の夕食は何にしようかなぁ」


 料理本とインターネットで色々な料理のレシピを見始めてから、俺の料理のレパートリーはだいぶ増えてきた。

 もうちょっと涼しい季節になったら煮物なんかにも挑戦してみたいと思っている。


 今日の夕食の事や、今後の料理の事を考えていたら、リビングのドアが開かれた。

 掃除機の音で足音も何も聞こえなかったので思わず驚いて振り向く。


「びっくりした…婆ちゃんか。おかえり」

「ただいま、リリー」


 仕事と言っていたので、てっきり夕方頃に帰ってくるかと思っていた。

 まさか昼少し過ぎに帰ってくるとは思っていなかったので、リビングのドアから入ってきたのは婆ちゃんではなく不審者かと思ってしまった。


「…?」


 そこで俺は首を傾げる。

 婆ちゃんの後ろには、見慣れぬ男性が立っていた。


「あぁ、こやつはワシの客じゃ。掃除しているところすまんが、リビングを使わせてもらうぞ」

 俺の視線のあとを追って、婆ちゃんが後ろに立っていた男性を軽く紹介してくる。

 ふむ、お客さんか。



 婆ちゃんと男性は、ソファーに腰かけて仕事の話を始める。

 俺がまだリビングに残っているのに商談を始めるという事は、聞かれても問題のない話という事か。

 それでもリビングに留まるのはあまり良くはないと思って、俺はリビングを出ていこうとした。

 でも、その前にやりたい事が一つ思い浮かんでしまった。



「どうぞ」


 向かい合って座っている二人の間のテーブルに、俺は淹れたての紅茶とクッキーを置く。

 先日、紅茶の美味しさを知って淹れ方を教わった俺は、自分や婆ちゃんだけでなく、他の誰かにも紅茶を淹れてあげたくなったのだ。

 もちろんクッキーも俺の手作りである。


「これはこれは、ありがとうございます。可愛いお孫さんですね」

「そうじゃろう!リリーは世界一可愛いからな!」


 相手のお世辞に、婆ちゃんはこれでもかというくらい食いつく。

 確かにリリーは可愛いけど、流石に世界一は言い過ぎじゃないかな?

 …いや、婆ちゃんの事だから本気だろうな…よしんば世界一じゃなかったとしても「世界一位じゃ」とか言いそうだし。


 まあ、それはおいといてやりたい事は達成できた。

 誰かに紅茶を淹れる事と、来客をもてなす。これが俺のやりたかった事である。

 満足した俺は静かに頭を下げて後ろに下がり、お盆を片付けたあとにリビングを出ていった。




「さて、流石に他の部屋の掃除をしても、掃除機の音が邪魔ににゃるだろうから部屋にでもこもりゅか」

 九月から近くの中学校に通う事になるし、先日購入した教科書でも読んで予習(転性前を含めたら復習)でもしておくか。

 声に出して読んで、発声練習も兼ねよう。ここまで噛み噛みだとこれから送る中学生活が恥ずかしい事になる。

 それからしばらくの間、俺は国語の教科書を音読して今後に備えた。



 大体一時間くらい経った頃だろうか。廊下から二人分の足音が聞こえる。

 その足音は玄関の方へと向かっているので、おそらくはお客さんが帰られるのだろう。


 ほんの少しすると、俺の部屋のドアがノックされる。

「リリー、気遣いありがとうな。客はもう帰ったからの」

 ガチャリとドアが開いて、顔を覗かせた婆ちゃんが報告をしてくれる。


「ん、わかった。じゃあ、掃除の続きでもしようかな」

 俺はぴょんと立ち上がり、婆ちゃんと一緒にリビングへと向かう。

 その時、ふと婆ちゃんの仕事の事が気になったので質問をしてみた。


「そういえば、婆ちゃんの仕事ってどんな事やってんの?」

「ん?ここ最近のワシの主な仕事は製薬じゃな」

 製薬をしていたのか。


「まあ、他にも機械のプログラムや基盤を作ったり、リリーの入院しとった病院で外科医なんかもやっとるがの」

 流石天才を自称するだけはある。



 婆ちゃんの本職は科学者だそうだ。

 最近はあまり科学の研究はしていないそうだけど。


 婆ちゃんは化学者でもあり、郊外に建てられたキチンとした研究施設などで様々な薬を混ぜ合わせたりして医薬品や化粧品なんかを作っているそうな。

 自宅の研究室に置かれているのは基本的には持ちだしても問題のない程度の薬だったりするから、研究をするにも限界があるらしい。だから、婆ちゃんはたまに研究施設へと出かけたりする。


 医療免許なども持っていて、俺の入院していた病院で手術のヘルプなんかに呼ばれたりもするらしい。

 科学者でもあり、化学者でもあり、そして医者でもある。凄いな。なんというハイブリッド婆ちゃんなんだ。

 マンションもいくつか持っている資産家でもあるし…。



 先ほど婆ちゃんも語っていたけれど、ここ最近は主に製薬に力を入れているらしい。

 これは掃除が終わった後の休憩中に婆ちゃんと紅茶を飲みながら聞いたのだけど、婆ちゃんの息子、つまりはリリーの父親は製薬会社に勤めていたらしい。

 リリーの父親が製薬会社に勤め始めてから、科学よりも化学の方を優先して研究し始めたそうな。


 医薬品なんかも作ったりするけど、どちらかと言えばサプリメントを作る方が好きらしい。

 ビタミンサプリメント何かに特に力を注いでいたそうで、婆ちゃんが見た目若い肌をしているのは自分で作ったサプリメントの効果だそうな。

 凄いな。サプリメントってそんなに効果があったのか。

 そのサプリメントは大手化粧品メーカーから販売される事になって、かなりの売り上げを誇っているようである。


 元々婆ちゃんの造る医薬品やサプリメントは、どの製薬会社も「是非我が社で販売させてほしい」と懇願しにくるくらい実績があり非常に評価の高い物だった。

 婆ちゃんとしては、自分の生み出した医薬品やサプリメントが世の中の人の為になるなら扱う企業はどこでも良いと思っていた。

 でも、婆ちゃんの息子・リリーの父親が製薬会社に勤め始めた事をきっかけに、主にその製薬会社に研究結果を譲渡し始めたそうだ。

 せっかくなら息子の為にと行動を起こしたのだろう。それ以降、婆ちゃんは製薬に力を入れていたそうである。



 そして家族を失う事故が起きてからは、製薬もするが医者としての活動の方に力を入れたらしい。

 それも、全てはリリーの為だ。


 脳移植をして、俺がリリーとして目覚めてからは段々と医者の活動も減ってきて、なるべく家で一緒にいられるようにまた製薬の方に力を入れ始めたと。

 そして今日やってきたお客さんは、その製薬会社の人だったそうな。



 婆ちゃんって本当凄い人なんだな。改めて思い知らされるよ。

 …まあ、(リリー)の前ではただの孫娘好きの婆さんになってるけど…。





大手化粧品メーカーのところに、『姿勢どう?』とか『オネボウ』とか入れたかったけど、やっぱりやめました。

ここに書いてるのは、あくまでも後書きだからです!

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